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君の前前前世から僕は君の袖を捉えたよ

ガタン、と扉の開く音が背後から聞こえた。

ん?女房かなぁ。

お手伝いメイドさん的役割である「女房」たち一人とっても、常陸の女房と二条院の女房は全然違う。土地は勿論のことだけれど、きっとこういうのって経営者の人柄も出るのよね。同じチェーン店でも、店長さん次第でバイトの待遇とか接客の質も全然違うっていうし。


人が来たんなら、どれ、顔の一つも隠すかぁ。

平安ってほんと面倒くさいなポイント、これね。女は顔隠す文化ね。扇(要するにセンス)とか御簾すだれみたいなやつで顔を隠さないといけない。男に顔を見られるなんて、裸を見られるくらいの辱めなんだそうだ。

ま、扇で顔隠しとくだけでなんだか「姫」っぽさが出る気がするし、前向きに捉えよう。

よく考えたら現代でも、常にマスクしてる女の子いるよなぁ。もしかしてあれも、顔を見られるのを辱めだと思っている平安文化の再燃なのかもしれない。


なんだかそう考えると、やっぱり。

日本人って進歩ないのね。


ああ、なんか足痺れちゃったな。座り直そう。

グッ。


ん?

グググッ……。


袖が動かない。

あれ?この着物こんなに重たかったっけ?


重たい袖のほうを振り返るとーー


「女ァ!」

「ぎゃああああああ!」

私の袖を引っ張って動きを奪いながら、慣れた様子で襖をピシャッと締め切ったその男は、袖を伝って私との距離を詰めて来る。

ち、近い!そして今私足が痺れている!痛い!体重かけんな!

顔と顔がくっついてしまいそうなくらい、男は私に接近して、騒ぐ。

「女!女!女女女女!お!ん!な!見たことがない女がいるぞ!扇越しでもわかる!なかなかカワイイ顔をしているではないか!こんなところでなにをしている?ん?こっちを向け、ほらほら!」

うわああああああんなにこの人!馴れ馴れしいにもほどがあるよおおおおお!


「……や、やめてくださいまし……。」

懸命に「姫っぽく」応対してみる私。すると男は、騒ぐのも、迫るのもやめた。あ、あれ……。急な変化に、ちょっと寂しくなる。

「……すまない、急に騒いだりして。驚いたろう。」

「い、いえ、そんなことは……。」

ある、けど……。さっきまでのがっついた様子はどこへやら。急に甘えたような声音で優しく語りかけてくる。

男は、そっと私の手を捉えた。高鳴る鼓動。


「……君の名は?」

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