都会には「なんでもある」がある中で一途に生きるにはチューが必要
「おじゃましまーす!」
私は元気よく、京都・二条院へと入っていった。
「いらっしゃい、浮舟。お構いもできないけれど、自分の家だと思ってゆっくり過ごしてね。」
そう言って迎え入れてくれたのは、私の異母姉にあたる中の君。この二条院の女主人。
「ありがとうございます!」
ここ二条院は、かつてはかの有名な主人公・光源氏が妻の紫の上と暮らし、今は中の君が夫の匂宮と住んでいる。でも、住んでいる、とはいっても、匂宮はずっと二条院にいるわけではない。なにしろ平安は一夫多妻。奥さんはたくさんいるのだ。
「主人――匂宮には、見つからないように気をつけて……。こちらの都合で浮舟のお部屋が端になってしまって、ごめんなさいね。」
「いいえ。常陸の家とは比べ物になりません。あそこには、私の居場所はなくて……。本当にありがとうございます、お姉さん。」
そう。劣悪な家庭環境に嫌気がさした私は、はるばる京の都を目指して家出。血縁者である異母姉・中の君の家に転がり込んだ。
……というのは冗談、というわけでもなくて。勿論正当な手続きと打診は行った上で、「庇護してもらう」という名目で、母上同伴で二条院までやって来たのだった。
なぜそういう話になったかと言えば、一つには、「こんなド田舎、いつか絶対に出て行ってやる!東京で一旗あげてやるぜ!」的ななにくそパワー。現代でいう「東京」とは、ここでは京都のこと。今なら関東圏に属する常陸=茨城県も、京都が中心の平安時代にあっては最早外国扱い。とにかく物語の中心地・京の都へ上京する!これが私の第一命題だった。
そして二つには、異母姉である中の君、そしてその夫である匂宮の縁を利用すること。どうやら私の容姿は悪くはない、むしろ優れているらしい。
そうなれば、それを利用しない手はない。きっとこれは巡り合わせ!「無難」で「そこそこ」で、権力ほしさに金ピカに擦り寄るような男は、私には端から釣り合わなかったに違いない!相手は長谷寺で出会った薫くんかもしれない……まだ会ったことないからよくわからないけど匂宮さんかもしれない……あるいは、もっともっといい御縁があるかもしれない……!
なんにせよ、きっとこの場所から、浮舟の素敵な恋愛物語がスタートするはず!二股はかけない!一途に強く生きる!これよッ!
なにもかもの中心・京の都で、幸せな恋愛をして、幸せな結婚をして、幸せに暮らす。これが常陸の家への復讐であり、私の創る「新編 源氏物語」の構想なのよ!
と、思っていたのに。
「ただいまぁ~!俺の中の君~!元気にお留守番してくれてたかい?俺の可愛い若君もこっちへおいで~!ちゅっちゅ~!」
「宮様、今日はおいでにならないのでは……。」
「俺たちの可愛い若君が、俺の帰りを待っているんだぜ……。帰ってくるぜ、何度となくな!」
中の君の旦那・匂宮は、私の想像よりも長く二条院に留まっていた。




