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狐のお店  作者: 105 秋
7/12

07:『見合い』


 翌朝。

 目が開いたら七時。


 俺にしては早い方だが、それより農家の朝は早い。

 もう動き出している音がする。


 でも寒くて布団から出たくないなぁ。布団は暖かい特に右側が・・

 そう思って右に顔をやると菜衣が同じ布団に寝ていた。

 あわてて起きる。

 うん俺の布団だ。どうやら向こうが入ってきたみたいだな。


 セーフ。

 何がセーフかわからないが、俺から入っていってないのでセーフ。

 個人的にセーフ。


 菜衣を起こす。

 ばあさんが起こしに来る前でよかった。

 朝から曾孫がどうだのと言われたら面倒臭すぎる。


 「あ、おはようございますぅぅぅぅzzz。」


 どうやら菜衣さん。朝は弱いらしい。


 「おはよう。起きろ。」

 「はいぃ」


 とりあえず着替えるが、こっちの着替え終わっても起きやしない。

 寝かしておいてやりたいが、人の布団で寝ているとこを見られたくもない。


 最終手段だ。


 「秘技『布団剥餓死!!』」。((副音声)説明しよう:布団剥餓死とは寒い朝、暖かいかけ布団を無理矢理剥がす技だ。)

 「寒い。」


 さすがに目を開ける。

 その隙に菜衣の布団も畳んでしまう。


 「俺は隣に行くから、着替えて出て来いよ。」

 「はい。」


 まだ寝ぼけていそうだが大丈夫だろ。


 「おはよう。」

 「おはよう。菜衣さんは?」

 「もうすぐ来ると思うよ。今着替えているはず。」

 「あらそうなの。今日はこっちがいいと思って用意したのよ。」


 別の着物を着せたいらしい。

 それは任せて顔を洗いに行く。

 洗面所では叔父さんが髭剃って髪整えていた。


 「おはよう。」

 「おはよう。お前も髭剃れ。」


 電気シェーバーを渡してくれる。

 そういえば、剃ってなかったな。


 「ありがと。」


 ひげを剃って戻ると菜衣が昨日とは違う着物を着ていた。


 「ほら、大介何か言ってあげなさい。」


 何かって言われても・・・。

 とりあえず思ったことを言うか。


 「昨日より落ち着いている感じがしていいと思うぞ。顔洗って前髪がはねてるの直したらもっと良いとは思うけどね。」

 

 その言葉で顔を赤くした菜衣がぱたぱたと洗面所へ駆けて行く。


 「まったく意地悪なんだから。」


 意地悪した罰が当たったのだろう。

 その後の朝食で味噌汁とズボンにこぼした。

 そして着物カップルの完成である。


 「これで行って良いのかな。」

 「大丈夫じゃないか。駄目でもズボン無いのだからしょうがないだろ。」


 叔父さんのズボンも爺さんのズボンのサイズが合わなかったのだ。作業着なら大丈夫だったけどまさかお見合いの場に作業着で行くわけにもいくまい。

 結局乾かず、諦めてそのまま着物でお見合いに行くことにした。


 「なんかお前達の方が見合いしそうだな。なんかそのせいか非日常って感じがしてかえって緊張しないな。」


 これは叔父さんの言。

 お役に立てて光栄です。


 十分前に着くとお袋はもう待っていた。


 「相手はぴったしくらいになるそうよ。先に入ってましょ。」

 「私はちょっと散歩してきます。」

 「あら一緒でも良いのよ。」

 「いえ。」

 「良いんだよお袋、外にいる方が菜衣も気楽だろ。」


 頷くと菜衣はとことこ歩いて行ってしまった。

 個室に入って待っていると相手は十一時二分前にやって来た。

 着物姿が居るのでちょっとぎょっとしていたが、すぐに気を取り直した模様。


 「こんにちは。お待たせしましたか。」


 と、向こうのお母さん。


 「こんにちは、全然待っていないですよ。」


 これは叔父。


 「本日は急遽変更になりまして、失礼しました。失礼をお詫びする為にこうして参りました。」


 これは俺。


 「堅苦しい挨拶は良いでしょ。今日は気軽なお食事会。ね。」


 そして、お袋。

 向こうの二人も異論はないようで。


 「そうですね、今日は十一時と聞いていたので早めにご飯食べたんですよ。」


 それでもお互いに自己紹介をして始まったは良いが、話すのはおばさん二人。

 最初はお互いの良いところを言ったりしていたが、そのうちに内容は井戸端会議へ変貌。


 そんなおばさん達を横目に二人を観察していると、向こうはちらちら叔父さんを見ているし叔父さんもまんざらではなさそうだ。


 だから、口を出すことにした。


 「ちょっと二人で話していないで、こっちの二人にも話しさせてあげなよ。」


 とそっとお袋に耳打ち。

 おばさん二人バツの悪そうな顔をしたけど今日はお見合いですからね?


 「それじゃあ、後は若い人に任せて。」


 とお決まりの文句を言って席を立つ。

 もちろん俺らも席を立とうとするが、叔父がこっちを見てくる。

 そこは叔父さん頑張らなきゃ。

 そう思ったけど着物の裾を掴んで来た。

 仕方なしに俺は残る。


 「最初は大介さんが来られる予定だったんですよね。」

 「はい。彼女いるの隠していたらお袋が勝手に決めていまして。申し訳ない。」

 「いえ、それは気にしないでくれて良いんですよ。大介さんはお見かけしたこと無かったですから不安だったんです。」

 「それじゃ、叔父を見たことは会ったんですか。」

 「ええ、何度か。叔父様なの?」

 「はい。大介の母とは年が離れていまして、大介との方が近いんですけどね。」

 「おいくつなんですか。」

 「今年三十九になります。代わりがこんなオジサンで申し訳ないですね。」

 「いえ、私恥ずかしいのですが、今年三十四になりますのそんなに離れていませんよ。」


 三十四だったか。

 ほら言った通り、年のことは関係なかった。

 どうやら会話ができて来たので、お役御免と席を立つことにする。


 「それでは、僕は帰らないといけないものでお先に失礼します。叔父さん頑張って。」

 「おう、またな。」

 「外で待っている彼女さんにもよろしく。」


 と、くすくす笑っている。

 外を見ると車に寄りかかって暇そうな菜衣が居た。


 店の入り口にはお袋達。


 「どんな感じ。」

 「どんな感じって、普通にしゃべり始めたから出て来たよ。」

 「そう、よかった。」

 「私達、これからお茶しながら二人が終わるのを待つけど、一緒にお茶する?。彼女さんも一緒にどうぞ。」

 「いえ、これから漁港に寄って帰らないと行けないので、失礼します。」


 おばさん達の井戸端会議には付合っていられないし。


 「そう、残念ね。また帰って来なさい。」

 「漁港に寄るならうちの人にこれ渡してもらっても良いかしら。お弁当なんだけど、朝持たすのを忘れちゃって。」

 「わかりました。」


 お弁当箱を受け取る。


 「それじゃ、失礼します。」

 「よろしくね。」

 「またね。」


 車の所に向かう。


 「待たせたな。暇だったろ。」

 「今、帰って来た所だから。」

 「嘘つかなくていいぞ、部屋からここ見えたから。ほらあそこで手を振っている。」


 叔父さん達が手を振ってくれている。

 菜衣も手を振り返すと車に乗ってくる。


 「上手くいくと良いね。」

 「本当にそうだな。」


 急遽のお見合いだったが、これを縁に上手くいけば目出度いことだ。


 「これから漁港寄って帰るからな。」

 「はい。」


 いい笑顔で返事をする。

 本当に瑞千穂に会うのが楽しみな様だ。

 漁港に行くと丁度親父と漁協長が一緒に居た。

 何か話しているみたい。


 「大介君か、でかくなったな。」


 ここ数年身長の変化はないのだけれど、小さい頃のイメージが強いんだろう。


 「これおばさんに渡してと言われまして、お弁当だそうです。」

 「おぉ、ありがとう。うちの娘はどうだった。」

 「良い感じでお話ししているようでした。この後は、二人次第って感じです。」

 「そうかそうか。片付いてくれると良いんだけどな。後ろにいるのは例の彼女かい。」

 「菜衣と言います。こんにちは。」

 「別嬪さんだな。こりゃうちの娘は勝てないわ。」

 「二人で何話していたんです。」

 「いや、上手くいったらお互い親戚だな。ってね。」


 そうだな、そうすると俺のじいさんみたいな物になるのか。


 「そしたら義父さんって呼ばないと行けないですかね。」

 「ははは。そうなれば良いな.」

 「そう、大介君魚貰いに来たんだって。」

 「はい。お土産と今後の店のメニューを考えようかと思いまして。」

 「あっちに用意しておいたよ。おいで。」


 親父を見る。


 「俺がいくつか貰っておこうとしたら気づいて一緒に用意してくれたんだ。」


 そういうことか。

 追って行くと端に寄せて置いてあった。

 箱には○大とでかでかと書いてある。大介用ということだろう。


 「これだ。中身は色々だから帰って開けてみてくれ。このクーラーボックスは漁協に置きっぱなしになっていた物だから返さなくていいからな。」

 「ありがとうございます。」


 肩に担いでみるとなかなか重い。

 気合を入れて車に戻ろうとすると、再び声をかけられた。


 「こっちもだぞ。」


 となりの発砲スチロールの箱にも○大と書いてある。

 それも三箱。


 「そんなに沢山貰えませんよ。」

 「なに氷を沢山入れてあるし、今はもう寒いくらいだから大丈夫だよ。」

 「そうではなくて、こんなに沢山申し訳ないですよ。」

 「俺もそうは言ったのだがな。」

 「なに、親戚になるかもしれないし、これからお得意さんになるかもしれないからな。」

 「お得意さんってそんなに買えないと思いますよ。それに小さいのや、傷物を安く譲って欲しいと思っていたくらいですし。」

 「型がそろわないのとかは中々売れないし困っているんだ。気にしない。大介君の店の為にもね。」

 「今回は貰っておけ。ただ、次はこんなには無いからな。」


 毎回こんなに貰っていたら、食いきれないと思う。


 「わかりました。ありがとうございます。」


 車に魚を積むと、米と酒と着物ともう後部座席まで一杯だ。


 「じゃあ、またそのうちくるよ。」

 「おう、気をつけて帰れよ。」

 「別嬪さんもまたおいで。そしたらおまけしてあげるから。」


 そんな声に追われて港を出る。


 帰りはどのくらいかかるかね。


 

 

 

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