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狐のお店  作者: 105 秋
6/12

06:『祖父宅にて』

ちょいっと長いかもです。

トゥルルル

 「儂じゃ。」


 儂じゃって。


 「麻倉です。」

 「なんじゃ大介か。帰ってくるのか。土産は地酒で良いぞ。」


 また酒か。

 まぁいいけど。


 「いや、帰るのは明日にしようと思っている。一つ聞きたいんだが。」

 「なんじゃ改まって。」

 「瑞千穂さんは狐ですか。」

 「そうじゃと言っておるじゃろ。」


 うん。確認しただけ。


 「えっとな。そんな狐のお前と話したいそうだ。」

 「ばらすなというたじゃろ!!」


 電話口で怒鳴るなって。

 耳がきーんとする。


 「いや昨日の電話が聞かれていたみたいでさ。それはお前が言ったからでもあるんだぞ。」

 「それでもごまかすなりすればええじゃろ。このアホ。」


 アホはひどいな。

 その通りだけど。


 「とにかく会えないなら電話だけでもってことになったんだが。」

 「嫌じゃ。」


 むべもない。


 「なあ、」

 「嫌じゃ。」


プツッ・ツーツーツー

 切るなよ。


トゥルルル

 すぐに出てはくれる。


 「嫌じゃぞ。」

 「こいつ。えーと名前は?」

 「ないです。」

 「そうないさん。」

 「いえ名前がないんです。」


 名前がない?と思ったが瑞千穂にも聞こえていたらしい。


 「その名無しの権兵衛がなんなんじゃ。」

 「稲荷神社で出会ったし、お前との縁も浅からないと思うんだがどうだ?」

 「嫌じゃ。」


 おのれ、そこまで拒否らなくてもいいだろうに。

 電話くらい。


 「それにこっちも自称狐とか言うんだよ。お前が貸してくれた鈴を見て懐かしいから会いたいとも言っているしさ。」

 「それはお主にやったつもりじゃが、鈴を見て懐かしいとのう。」


 鈴に反応するって鈴は特別な物なのか?。

 しかし、そんな物くれてもいいのだろうか。


 「いいじゃろかわれ。」


 心配そうに見ていた権兵衛美人に渡してやると嬉しそうな顔をして飛びつく。


 「はい。」

 「先ほど丁度お天気雨が降って雨宿りしている時に。」

 「あ、そうですね。それで、藁にもすがる思いで。」

 「はい。そうです。」

 「一年前に突然。」


 断片的でよくわからないが質問でもされているんだろうか。


 「はい。ここら辺では全然。」

 「一人ではとても無理で。」


 なんか真剣だな。


 「大丈夫です。お願いします。」


 終わったようだ。

 電話を代わる。


 「儂じゃ。」


 そりゃそうだろ。


 「連れて来てよいぞ。」

 「は?良いのか?」

 「狐だと言っておるし、色々と話が合うのでな。最悪なんとでもなろう。」


 よくわからんが連れて行っていいと言うし、こっちは会いたがっているし俺が止めるよなことでもないだろう。


 「じゃあ明日帰る時に一緒に行くよ。出る前に連絡する。」

 「わかった。また明日じゃな。」


 電話は切れた。


 「来ていいってさ。」

 「はい。」


 目をキラキラさせている。


 「明日、帰るけど、何処で待ち合わせ」


ぐぎゅるるる

 する?とは言えなかった。


 「安心したらお腹減っていたのを忘れていました。」


 と恥ずかしそうに。美人の恥じらう姿もいいなって違う。


ピピピピピ

 電話だ。なんだこんな時に。


 「ちょっとゴメン。」

 「大介まだ来ないのか?」


 あ、じいさんだ。


 「待ちくたびれたぞ。」

 「今、川のところだ。」

 「なんじゃすぐだな。待っとるぞ。」


プチッ

 話すだけ話して切られた。


 「ちょっと、話は爺さんの所にいってからで良いか?」

 「はい。おまかせします。」


 とりあえずじいさんの所へ向かうため、車を発進させる。


 「さっきも言いかけたんだけど、明日帰る時に一緒に連れて行くけど何処に迎えに行けば良いかな?神社の辺り?。」


 あれ?あの辺あまり家がないぞ。

 今更気づくとは俺も抜けてる。


 「はい。神社の下でお待ちしています。」

 「あのさ、あの辺家なかったよな。」

 「そうですね。神社を住まいにしています。」


 あのボロい?

 そんなことを話していたらすぐに着いた。

 じいさんは外に出て待っていてくれた。

 庭に止めようとするとじいさんが入り口を指差して指示をくれた。


 「よく来たな。車はそこら辺に止めておけ。」


 せめて寄せておこうとしたが断られた。


 「ああ、寄せたりしなくていい。」


 車から降りもしないうちから


 「昼飯でも食っていけ。」


 と、立て続けに話してくる。

 こりゃ確かに元気だ。


 「顔見に来ただけだから飯はいいよ。人も乗せているし、あんまり長居しないで帰るつもりなんだ。」


 そこでようやく気づいてくれたらしい。


 「ずいぶんと綺麗な娘さん連れているじゃないか。一緒に飯食って行けば良い。彼女か?」

 「いや。」

 「ばあさーん。大介が別嬪さんの彼女連れてきたぞ。」

 「彼女じゃないから。」

 「彼女さんも一緒にご飯食べて行きなされ。たいした物はないが、婆さんの下手な田舎料理なら出るからよ。とりあえず降りた。降りた。」


 爺さんにせかされて二人して車から降りる。


 「なんでしたら、明日のお時間だけ言って下されば、私歩いて帰りますよ。」


 こっそりと声をかけてくれる。

 そうだな。見合いってのは何時に終わるんだろう。


ぐぎゅるるる。ぐーー


 「食わせてくれるらしい、飯食ってから決めようか。」

 「す、すいません・・・」

 「はは、婆さん急いで飯にしよう。ほら遠慮せずに上がれ。」


 じいさんは、とっとと歩いて行っちまう。


 「まぁいいんじゃないか。行こう。ただ、余計なことは言わないでくれよ?。」


 私は狐なんですとか言われた日にゃ顔出せなくなる。

 もしくは病院行きだ。


 「はい。もちろんです。」


 俺の後について家へ上がってくる。

 裸足だ。

 今更気づく俺も俺だがこの時期にキラキラしたサンダルに服は男物っぽい。

 ぶっちゃっけ美人なのに似合わない。

 正直変な格好だと思う。


 気にしたら負けか?




 じいさん家には久々に来たけど、子供の頃はしょっちゅう来ては泊まっていたので懐かしさがある。

 炬燵が出してある。

 さっそく入ると美人さんも隣に座る。


 「温かくて幸せですね。」


 異議はない。

 炬燵は確かに幸せだ。

 部屋にも置きたいな。


 「じいさん。小さい炬燵余ってないか?」


 物はためしだ。

 聞いてみるた。


 「ないな。」


 ばっさり。


 「久々だね。よく来たね。」


 早速、ばあさんが食べ物を持って来てくれる。


 「何もないけど、お米だけは売る程あるから、いっぱい食べてね。」

 「あ、手伝います。」

 「いいのよ。お客さんは座っていて。」


 てきぱきと色んな物を運んでくれる。

 ばあさんも元気きそうでなによりだ。


 「さて、ちょっとお昼には早いけど食べましょ。」

 「頂きます。」


 カボチャの煮付け・蒟蒻の甘辛いため・ニラのおひたし・レンコンの挟み揚げ・豚汁に佃煮とタクアン。

 それと忘れちゃ行けない、ぴかぴかのお米。


 「若い娘さんのお口に合うかわからないけど遠慮しないで手を伸ばしてね。」

 「ありがとうございます。」


 そう言いつつも婆さんが色々取ってやっている。


 「美味しいです。もう大丈夫です。」


 そうそうそんなに取っても食いきれないだろ。


 「大介も食っているか。」

 「うん。」

 「娘さんも腹が鳴っていたくらいだし沢山食べな。」


 じいさんも気を使っているようだ。


 「それで大介の彼女なんですって?」


 婆さんがお袋の様に切り込んでくる。

 こりゃ血か?それとも女性は歳を経たらこうなるのか?

 とりあえず否定しておく。


 「違うって。勝手にじいさんが言っているだけだよ。」

 「じゃあ何なんだい。」


 そう言われると困る。


 「あの、大介さんには親切にしてもらいまして。」


 美人さんが口に飯をほおばりながら助け舟を出してくれる。


 「そうなのかい。」


 ばあさんはいまいちピンと来ないようだが、そりゃしかたがない。

 俺でもなんで一緒に飯食っているのかよくわからないのだから。


 「はい。明日は一緒に帰るんです。」


 おい。


 「ほほう。一緒にね。」


 じいさんがこっちを見てくる。

 明らかに疑っているぞ。


 「ただいまー。」


 叔父さんが帰ってきた。話題を変えよう。


 「おかえりなさい。お邪魔しています。」

 「お、大介か。」

 「お邪魔しています。」


 さすがに箸をおいて挨拶する。


 「表のMINI大介のか?」

 「うん。ちょっと人のを借りているんだ。」

 「やっぱりそうか。さっき川の向こうで結構長い間、止まっていたよな。何していたんだ。」


 どっかりと炬燵に座りながら聞いてくる。


 「そう?そんなに止まっていたかな。」

 「ちょっと田んぼ見に車で通ったらこの辺で見ない車があったからな。大介かとも思ったんだが、何やら取り込み中に見えたから声かけなかったよ。」


 確かに取り込んでいたけど、そんなニヤニヤするようなことはないぞ。


 「あらやっぱりそうなのかね。」

 「なんか見た時は向かい合って話していたぞ」


 話題が戻ってしまった。


 「それで娘さんの名前はなんて言うのだい。」


 じいさんまで興味津々かい。


 「私ですか。私の名前はな・・」

 「あーーーー」

 「どうした大介いきなり。」

 「叔父さん結婚しないのかってお袋が心配していたよ。」


 我ながら苦しい。


 「そんなのはいつものことだよ。一回り以上違うといつまでも子供扱いなんだから。」

 「子供扱いなら結婚しろとは言われないだろ。」

 「いいんだよ、俺はそのうちで。それよりも大介はどうなんだ?」


 隣を見ながら聞いてくる。


 「明日、お見合いするんでしょ。」


 お袋ばあさんにも話したのか。


 「そうなのか。こんな綺麗な彼女が居るのに。」


 皆が俺を見てくる。


 「いや、食事するだけだよ。いきなりお袋が決めちゃったんだ。」

 「そうか、安心したよ。」


 ん?安心した??


 「それでお名前はなんでしたっけ?」


 あー名前、名前。まさか正直に無いなんて言えないし。


 「名前はね、ない。そう「菜衣」って言うんだよ。」

 「菜衣さんね変わった名前だね。」


 名前が無いから「ない」だなんて、我ながらセンスが無いとは思うがとっさに浮かばなかった。

 口を会わせろと菜衣を見ると、笑って任せて下さいとばかりに頷く。


 「はい。大介さんにはいつも菜衣って呼ばれていますから、皆さんもそう呼んで下さい。」


 もう、いつもとか言ったら余計怪しまれるだろ。


 「昨日は泊まったのかい。あの娘そんなことは言っていなかったけどねぇ。」


 まずい。


 「いえ、今日いきなり来ちゃったんです。自然が綺麗だと大介さんに聞いていたので見たくなりまして。」

 「自然といっても山と海と田んぼと畑しかないけどな。若い娘は町の方が良いんじゃないかい。」

 「本当に、この辺は綺麗ですよ。山には昔ながらの自然が残っていますし、海も綺麗だと思います。」

 「そうだね。この辺は狐なんかも出るんだよ。都会の人には珍しいかもね。」


 狐と聞いて大丈夫かとちょっとびびったが。


 「そうですね。狐達もどんどん住めるところが無くなってきていますから。」


 なんか寂しそうだ。


 「そうだ。明日俺の代わりに叔父さんが行けば良いじゃないか。」


 もういっそ彼女ということにしておいて、明日を叔父さんに任せよう。


 「あら、それ良いわね。」

 「いや俺は年だからダメだよ。相手に悪い。」

 「いいじゃないの。会ってみないとわからないわ。相手は誰なの?」

 「直接は知らないけど、漁協長の娘さんだって。」

 「ほらスーツとかも無いしさ。」

 「平服で大丈夫だと。」

 「田んぼが。」

 「俺が行っといてやる。なぁに一日くらい一人でも大丈夫だ。」


 もう逃げ場は無いぞ叔父さん。ゴメンね。


 「せめて大介一緒に行ってくれよ。」


 嫌というか、照れているだけなんじゃないだろうかこれは。


 「いいよ。」


 途中で抜けちゃいますけどね。


 「それじゃ決まりね。あの娘には私が電話しておくわ。あんたはすぐに床屋さんに行って来なさい。そんなぼさぼさじゃ相手に失礼よ。」


 ばあさんやる気だな。


 「そうかなぁ」


 そう言いながらも素直に行くようだ。

 叔父さんガンバレ。


 「じゃあ、大介また明日な。詳しいことはお袋達が話して決めるだろ。」

 「うん。また明日。」


 そう言って、叔父さんは床屋へ行った。

 婆さんはまだ電話をしている。

 菜衣のこととかも話しているみたいで長い。


 「母娘の電話でも女の電話は長いもんだ。」


 と爺さん。その通りだと思う。


 「ふぅ。ごちそうさまでした。」


 そんな中でも、もくもくと食っていた菜衣もお腹いっぱいの模様。


 「よう食ったもんだ。」

 「すいません。」


 恥ずかしそうにしている。


 「いやいや、そうゆうことではなくてな、よほど腹が減っていたんだと思ってな。」


 激しく腹も鳴っていたしな。


 「温かいご飯がおいしくて、それにお米が美味しかったです。」

 「それはそれは、米農家には嬉しいことを言ってくれる。そうだ、今食ったのもそうだが、新米を持って行け。一人暮らしには多いだろうが、大介と分ければよいしな。」

 「いえいえ、それは。」

 「遠慮するもんじゃない。孫に遠慮されちゃ祖父やっとれん。」


 こっちをちらちら見てくる菜衣。


 「貰って行こうか。」


 瑞千穂達にも分けてあげれば良い。


 「後で車に積んでやる。」

 「ありがとうございます。あのすいません、おトイレお借りできますか」


 食ったら出すのか。

 もちろんそんなデリカシーの無いことは言えません。


 「そこ出て右にいった突き当たりの左のドアだ。」

 「すいません。お借りします。」


カラカラ。

 菜衣は行ったしちょっと聞いてみるか。


 「じいさんちょっと聞きたいんだけど良いかな。」

 「どうした。いいぞ。」

 「途中に在る神社のことなんだけど。」

 「あの稲荷神社か。」

 「うん。来る途中寄ってみたんだけど、ずいぶんボロいね。」

 「儂らこの辺の農家何件かが持ち回りでたまに掃除はするが、人が参らないとなかなかな。」

 「あの神社って神主さんとか居るのか?。」

 「いや、居ないな。昔は通いで来てもらっていたんだが農家の数も減ったしいつの間にか来なくなっちまった。」


 じゃあそこに住んでいるって変な話だな。


 「そうしたいきなりそんなこと聞いて。」

 「うん。ちょっとね。」


 まさか、本当のこと聞く訳にも行かないし。


 「そういや、店をやるんだってな。」

 「お袋が言っていたか?」

 「職につけたは良いけど不安だってさ。料理あんまりできないんだって言うじゃないか。」

 「うん。」

 「なるべく自炊してみるんだな。米はやるからたまには取りに来がてら顔出せ。彼女と一緒でも良いからよ。曾孫の顔も見せてくれてかまわんしな。」

 「ありがとう。たまには顔出すよ。」


 曾孫を見ることは暫く無いと思うけどな。


カラカラ


 「お借りしました。」


 菜衣が戻ってきたし、ばあさんは電話長そうだし帰るかな。


 「菜衣さんは今日は向こうに泊まるのかね。」

 「えぇっと。」


 こっちを見てくる菜衣。

 明日一緒に帰るって言っちゃったし、ホテルなんてこの辺ないしなぁ。


 「神社に帰ろうかと。」

 「神社って山の上のか?」


 おいおい、何を言い出すんですか菜衣さんや。


 「いやいやうちに泊めるつもりだよ。」

 「大介ちょっといいか。米積んじまおう。」


 さすがに怪しんだか。

 きょとんとしている菜衣を置いて、じいさんと席を立ち家の横にある倉庫へと移動する。

 あいかわらず、道具と機械と米と色々積んである。

 

 子供の頃は秘密基地とか言っていたっけ。


 「米はこれでいいだろ。そっちのでも良いが。」


 と、10k袋を渡してくれる。

 最初渡された一表とか多すぎだしありがたい。


 「それはともかく、あの菜衣さんのことなんだけどな。」


 やっぱり怪しんだか。


 「髪の毛が白いのは若者の流行か?」


 違ったか。


 「いや生まれつきだと。」

 「やっぱりそうなのか。」


 ん?じいさん何処かで会ったことあるのか。


 「神社に帰るとか言っていたが、大介がさっき聞いたことと関係あるんだろ。」


 やっぱり怪しんでいたか。


 「いや、あれは泊まる所がなければ神社ででも寝ますってだけで、うちに泊めるつもりだよ。」

 「言えないだろうが、一応聞いとくよ。あの娘はお狐様じゃないのか。」

 「いや、普通の人間だよ。」


 爺さんいきなり何を言い出す。

 ボケた訳でもあるまいに。


 「そうか、まぁそうだよな。」

 「でも、どうしてそんなことを言い出すんだ。」

 「まぁここらの農家に伝わる言い伝え・民話みたいなものなんだが。」


 そう前置きを置いて爺さんは話し出す。


 「稲荷神社は豊作祈願で農家には欠かせないし、稲荷神社にはお狐様だから言われているのだろうが、昔は狐が力を持って人化し、神様のお使いと成ったんだと。そして成りたてのお狐様は稲荷神社に行き神様に使えたと。特に今も白狐は稲荷神の眷属で神獣と言われていているしな。なんとなく菜衣さんの髪の毛が白狐を思わせたもんで聞いてみただけだ。まぁあまり気にするな。」


 瑞千穂も稲荷に住んでいるし、あながち間違いのでは無いのかも。


 「俺もじいさんに聞いたし、じいさんもそのまたじいさんにでも聞いたんだろう。今は、神社も廃れてしまって行く場所もないだろうし、大切にしてやれと思ったのさ。それを抜きにしても良さそうな娘だし、優しくしてやれよ。暖かい飯が幸せだと言える娘に悪いことは居ないさ。」


 そう言ってじいさん話を締めくくった。


 「ほら、米を持て。あんまり待たせても悪いしな。」


 二人して車へ向かう。

 米袋を後ろに積んで部屋に戻ると、ばあさんと菜衣の姿がない。

 奥から声がするから二人で何かしているんだろう。

 じいさんと茶をすすって待っているがなかなか来ない。


 「何をしているんだか。」

 「全然待たせていなかったな。テレビでも見てちょっと待っていろ。」

 「じいさんはどうすんだ。」


 呼びにでも行くのかと思ったら台所に入って行く。

 腹がいっぱいで炬燵に入っているとつい眠くなる。

 テレビを見るでもなく、うとうとし始めるとじいさんが戻ってきた。


 「ほれ。」


 冷たい。ビールだ。

 日本酒も持ってきている。

 盆に先程の残りを載せて来たとこを見ると、先程の残りで一杯やろうと言うことか。


 「駄目だよじいさん。車で来ているんだから。」

 「なに、こっちに泊まってもいいし、車も置いて歩いても行ける距離だ。ともかくお前が飲まなくても俺は飲むぞ。」


プシッ

 と開ける。


 目の前で飲まれちゃ我慢もできん。


 「しょうがないな〜」


 と、俺も開けることにする。


プシッ

 「乾杯。」


 缶を軽く当て飲む。

 昼間から暖かい部屋で飲む酒ってのもまた美味い。


 「たまには昼からも良いもんだろ。」


 しかし、ビールを飲み終わっても帰って来ない。

 なので二本目へ突入。

 じいさんと取り留めない話をしつつ二本めを飲み終わり、日本酒を飲み始めたときにようやく帰って来た。


 「あら、昼から飲んでいるの。」

 「久々に大介が来たし、特別だ。」

 「今日だけよ。それよりも見て。」


 引き戸をばっと開く。


 「おう別嬪さんじゃないか。」


 菜衣が着物を着て立っている。

 確かに似合っているし綺麗だ。


 「なんか男の子みたいな服来ているし、服も持って来ていないというから、私のお古だけどあげたのよ。」

 「一応お断りしたのですが、おばあさまがどうしてもって。」


 まぁそんなとこだろう。


 「くれるというんだから貰っておいたらいい。さっき着ていたのより似合っているよ。」


 女性を褒めるのは苦手だが、綺麗だし似合っているのは確かだ。


 「ほら、そうしなさい。私はもう年でなかなか着物を着ないし、あの娘は着物に興味が無いから年末に色々と処分しなきゃと思っていたのよ。ちょっと袖丈が短いけれど、縫い直せば大丈夫よ。他にもあげるわ。いらっしゃい。」

 「でも。」

 「行ってきな。俺は飲んでいるし、向こうには電話して今日はこっちに泊めてもらうことにしたからさ。」

 「あら、そう泊まることにしたのね。車だしそれが良いわ。電話は私がしておきましょう。二人はあまり飲み過ぎないようにね。ほら早くいらっしゃい。」


 せっかちばあさんなことだ。

 そんなこんなで、菜衣は着せ替え人形状態。

 その間、俺とじいさんは酒も手伝い炬燵でうたた寝をしていた。


 「大介さん。大介さん。」


 なんだよ。折角気持ちがいいのに。

 起きると時計は四時を指している。


 「どうした。」

 「着物をくれるって。」


 さっきも言っていただろ。


 「貰っておけよ。」

 「でも。あれ全部って言うのですよ。」


 渋々目を開ける。

 長持の上に段ボール四つと紙袋が三つ。


 「婆さん多すぎだろ。」

 「女性の着物は色々あるんだよ。」


 それでも多すぎだろ。


 「車にも積めないぞ。」


  MINIはその名の通り小さい。

 ワンボックスのようにでかい車じゃない。


 「それもそうね。とりあえず、これからの時期の物を何着かだけにしておきましょうかね。」

 「そうしてくれ。」

 「残りは送ってあげるわ。後で住所を教えてね。」

 「俺の所でいいから俺の住所教えるよ。」


 菜衣が変なことを言う前に俺の新しい住所を教える。


 「いっぱいあるけど持っていたの全部じゃないのか。それに菜衣は着られるのか?」


 菜衣に聞いたのだが婆さんが答えた。


 「紋付や、まだ手元から離したくないのは残してあるわ。それに菜衣ちゃんには、着方も袖丈の調整とか色々教えておいたから大丈夫よ。そうだ、大介あなたも持って行きなさい。お爺さんの。」


 いつの間にか、ちゃん付けになっている。

 仲良くなったのだな。


 「俺はいいよ。叔父さんもじいさんも居るじゃんか。」

 「二人とも全然着ないのよ。男のは殆どないし荷物にならないから大丈夫。着方は今教えてあげるわ。」

 「いいって」


 面倒臭いし。


 「いらっしゃいって。菜衣ちゃんと二人並んで冥土の土産にさせてちょうだい。」


 冥土の土産って最強の決め文句だな。

 しぶしぶ炬燵から出る。


 着方と言っても覚えるのは帯の結び方だけみたいだ。


 「ほら似合ってる。おじいさんの若い頃と背格好が似ているから丁度いいわ。」


 意外と悪くない。

 弓道の時のように気持ち背筋がしゃんと伸びる気がする。

 そんな風に思って姿見で見ていたら婆さんの言葉が止まらず、


 「それじゃあ、あの娘たちもこっちで夕飯食べるって言うし私はちょっと片付けして夕ご飯仕込むから、歩いてお腹好かせて来てちょうだいね。」


 と追い出された。


 「じゃあ少し歩くか。」

 「はい。」


 とりあえず家の敷地からは出たがどうしようか。


 「何処か行きたいところでもあるか。」

 「ええっと、今日私はここに泊まらせてもらえるんですよね。」

 「そうだな。今更何処かへ行きますとも言えないし。」

 「それなら、神社まで行って良いですか荷物が少し有りますので。」


 今取りに行けば明日そのまま帰れるか。


 「じゃ、そうしよう。」


 二人並んで歩き始める。


 「そういや、じいさんは神社に帰るって聞いてお狐様じゃないかと疑っていたぞ。」

 「やっぱりそうだったのですか、すいませんでした。」


 薄々、変なことを言ったと思っていたらしい。


 「昔は、居たとか言われていたみたいだし。」


 さっき聞いた話をきかせてやる。


 「そうなのですか、私も似たような話を聞いたことがありましたが、神社に行ってみても何も分らなくて。」


 やっぱり否定しないんだな。

 神社が見えて来た。


 「着物な上に下駄で歩きにくいだろうし、石段に気をつけな。」


 自分自身にも言い聞かせる。


 「はい。」


 それでも菜衣はとことこと登って行く。

 俺の方が足下不安だ。

 だけどなんとか上まで転ばずに着くことができた。


 「ちょっと待って下さい。」


 そう言って本殿に入って行く。

 暇なのでうろうろしてみるが少し離れると草がぼうぼうだ。

 手拭いを手帖水に溜った雨水に濡らして軽くお狐様を拭いていると、菜衣が戻って来た。


 「磨いて差し上げているんですか。」

 「そんな大層なもんじゃないさ。軽く拭いただけ。お狐様は神獣と聞いたしさ。」

 「それでも嬉しそうですよ。」


 嬉しいかどうかは分らないけど、少しは綺麗に見える。


 「それで荷物全部かい。」


 風呂敷包み一つだけだ。


 「はい。大事な物なのです。」

 「そうか。じゃあ戻ろうか。」

 「そうですね。その前に。」


からんからん

 振り返って鈴を鳴らす菜衣。


 「一年間お世話になりました。」


 こんな所に一年も居たのか。

 よく何も無かったな。


からんからん

 俺も並んで言う。


 「一年間守ってくれてありがとうございました。その御利益ついでに明日も無事に帰れますように。」

 「あはは、御利益ついでってなんですか。」

 「何となくだ。何となく。」

 「それじゃ行きましょう。」


 二人して慎重に階段を降りる。

 結局俺は途中で下駄を脱いだが、菜衣は最後まで履いたままだった。

 なんか負けた気がする。


 「よく転ばないな。」

 「こう見えても以外と俊敏なんですよ。」


 俊敏さと転ばないのは関係あるのか?。


 「荷物がそれだけって本当に服とか持っていないんだな。」

 「服は着ていたのだけですね。悪いこととは思ったのですけど、木に引っかかっていたのを頂いちゃいました。靴は捨てられていたので問題ないとは思うんですけど、服返した方が良いですかね。」

 「大丈夫だろ。木に引っかかっていたってことは洗濯物かなんかで飛んだんだろうし、持ち主も諦めているだろうさ。」

 「そうですか。よかったです。あと、家に戻る前に彼女のこととか少し話しておきませんか。」

 「そうしたほうが良いかも。よく気づいたね。」


 いや菜衣がよく気づいたというより俺が気づかなかっただけか。


 「まず、彼女になっているけど良いかな?それと名前勝手に決めちゃったけど。」

 「はい。問題有りません。名前も私が「ない」って言ったから菜衣なんですよね。」

 「我ながら単純だとは思うけどね。」

 「どんな漢字ですか。」

 「何でも良いとは思うけど、好きなのにしたら。」

 「大介さんが決めて下さい。」


 そういうことなら思いついたままの文字を使わせてもらおう。


 「「な」は菜っ葉の菜。「い」はころもと書いて「衣」。そんな所でどうだ。」

 「菜っ葉の菜に衣の衣ですか。わかりました。ありがとうございます。」


 礼を言われるようなことじゃないとは思うけど。

 家に着くまで、色々と設定を考える。


 菜衣は彼女でアルバイトをしている二十三歳。

 飲み屋でからまれた所を助けた縁で付合い始めて三ヶ月。

 家は近所。

 田舎から飛び出して来て、貧乏生活。

 なのでお金は無い。など。


 家に着くと親父もお袋も既に来ていた。


 「もう、彼女が居るなら言いなさいよ。」


 これはお袋。


 「綺麗な彼女だな。本当に彼女か。」


 これは親父。

 ばあさんとお袋は菜衣を連れて台所へ。

 料理を教えてあげるらしい。ガンバレ。

 男連中は一足先に飲み始める。


 そこへさっぱりした叔父さんが帰って来た。


 「明日は急遽ピンチヒッターだって。」

 「えぇ突然で驚きですよ。」

 「上手く行けば大介様々ってか。前祝いだ飲もう。」

 「それでは明日の見合いが上手く行きますように。乾杯。」

 「乾杯。」


 また飲んでいる。

 幸せな一日だな。

 今日は鯛の刺身。親父が持って来たのだろう。目出度いからってことかな。

 それに昼間にも出ていたカボチャの煮物・蒟蒻の甘辛いため・漬け物なんかで飲んでいたら色々台所から運ばれてくる。


 「もう、先飲み始めちゃってもう少しなのに男は待てないのね。まったく。」


 と言いながらお袋が筑前煮を置いて行ってくれる。


 「はい。これどうぞ。」


 と、小松菜のおひたしをおいて行ってくれたのは菜衣。

 最後に三人でまとめておかずを持って来て全員食卓に着いた。

 天ぷらの盛り合わせと、肉じゃが、餃子、キンキの煮付け。

 女性陣のご飯と豚汁。


 「ごちそうだな。」

 「そうよ。大介が彼女を連れて来たのと、明日が上手く行きますようにって前祝いよ。」

 「菜衣ちゃんも飲めるのか。」

 「少しなら。」


 とばあさんがビールを菜衣に注いであげ、自分のにも注ぐ。

 お袋は麦茶だ。


 「ばあさん珍しいな。」

 「一杯だけね。それじゃ乾杯。」

 「乾杯。」


 全員そろったところで改めて乾杯する。

 お袋だけは運転があるので飲まない。


 「大介、酔っちゃう前に言っておくぞ。魚は適当に用意しとくから、明日、見合い終わり次第港に寄れ。」

 「わかった。ありがとう。そう言えば明日は何時なんだ?」

 「明日は、十一時に宇津木に集合よ。あんた、今日こっちに泊まるんだから一緒に車で来なさい。ちょっと早めに来るのよ。」

 「わかったよ。じゃあ十時半に出発しようか。二人とも良い?」

 「ああ、よろしく頼むよ。」

 「良いけれど、私も行って良いのかな?」


 どうなんだろう?。

 一緒に行った方が帰りが楽だと思ったのだけど。


 「大丈夫よ。相手の方も細かいこと気にする人じゃないし、私たちは長居しないから、居づらいなら車か外で待っていても良いしね。」

 「待つの大丈夫か。」

 「うん。大丈夫。」

 「なら決定だ。」


 決めること決めたら後は飲むだけだ。

 だけど、叔父さんは明日に供えてビール二本でやめ、親父も三本開けたところでお袋に連れて帰られてしまった。


 「さて俺も風呂入って寝るよ。菜衣さん先に入って良いかな?」

 「もちろん。お気遣いなさらないで下さい。」


 叔父さんも部屋から出て行く。


 「そろそろこっちにするか。」


 じいさんが日本酒を出してくる。


 「おじいさん今日は飲み過ぎですよ。」

 「一合だけ。一合だけだ。大介も居るんだし、もう少しだけ。な。」

 「一合だけですよ。」

 「菜衣ちゃんも飲めるかい。」

 「無理するなよ。」

 「なら少しだけ。」


 ばあさんがお猪口を三つ出してくれる。


クイッ

 と一口飲んで思い出した。


 「あ、この辺日本酒作っているかな。オーナーが酒好きで土産に地酒頼まれてたんだ。」

 「今飲んでいるのがそうよ。」

 「おじいさんが好きで酒蔵で直接貰って来ているのよ。だからラベルは無いけれど。確かまだあったはず。」

 「一本はあるはずだ。持って行って良いぞ。」

 「良いの?。何処かで買うつもりだったんだけど。」

 「これは無濾過樽中出し生酒で、店頭販売しているのとはちょっと違うからな。これを持っていけ。」

 「米といい酒といいありがとう。」

 「気にするんじゃない。可愛い孫にやるんだ。こっちも嬉しいんだ。」


 三十も見えて来て、面と向かって可愛いって言われると、なんか照れる。


 「それじゃばあさんとの約束通り、そろそろ寝るかな。確かに今日はずいぶんと飲んだよ。」

 「昼間も飲んだもんな。おやすみ。」

 「おやすみなさい。」

 「ああ、おやすみ。飲めるようならそれ飲み切ってしまっていいからな。」


 じいさんはふらふらと部屋を出て行く。


 「じゃあ私も寝ますよ。あの子が出たら二人ともお風呂入って寝ちゃっていいから。あっちの部屋に布団と寝間着がおいてありますからね。」

 「何から何までありがとう。テーブルの上は片付けておくよ。」

 「下げるだけで良いからね。じゃあ後はよろしく。おやすみ。」


 じいさんの後を追ってばあさんも部屋を出て行く。


 「「おやすみなさい。」」


 菜衣と口がそろった。


 「もう少し飲めるか。」

 「はい。」

 「結構強いんだな。」

 「そうですか。お酒って今日始めて飲みましたけど、ビールより日本酒の方が好きです。」


 こりゃ強そうだ。


 「あがったぞー。まだ飲んでいたのか。」

 「うん。叔父さんもどう?」

 「じゃあ一杯だけな。」

 「どうぞ。」


 菜衣が注ぐ。


 「綺麗な人に注いでもらうとまた美味いな。」

 「どんな人かはわからないけど、明日の人に注いでもらえるようになると良いね。」

 「お前までそんなことを言う。」


 そういや叔父さんは今日散々お袋とばあさんに言われていいたんだった。

 なんかごめん。


 「菜衣お風呂貰っちゃいな。俺はもう少し叔父さんと飲んでいるから。」

 「はい。じゃあお先に。」


 隣の部屋に寝間着を取りに行く。

 目で追って見るが隣の布団くっつけ過ぎじゃないか。


 「お風呂はトイレの隣だから。」

 「ありがとうございます。入ってきます。」


 菜衣が出て行ったのを見計らって、また二人で話し始める。


 「俺もそろそろ結婚しなきゃとは思うんだよ。だから明日のも行く気になったんだしな。」

 「どんな人だろうね。会ったことある?」

 「会ったことはないが見たことはあるな。大きい町じゃないし、何度か見たよ。」

 「印象は。」

 「菜衣さんみたいに目を引く美人って訳でもないけれど,さっぱりと明るい感じの人かな。」

 「ふーん。印象悪くないんだ。」

 「実際に話してみたりしないとわからないけどな。」


 それもそうだ。


 「それよりも、俺も良い年だから相手がどう思うかだな。」

 「もうすぐ三十九でしょ。向こうが俺より四つ上って言っていたから三十三、そこまで大きな差でもないでしょ。」

 「農家だしさ。」

 「向こうは漁師の家か。近いのか遠いのかよくわからないね。それでも会ってみないとわからないよ。」


 つまり、実際会って話さないと何も分らないってことだ。


 「ここでぐだぐだ考えていてもしょうがないな。寝て、明日に備えるよ。おやすみ。」

 「おやすみ。」


 さて、少し片付けようか。

 食いかけの物は、皿を移してラップをして冷蔵庫へ。皿は水につけとけば良いだろう。

 鯛の刺身も余っている。これは、つけて明日鯛茶漬けにでもしようかな。擦り胡麻と醤油と山葵とみりんを混ぜてほおり込むと。これでオーケー。

 それらを片付けたら後少しでなくなりそうな蒟蒻と漬け物で飲んで菜衣の風呂上がりを待つ。


コロコロコロ

 どこかで、コオロギが小さく鳴いている。

 時期が時期だけにもう殆ど居ないのだろう。


 「あっというまに年末になりそうだな。」

 「お風呂いただきました。」


 菜衣が出て来た様だ。


 「それじゃ俺も入ろうかな。先に寝ていていいから。」


 寝間着を持って風呂へと向かう。

 ゆっくりと湯船につかって出ると、菜衣はまだ起きていた。


 「おかえりなさい。」

 「寝ていてよかったのに。」

 「ここにあったお酒頂いていました。」


 持ち上げてみると、徳利は空だ。

 ビンにもあまり入っていないし飲んでしまうか。


 「これ飲みきって寝よう。」

 「はい。どうぞ。」

 「ありがとう。じゃあこっちも」


 お互いに注ぎ合う。

 会話も無く静かに飲み終わるかと思ったが、


 「今日は本当にありがとうございます。体も心も温かくて、私・・・」


 ぽろぽろと涙をこぼす。

 泣き上戸だったのかな。

 酒の涙でも女の涙は苦手なんだが。


 「大丈夫?。」


 声をかけぬ訳にもいかない。


 「はい。嬉しくて。」


 じいさんの言っていた通り悪い娘ではないんだろう。


 「酒も尽きたしそろそろ寝ようか。」

 「はい。」


 酒器を片付けて部屋に行くと、布団がしいてあるがやっぱりぴったりくっついている。


 「それじゃ。」


 菜衣は気にせず布団に入るが、


 「ちょっと離さないか。」

 「どうしてです?」

 「いや、男女がこんな近いのもどうかと。」


 これじゃ、意識しているみたいだ。

 いや、意識しているんだけど。


 「そうですか、私は気にしませんけど。」


 俺が気にします。


 「じゃあ少し離しますね。」


 それでも40㎝程。


 菜衣が何か話しかけて来ていたみたいだけど、酒の力であっという間に夢の中へ落ちていってしまった。



 すまんね。

 




 

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