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狐のお店  作者: 105 秋
3/12

03:『縁』

 


「いい加減起きろ。」


 瑞千穂に叩き起こされた。


 すでに日は昇っている。

 寝すぎたか。


 紳次さんも瑞千穂も服装が昨日と違う。

 風呂にでも入って着替えたのだろう。

 部屋も綺麗に片付いている。あんなにお菓子のゴミや酒ビンがあったのに。

 そのうえ二人ともケロリとしちゃって二日酔いの感じはしない。


 「台所で良いから顔くらい洗え。すぐ朝飯じゃ。」


 のそのそと起きて台所へ。

 今日も釜で炊いたご飯らしい。

 その奥の土間には空きビンが。1、2、3・・・9本!

 二人とも酒強すぎ&飲み過ぎだ。


ばしゃばしゃ。

 「ん。」


 顔を洗っていたら横からタオルを渡してくれた。


 「戻るついでに、これも持って行ってくれ。」


 と、おひつを渡される。

 なんか腹が減ってきた。

 我ながら現金な腹だと思う。


 オヒツを持って戻ると、箸や茶碗はもう並んでいた。


 「すいません。待たせてしまったみたいで。」


 新聞を読んでいた紳次さんが顔を上げる。


 「いえ。僕もゆっくり寝ましたから。」

 「できたぞ。」


 味噌汁と、おかずを運んで来てくれる。

 今日はベーコンと目玉焼きにサラダが添えられて、漬け物、海苔、納豆、油揚げと葱の味噌汁、今回も真ん中にドンブリで野菜の煮物がたっぷり。

 美味そうだ。とっとと米をよそう。


 「それでは。」

 「いただきます。」


 三人の声がそろう。

 なんだかいつも一人で食べる身にはそれだけで嬉しくなる。

 味噌汁を一口。ほっとすると共に胃が動き出す。


 「大介さん。ご飯食べたら早速見に行きましょう。」


こくり。

 紳次さんが声をかけてくれたが口に飯が入っているために、頷いて返事をする。

 がっつき過ぎだ俺。


 「味噌汁の油揚げは大介の持ってきてくれた物じゃ。これは隣の豆腐屋じゃろう。」


こくり。

 まだ入っている。


 「味が親父のに似てきたのう。美味くなったわ。親父も爺さんに似ていったし、やはり似るものなんじゃのう。」

 「豆腐の味とかは聞くけれど、油揚げの違いが分かるって凄いな。そんなに違う物か?」

 「なんとなくじゃがのぅ。」

 「全然違いますよ。特にあそこの油揚げは美味しいですねぇ。また隣の弁当屋はたまに、あそこの油揚げでお稲荷さんを作るのですが、これがまた美味しくて。ついつい見かけると買ってしまいますね。」


 グルメなのか、よく違いがわかるものだ。


 「油揚げにそんなこだわりがあるとは、狐みたいですね。」


 二人が顔を見合わせ、


ぷっ 

 「ぎゃはははは。」

 「あはははは。」


 笑い出した。

 何がそんなに面白いのか。いや、こう見えて酒が残っているのかも。


 「確かにそうじゃのう。そうかも知れんぞ。紳次は目細く狐顔だしのう。」

 「そうですね。ならば、好物の油揚げをもう一杯、所望所望。」

 「儂は食べ終わったし入れてきてやろう。大介はどうじゃ。」

 「お願いします。」


 瑞千穂が台所へ行くと、紳次さんが変なことを聞いてきた。


 「本当に狐だったらどうします。」


 と。


 「この飯が、化かされてなければ良いですよ。できればお店の話もね。」

 「ほほう。驚きなさらない。」

 「二人の言じゃ、二人とも俺より年上、瑞千穂さんなんて凄く上なんでしょ。むしろ妖怪で長生きしている方が納得いくってもんですよ。妖怪が神社ってのも変な話ですがね。」


 まぁ実際の歳は気になるけどここ話に乗っておく。

 仕事くいぶちの話がなくなってもやだし。


 「普通、そんな妖怪と飯食うのは嫌がると思いますけどねぇ。」

 「ほれ。誰が年上の妖怪じゃって?」


 味噌汁とお茶を持ってきてくれた。

 慌てて紳次さんが訂正する。


 「いえ、もし僕が狐の妖怪ならば、一緒にご飯食べたりするのが嫌じゃないのかな。という質問をしていたとこですよ。」

 「もし、妖怪だとしても、こうしてまともに話せるのだし、そんなに問題は無いと思うよ。そりゃ多少はビビるだろうけれど、人間でも話が通じない人や話を聞かない人は居るし、そっちの方がよっぽど怖い。」


 今食べている飯が、馬の糞とかだったら最低だけどな。

 瑞千穂はお茶を飲みながら聞いている。


 「そうですか。実は僕だけでなく、みぃ姐さんも狐なんですよ。」


ぶっ!

 激しく吹いた。


 「紳次。」

 「うっそだぁ〜。」


 真面目な顔をする紳次さん。


 「嘘ではないのですよ。ほらそうすると、姐さんの術も年の事もすっきりしませんか。姐さんも良いではないですか。そんな怖い顔をして。年と見た目の事も言ったのですし、術も隠していませんし。」


 なんちゅうカミングアウトをするのだこの人は。

 いやこの狐は。の方が正しいのか。


 「言ってしまったからにはしょうがあるまい。」


 認めちゃうんだ。


 「年と同じで信じる信じないは、大介に任せるが、人には言うなよ。面倒なことになるのでのう。」


 言えるわけながい。

 年のことだけでなく、実は彼女たちの正体が狐でしたなんて言ったら完璧頭のおかしい人と思われる。

 だから。


 「信じません。」


 信じられません。


 「えぇ〜つまんない〜。」


 つまんないって、普通の反応だと思うのだが。

 紳次さんにしたら、普通の反応だからつまらないのか。

 書物の人は変わっているとかいうし、何か面白い反応を期待したのかもしれないけどおあいにく様。

 俺は一般人なんです。


 「のちのち信じる事になっても、どちらにせよ人には言わないので大丈夫です。それよりご飯食べ終わったのでぼちぼち準備しましょう。」


 話しているに、二杯目も食べ終わった。


 「ごちそうさまでした。」

 「おそまつさまでした。」

 「本当なのに。」


 まだ言っている。


 「片付けはよいから行って来い。これが鍵じゃ。」


 用意しといてくれたらしい。綺麗な鈴が付いている。


ちりん。

 「綺麗な音だ。このまま付けていて良いのか?」

 「嫌じゃなければそのままでよい。一種のお守りじゃ。落とした時にも分かりやすいしのぅ。」


 よく見ると綺麗な細工がしてある。稲穂かな?

 壊さないように気をつけよう。


 「それは持っていて良いぞ。見に行って、店をやると決めたなら色々と用事がでるじゃろ。もう一本あるが、それは儂が持っとくが、問題あるまい?」


 聞かれても、俺としたら問題は何も無い。

 そもそもが、瑞千穂の物だしな。


 「それでは行きましょう。」


 紳次さんも準備は良いようだ。

 一人玄関に向かおうとすると瑞千穂に止められた。


 「そちらではなく、こっちから。」


 と、土間の勝手口を指す。


 「近道です。」

 「裏から出れば、わざわざ回って行かずとも、店の裏手に出るしのう。」


 よく見れば、俺と紳次さんの履物がもう置いてある。

 寝ている間に用意してくれていたのだろう。ありがたい。


 「掃除とかするようじゃったら、うちの物使ってよいからのう。」


 そんな声に送られて勝手口を出ると、庭は思っていたよりも広い。

 離れまであるのには、気づいていなかった。

 その横に畑が在る。


 「家庭菜園と言っていたと思うのだけど。」


 思っていたより菜園は広い。

 もちろん農家ほどある訳ではないが、家庭菜園って大きくても5m×5mくらいじゃないのか。

 これは軽く50m×100mくらいある上に種類も多そうだ。

 できる気がしない。


 「あぁ、これは違いますよ。その手前の部分です。」


 紳次さんが指してくれた方に、畑というより葉や木を石で囲んだだけの物がある。


 「山椒やハーブなんかです。みぃ姐さんが植えたのですけれど、飽きちゃって。あの奥の方にある柿なんかも姐さんが種を植えっぱなしで出てきた物ですよ。」


 畑の奥の方には、オレンジ色の実がいくつか見える。

 確かに柿っぽい。

 紳次さんによれば、他にも枇杷や杏があるそうだ。


 「大介さんが手を出さなくても、その畑をやっているのが色々やってくれますから、あまりお気になさらずに大丈夫ですよ。」


 その言葉を聞いて安心した。


 離れと畑の間を抜けると木々の間に細い道があり、その道を辿るとすぐに建物の裏に出た。


 「こっちです。」


 確かにドアがあり、鍵を入れると素直に開いた。


かちゃん。

 薄暗く少し埃っぽい。厨房の裏かな。


 「ちょっと待って下さいね。確か電気がこちらに。あったあった。」


 とりあえず表のシャッターも開ける事にする。


ガラガラガラ

 使っていない割には、ドアといいシャッターといい状態が良いと思う。

 改めて中を見ると、寿司屋みたいにカウンターの中に作業場と流しがある作業スペースの下は冷蔵庫。奥には小座敷もある。勝手口の方、作業場の奥にはガスコンロともう一つ流しが。


 「なんでもあって、明日にでも開けそうな感じがしますね。」

 「細かい掃除が必要だったりやガスなんか止まっていますから、明日にでもすぐにとはいきませんが、大分そろっていますよ。やる気になりました?」


 もともとやる気はある。


 「寿司屋にでもしたら雰囲気がぴったしですね。」

 「もともとお寿司屋さんが入られていたのですよ。ご夫婦でおやりになっていられましたが、田舎に帰らなければいけないというので、少しでもまとまったお金になるように、みぃ姐さんが冷蔵庫やコンロをまとめて買い取ってあげたのですよ。それで折角だから、そのまま店でもやってみるかとなったのですが、昨晩お話しした通り開けなかったと。」

 「俺は、寿司なんて握れないし、どんな店にしましょうね。料理は、なるべく作り置きにできる物が良いし・・」

 「それは、追々考えるとしまして、こちらに来て下さい。」


 作業場の奥。勝手口の方に行くと階段がある。


 「変なところに階段があるんですね。」

 「厨房の中ならお客さんは入ってきませんしね。ここを上がると部屋になっていまして、そこに大介さん住めばよろしいかと。上がってみます。」


 紳次さんを先頭に上がって行く。


 「なかなか急ですね。」

 「急にした方が場所を取らないですからね。」


 なるほど。

 上がってみると思っていたよりも広い。

 店よりも広いんじゃないかな。

 少なくとも俺のアパートよりは確実に広い。


 「なかなか広いでしょ。ご夫婦で住まわれていましたし、この部屋だけ二部屋分あるのですよ。」

 「ここにタダで住んでいいのか?結構良い値段するだろ。」

 「店と繋がっているので、おいそれと人に貸せませんから。」


 それもそうか。


 「とりあえず、部屋掃除して、荷物運びつつ店の掃除とかしたらいかがですか。僕の部屋は隣なので、仕事が無ければお手伝いしますよ。みぃ姐さんにも言われていることですし。」

 「来月中に全部移動できるようにしようかな。」


 確か今のアパートの契約書には、一ヶ月前までに解約するなら言ってくれと書いてあったような気がする。

 大家さんにも連絡するか。


 「それじゃ、今日は掃除でもしましょうかね。」

 「では、道具をみぃ姐さんから借りてきてもらえますか。僕は着物じゃ掃除もしにくいので着替えてきます。ちなみに、下と同じ鍵でここの玄関も開きますよ。」


 それでも、下が開けっ放しなので、閉めがてら下から行くことにした。

 瑞千穂の所に戻ると、既にバケツと雑巾それに掃除機があった。


 「とりあえずそれで良いじゃろ。掃除機は店でも使うし向こうに置きっぱなしで良い。」

 「来月中には引っ越して来ようと思う。オープンも来月中が目標だ。」

 「そうか店を見てどのような店にするかイメージ決まったか?」

 「多分、家庭的な居酒屋みたいになると思う。寿司も握れないし、料理もあまりできないから、色々と頼ることになってしまうと思うが。」

 「近くに居るのじゃし、何度か飲みながら決めても良いじゃろ。まぁおいおい料理も覚えてゆけ。」


 飲みながらなんだ。

 こうゆうのはケジメだし、きちんと言っておかないとな。


 「出会って間もない、それも酔っぱらって出会った俺の為に色々としてくれてありがとうな。いつまでできるか分からないけれど頑張るよ。これからよろしくお願いします。」


 そうして頭を下げる。


 「なんじゃなんじゃ急に。これも何かの縁じゃよ。それに儂は酒が手に入るし、お主もとりあえずは働ける。ギブ&テイクじゃ。」

 「それでも俺の方がメリット大きいし、ありがたいし。これはケジメだ。」

 「そうか。お主のその言葉、確かに受け止めた。」


 真面目にとらえてくれたようだ。

 宣言した以上、自分の言葉を嘘にはできないな。

 それにしても、


 「まさか店をやるとは、会社の倒産を知った時には想像もできなかったよ。」

 「変化はいつでもチャンスになるのじゃ。自分の為になるかどうか、それは自分しだい、精々励め。あまり喋っていても紳次が待ち惚けじゃろ。そろそろ行け。儂も後で握り飯でも届けてやろう。」


 自分次第で、チャンスにもなる。


 自分の為に、そして声をかけてくれた二人の為に頑張ろう。改めてそう思った。



 

 

 こうして話を切り分けるとなると、どこで切るべきか少し悩むと同時に文字数の制限がなくなるので色々と書き足したくなるものですね。

 余裕ができたらやりたいものです。

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