人の話はちゃんと聞きましょう
俺は……いや、俺達は、気が付けば不思議な空間に立っていた。
なんだ、ここは。白い、どこまでも白い空間。あれ、なんかここ嫌な予感がする。
俺の勘がそう告げる。
それを同様に感じているのか、周囲がざわめいている。そう、周囲。
俺の周りには二十人位かな? そのくらいの人だかりがあった。どいつも俺と同じくらいの、高校生らしき奴ら。だけど顔に見覚えがない。なんだろうまじで。
『ようこそ、死後の世界へ』
突然、声が響いた。決して大きな声ではなかったけど、それはなんかとても重い声だった。
声の方向を見ると、そこにいたのはとても長い白い髭を生やしたお爺ちゃんがいた。
『一つ言わせてもらうが……君たちは死んだのだよ』
その言葉に、周囲が更にざわめく。
俺が、死んだ……? 悪い冗談だ。
だがその老人は顔色を変えず、話を続ける。
『君たちには二つの選択肢が用意されている。一度しか言わぬ、心して聞くが良い』
老人の声は真実味を帯びていて、それを聞いた俺は、あっさりと信じてしまった。
『ではまず――』
よし、恐らく俺が死んだのは本当なのだろう。ここからの展開は手に取るように分かる。この老人らしき人物は神なんだろう。神は言うはずだ、転生するか、生まれ変わるか、と。そこで俺は言う。転生すると。
そして俺はチート能力を授かり勇者として召喚され魔王を倒す旅に出ることになりハーレムを形成する。そして魔王を倒して王様になり毎日ハーレムメンバーと……。
ねえ京、今夜は私にしてちょうだい。
何いってんのよ、今夜は私の番よ!
あら冗談がお上手ですのね、京は私の事をご指名よ。
これだから妄想癖のある女は。京は私を一番大事にしてる。
皆さん、京が困っているでしょう。離れてあげなさい。
はぁ、何よ! いいわ、今夜は誰が京と愛し合うか勝負よ。
ふふ、望むところよ。
かかってきなさい、京をタブらかす雌猫ども、懲らしめてあげるわ。
ふふ、お前ら可愛いやつだ。だけど今夜はアグネスの番なんだ。ちゃんと一ヶ月でローテーション組んでいるんだから、守ってくれないと俺も困っちまうぜ。
ご、こんなさい京。私達……。
気にするな。それだけ俺の事を愛してくれてるのは嬉しいぜ。さぁ、アグネス、行こうか。
『と言うことである。さぁ、選ぶがいい』
あ、やべ聞いてなかった。
しまった、妄想してて話を聞いてなかった。
しかしここで聞いてなかったとか言うのも恥ずかしい、まあ先は読めているんだ。慌てる必要はない。
「転生と、5番で、お願い致します」
え何それ怖い。
転生は分かるよ、けど五番て何?
ちょ、ちょ、ちょ、これヤバいやつだって。なんで他のやつ皆真面目な表情で考えてんだよ。
「転生と、11番でお願い致します」
「転生と、20番でお願い致します」
「転生と、9番でお願い致します」
次々と呼ばれる転生と番号。まじで番号って何!? くそ、てめえらだけで話し進めてんじゃねえぞ!
こうなったら賭けだ。
「転生と――1番で、お願いしよう」
その言葉に、周囲が固まった。
え、なんで?
『ほう、その言葉に、間違いはないか?』
いえ、あります。
なんて言えない空気だ。耳を澄ませば勇者だろあいつ、まじかよ、あれを選ぶとか、信じらんねえ。男じゃねえよあいつ。感動したぜ、俺。俺には絶対無理だな、だって異世界転生なのにあれ選ぶか?
とか色々とヤバい感じの声が聞こえてきた。
え、ちょまじで待って。地雷かよ! ざけんな!
だがここで間違えましたとは言えない。俺のプライドが許さない。
「ああ、間違いは――ない。ふふっ、なに、面白いじゃないか」
そうして残りの奴らも決まると、何やら魔方陣的なやつが俺らを囲む。
その瞬間、浮遊感が襲い掛かり――
俺が目を覚ましたのは、何故か学校の始業式の場所に座っていた。
え、なんでこんなとこにいんの、とか思ったけどどうせあの神様の計らいだろう。
そう言えば結局あの一番ってなんだったんだろう。そう思っていると目の前に表示が浮かんでくる。すげえ、VR方式かよ!ウヒョ!
『ギフト1
最強の加護を授かる。身体能力が最強クラスに。能力吸収を授かる。あらゆるパラメーターを一定条件で相手からすいとる。』
なんやこれ、メチャクチャつえーじゃねえか。
なんでこれ他のやつら取らなかったんだ? もっと強いのがあったのか?
そして俺はまだ下にも何か表示があることに気がつく。
『但し童貞は二度と卒業出来ない』
俺は死んだ。