表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EMMA  作者: 妻川清太
5/7

正体

スカージはアルゴを乗せた車椅子を押しながら、長い廊下を延々と歩いてゆく。


そしてある部屋の前に連れて来られた。やけに豪華なつくりだ。

スカージがドアを開けると、その部屋には赤のじゅうたんが敷いてあった。


「あと少ししたら所長が来るから。ここで待ってろよ」

スカージはそれだけ言うと、ドアを閉めて行ってしまった。


アルゴは一人残されてしまった。こうなると、落ち着かない。まず、車椅子の操作がおぼつかない。

アルゴは部屋にあるものを見ていることにした。


部屋の奥には大きな机があった。いかにも所長とやらが座りそうなもの。

壁には額に入れられた表彰状や、壁の高さまである油絵。


その中で、一つ気になった。表彰状の一番下に書かれている文章。


「何だ、これ? People――」



「『People Serving God』。通称『PSG』。ここの名前だよ」



後ろからいきなり声がした。

アルゴが振り向くと、そこにはやけに小さな、ひげを生やした老紳士がいた。


「はじめまして、というべきかな。アルゴ君。ここの、PSGカリム支所の、所長のジルコだ」


ジルコと名乗った男は笑顔で握手を求めてきた。アルゴはそれをおそるおそる握った。見た目は小さいが、力は相当のようだ。

この男が所長か。


「悪いが、座らせてもらうよ。もう歳でね」

ジルコは奥の机に腰を下ろしながら言った。


「さて、本題に入ろう。アルゴ君、君にはまずお礼を言わなければならない。本当にありがとう」


ジルコが急に頭を下げたので、アルゴは驚いた。

「ちょ、ちょっと……。俺はあいつを守っただけで……」

「それが重要なのだ」


ジルコ所長は顔を上げた。

ジルコ所長の言葉には、一つ一つに重みがあった。



「君が助けたあの生き物。あれは普通の生き物ではない。あれは『神魔』という、神の眷属。いや、一種の奴隷と言うべきかな」



「……神、魔? なんだそれ?」



アルゴの正直な反応だった。


神魔なんて言葉、生まれてきて十五年間、聞いたこともない。


「はっはっは、まあ無理もない。普通の人間には見えんからね」

所長は偉そうに高笑いをした。


「だが、君はもう信じるしかない。出会っているからね」

「あいつが……神?」

「そうだ、分かるかね。あれが神魔だ。私達はその神魔と契約して、その力を借りて『任務』をこなしている」


アルゴは黙っていた。いや、『黙っていた』というよりは、『何も言えなかった』といった方が正しいだろう。

完全に許容量を超えていた。


そんなアルゴをよそにジルコ所長は説明を続ける。

「任務とは……例えば、自然の保護。神魔は自然を形づくるものの守護神だ。例えば、火事で燃えてしまった森に命を授けたりする」

訳が分からない。話がぶっ飛んでいる。


「おい……。ちょ、ちょっと待ってくれ……」


ジルコ所長はアルゴの声が聞こえないかのように喋り続ける。

「そして、他には……」


「ちょっと待てって……」


「これが一番大事な任務で……」


「待てって言ってんだろ!!」


その一瞬、周りの時間が止まった。

立ち上がり、ジルコを上からにらみつける。

体中に激痛が走る。しかし、関係ない。


「さっきから訳の分かんねえ事をうだうだと……何が『神魔』だ!? 何が『任務』だ!? 気持ちわりいこと言ってんじゃねえぞ!!」


堰を切ったように、アルゴの口から言葉が次いで出た。

その目の前の人物は、あたかも自分の事ではないように平然と済ましている。


「うさん臭いことばっか並べやがって……そんなもん信じられるか!! 俺は帰るぞ。子ども達が待ってんだ」


アルゴは扉に向かって歩き出した。


「まあ待ちたまえ。今帰っても君はきっと――」

「もう十分だ!」


アルゴは駆け出した。



「――後悔するぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ