彼女は公園に一人いる
暇つぶしに書いたものです
ジャンルは文学にしているけれど・・・文学?
木枯らしの吹きすさぶ季節。
とある公園の中心、古ぼけたベンチに彼女は座っていた。
どことなく物憂げな表情で、しかしその容姿はゾッとするほど端麗だった。
何を想っているのか――考えの一切読めない無表情で、彼女はただ白い息を吐き出す。
一体どれほどの時間、そうして座っているのか。
人形のような無機質さと、それに相反する生命力――不思議なことに彼女はその両方を内包しているようだった。
不思議で、不可思議。
この世のモノでないような歪さ、水で満たされたコップのような危うさ、そんなものを彼女は当然のように纏っている。
「……?」
ふと、これまで微動だにしなかった彼女が顔を上げた。
その視線の先には、真っ黒なコートを羽織った一人の男がいた。
彼は驚くべきことに、他の通行人のように彼女を避けようとはしなかった。
むしろ彼の取った行動はその真逆――彼女を遠巻きにする他の通行人を嗤うように、彼は悠然と彼女に歩み寄っていく。
彼女と彼の距離が三mほどになったとき、彼女がはじめて静止の声を上げた。
「……近付かないで……」
彼は歩みを止めると、穏やかに彼女に話しかけた。
「ああ、すまない。……ただ、我輩も仕事なのでね」
「……じゃあ、貴方が?」
「ああ、その通り、我輩こそは″悪魔″プロッツェン。……貴女の魂を頂きに参った」
彼女はうっすら微笑むと、自ら″悪魔″を名乗るその男に向かって、まるで彼を招き入れるかのように両腕を広げた。
彼の言葉が真実ならば魂を奪われるというのに、彼女の顔にはわずかの恐怖も浮かんではいなかった。
そんな彼女の様子が面白かったのか、彼はさも愉快そうに唇を歪める。
「ほう、これはこれは、貴女はなかなか潔い方のようだ。大抵の人間はここで魂を奪わないで、と懇願するものなのだが……」
「……そう、どうでもいいから早くして」
「ハッハッハッ、これは素晴らしい。これから死を迎えるというのに平然としている! 一応言っておくが、我輩たち″悪魔″に魂を奪われれば、決して天国に召されることはないのだぞ?」
「……天国? ……そんなのいらない」
「フハハハハハハ、そうかそうか、ではこちらも遠慮なく頂くとしよう!」
そう言うと、彼は一歩一歩ゆっくり彼女との距離を縮めていく。
そして二人の距離がほんの数十センチになったとき、彼がいきなりスッ、と片手を彼女に向かってかざした。
彼の顔にはまるで引き裂かれたような三日月が浮かび……そして――彼女の瞼がゆっくり閉じられていく。
「!??」
次の瞬間、彼の表情が引きつった。
何が起こったのか――事態が理解できないことでの戸惑い、困惑。
おおよそ″悪魔″に相応しくないほど狼狽した彼に、答えをもたらしたのは皮肉に彼女だった。
「……慌てるほどのことじゃない、ただ″契約″しただけ…………″悪魔″と」
「?! まさか貴様、我輩ではない″悪魔″に願って、我輩が『魂』を取れないようにしたのか!?」
「……正解」
「馬鹿な!! 貴様、分かっているのか、自分が一体何をしてるのか!!」
「……だから、なに?」
「…………」
あたかも言葉を失ったように立ちすくむ彼に、彼女は感情のこもらない瞳を向けると、やがて興味を失ったようにスッと視線をそらした――それは会話が終了したことを言外に告げていた。
「……くっ、貴様ぁああああ!!!」
彼と彼女以外には誰もいない、寒々しい公園に響きわたった叫びは、今にも泣き出しそうな灰空に呑まれていく。
彼女が再び視線を戻したとき、そこに彼――不幸な″悪魔″はもういなかった。
とある公園、足の錆びたベンチに彼女は座っていた。
どことなく憂鬱さを孕んだ表情はしかし、残酷なほどに綺麗だった。
何を想っているのか――おそらく ″契約″した″悪魔″のことだろうが、正確なところは誰も分からない。
ただ彼女が何を待っているのか――それは明白だった。
″悪魔″から逃れるために″悪魔″と″契約″したために『魂』を奪いにくる″悪魔″から逃れるために″悪魔″と″契約″したために『魂』を奪いにくる″悪魔″から逃れるため――
不可解で、理解不能。
悪魔のような彼女はいつでも″悪魔″を待っている。
END
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