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落ちこぼれの聖導士と異端の聖心獣  作者: 棚機レンジ
二章「闘技大会の変」
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新入生歓迎会のその後

まだちょっと手直しが進んでないのですが、気が付いたら二章の筆が進んでました。









 

「では二人組を作って互いに聖心器の打ち合いを始めたまえ」


「レオ、やろうか」

「じゃあうちはフィオナとやろうかな」

「よろしくおねがいします!」


 新入生歓迎会の日の魔獣騒ぎは、魔獣実験棟の人たちが責任を持って魔獣を駆除して終息した。


 独断でフィオナさんを探しに行ったことを怒られはしたけれど、結果オーライということで厳重注意で終わった。

 フィオナさんも自信をもって、あれからまた頑張る気持ちを新たに授業に励んでいる。


 一方、僕はと言えば、


「アルマ、前からずっと変な調子だな、どうした?」


 フィオナさんのメラメラ燃え上がるやる気とは対照的に、僕のやる気は日々減少していた。


 ハロルド君が、自分の相手に向かって誇らしげに話す内容が漏れ聞こえてくる。

 漏れる…というよりあえて吹聴しているみたいだけど。

 耳が勝手に穴をふさぐくらい何度も聞いたものだ。


「ヴィル君は本当に素晴らしいよ。 俺なんか足元にも及ばないレベルで聖心獣を操るんだ。 彼こそ聖導士…いや、聖騎士にだってなれる器だろうね」


 主に聞かせたい相手は僕なんだろうけど、できれば聞かないでいたい。


 新入生歓迎会で僕が最悪の相手と対面してしまったから、今こうして意気消沈しているのだ。




 ◇  ◇   ◇



「僕の名前はヴィル・アークランド。 以後よろしく、アルマ・ディナミス」


 いずれ向き合わなければならなかったと分かっていても、せめてもうちょっとどうにかならなかったのかと僕は思った。


 まるで初対面かのように挨拶してきた僕の兄、ヴィル・アークランドは、その瞳だけはごまかしきれない感情を秘めて僕に握手を求めてきた。

 その手を握るかどうかちょっとだけ考えた。


 本当に僕のことを知らない(忘れている)とは思わない。


 僕が顔を見てパッと思い出せたほどなんだ。 こと彼に限って僕の顔を忘れたなんてことはないだろう。

 でも、万が一。

 もう二度と会うことのないと思っていた人間の顔を覚えているものだろうか。

 しかも自分で追放した相手を。


「よろしく」


 悩んだ挙句、握手くらいは、と思って差し出されている手を握りかえした。

 にこやかな笑みを向けてくる兄さんの顔には特に変化もなく、僕が考えすぎていただけなのかと思った。


「俺にはアルマっていう弟がいたんだけれどね、家出してしまって…今頃もうどこかでのたれ死んでいるだろう馬鹿な奴だったんだが、君はそいつと似ているから妙に親近感がわくね」


 兄さんの朗らかな声に、彼の後ろにいる取り巻きが笑うけれど、僕にはちっとも笑えない。


 確信した。

 兄さんは僕を()だと分かって挨拶してきたんだ。


「ディナミス元聖騎士団長の息子さんらしいね。 いつか手合わせしてみたいものだよ」


 だから息子じゃないし、それにそれは兄さんが一番よくわかっているはずなのに、あくまで知らないふりを貫くのか。


「またお話ししたいものだね。 今度は二人でね」


 言い残し、ヴィル兄さんは空になったさらに料理を補充しに離れていく。


「………………」


 久しぶりに会った兄さんは確かに貴族としての物腰なんかを身に着けていたけれど、性格は全く変わっていなかった。


 どうか五年間で丸くなっていたなら僕も困らなかったのに、丸くなったのは上っ面だけで、中身のほうは変わらないどころかもっときつくなっていた。

 うわべが温厚だから余計にその落差で恐ろしく感じるのかもしれない。

 二人きりで会うなんてことをしたら不意打ちで殺されそうだ。


 兄さんからしてみれば、僕は死んだと思っていたはずの弟が元聖騎士団長のもとで育てられて復活したわけで。 僕が生きていればアークランドの家名に泥を塗るから始末しないと、と考えてもおかしくはない。


「あー…最悪だ…」

 これからは目立つことを避けてでいるだけ兄さんとの接触がないようにしないと。


「何が最悪なの?」


「マルティアさ…マルティアも来てたんだ」

「ちょっとうるさい人がいてね」


 兄さんとの会話で落ち込んでいた僕に声をかけてきたのはマルティアだった。

 ヴィル・アークランドなんていう貴族と会話したせいで、僕の周りには人がいない。

 貴族が歩く場所というのはかってにスペースの用意されるものなんだ。 それがアークランドともなればなおさらだろう。


 マルティアはそんなのも気にせず、僕とおしゃべりしてくれてすごくありがたい。


「目立ってるけど、いいの?」

「そんなの気にしてたら今頃保健室のベッドよ。 どうせ来ないといけないならせめて自由にするわ」


 ヴィル兄さんの通るところは勝手に人がスペースを開けていて、どこにいるかは一目瞭然だ。

 今はアドリア王女と話しているみたいで、歓迎会中の注目を浴びても大して気にもしていなかった。 一国の王族と、王族の次に高貴な大貴族が話しているのだから当然ではある。 兄さんは慣れているんだろうか。


「さすがアークランドってかんじもするわね。 あの副会長と話して平然としていられるなんて」

「僕は無理だけどね…」

「あら、あなただってできるはずよ。 なんてったって――」

「しーーっ」


 慌ててマルティアの言葉をかき消す、 危ない。


「見ていたわよ。 あんまりお兄さんには好かれていないみたいね」


 好かれていない、くらいだったらよかったんだけどな。

 まさか嫌いすぎて家を追放されるくらい嫌われているとは言えない。


「まあ、いろいろあって」

「ふーん」


 僕にはこれくらいが精いっぱいだ。


「魔獣には単身飛び込むことができるのにね」

「それとこれは別だよ…」


 なんなら魔獣より手ごわいと思う。 兄さんは昔から聖心獣の扱いが上手だったし。


「っていうか、マルティア、何で僕が魔獣と戦ったって知ってるの? アドリア王女とそのお友達と。あとヒューイ先生くらいしか知らないはずだけど」


 フィオナさんも忘れちゃいけないけど、彼女は聖句詠唱を発動した後に眠ったから、僕が一人で戦ったことは知らないはずだ。


「あ。あー…まあその、あなたが保健室から出て行ったあとで魔獣騒ぎを聞いたから、戦ったのかなって思ったのよ。 勘だわ」

「ふーん」



 特に追及することもないと思ったのだが、その答えは意外とすぐにやってきた。



「マルティア、探しました。 あまりふらふらしては……アルマ君とお話ししていたのですか」


 ステラ・アルトリアさん。 この学園の先輩でもあり、王国の誇る聖騎士でもあり、僕の命の恩人でもあるきれいな人だ。


「アルマ君は、もう体のほうは大丈夫ですか?」

「おかげ様で。 さっき起きたところなんです」

「大事なくてよかったです。 アドリア様もけが人が出ないか、それだけ気に病んでいましたから」


 アドリアさんはすごかった。 慌てずに聖句詠唱を紡いで歓迎会の会場に現れた魔獣を三体仕留めるんだから。


「しかし、やはり団長の直弟子というだけありますね。 魔獣を一人で倒せるなんて…昨日も話しましたけど、やはり団長は素晴らしいんですよ」

「ちょっと、ステラ…」


 ははーん。

 ステラさんがマルティアに昨日の顛末について教えたのか。 全然勘じゃないじゃないか…。


 そういえば、なんで聖騎士の彼女がこの学園にいるんだろう。

 聖導士を要請する学び舎に、すでに聖騎士である彼女が通う意味はないはず…。

 その旨を尋ねてみると、ステラさんはさらりと教えてくれた。


「ああ。 私たち聖騎士は二級魔獣や一級魔獣討伐のほかに、王族の警護という任務も預かっているんです。 それで、」

「アドリア王女の警護に来ていると彼女とは、実家ぐるみで仲が良くてね、よくしてもらっているのよ」


 ステラさんの言葉に続くようにマルティアが補足で説明を足してくれる。


 マルティアもきっと高貴な家の出なんだろう。

 粗相のないようにしないと。


「聖騎士ってたしか人類領域の外にも出向きますよね。人手は足りているんですか?」


 人類領域。

 人々が今暮らしている生活圏のこと。 かつての魔獣との戦争で奪われなかった人類最後の土地をそう呼んでいる。 聖導士や聖騎士の最大目的は、その失われた領土の奪還ということなんだけど……かぎられた戦力であるはずの聖騎士が学校にいてもいいんだろうか。


「私もそう思ったんですけれど、団長に申告しても、年の近い子と交友を深めることも大事だと仰られたので甘えさせてもらっています」


「王族のことなんて放っておいてもいいのに。 副会長とか、大概のことなら自力で対処できるんじゃない?」

「あの方はそうですが…。 万が一のことが起こるとも限りませんし。 ほら、昨日のような」


 確かに。

 世界一の教育機関であるこの学園で魔獣に襲われる――それも王族が襲われるなんてことがあれば学園の存続危機だ。


 まあ、本来あり得ない事故なんだろうけど。


 話し込んでいると、周囲の視線を一身に浴びていることに気づいて居心地が悪い。


 有名人であるステラさんと一緒に話しているからかな。

 ひょっとしたら僕が知らないだけで、マルティアもみんな知ってる大貴族の家の出なのかもしれない。


「あなたも注目されてるわよ。 ディナミス元団長の息子ってどんな奴だってね」


 ぐるりと見回すと、なるほど僕とも視線が合う。

 いい加減息子じゃないと教えて回りたいなあ。


 その中の視線の一つに、兄さんのものがあった。 王女との会話の最中、こちらの様子をうかがっているみたいだった。

 じっと獲物を見定める肉食獣のような視線から僕は目を反らすので精いっぱいだった。


「マルティアがどなたとお話しているのかと思いましたが、ステラとアルマ君でしたか」

「アドリアさま」


 兄さんの視線に気を取られて、別の人の接近に気づかなかった。

 しずしずと近づいてきたのは、アドリア王女だった。 


「副会長、ヴィル・アークランドさんとのお話はもういいのかしら?」


 そういえば、マルティアは王女と知り合いだったっけ。


「ええ。 あなたがどなたとお話ししているのが気になってしまって…もちろん、彼の許可はいただきましたよ」


「別に、私のことは気にしなくてもいいとあれほど」

「そうはいきませんわ。 あなたはただでさえ――」

「アドリアさま。 ここでその話は」

「ああ、そうでしたわ。 つい」


 なんとも歯切れの悪い会話に、部外者の僕まで居心地が悪くなる。


「そういえば、アルマ君は一月後の闘技大会に出場なさるのですか?」


 闘技大会?


「闘技大会というのは各人がこの学園で学んだことを生かし模擬戦闘をするトーナメントのことです。 個人戦部門と集団戦部門の二つがあるのですが……初等部からも何人かが出ると聞いております」


 そんなのがあるんだ。 知らなかった。


「本来入学してだれてきた時期の初等部生に活を入れる目的で、上級生の試合を行うのですが……才能のある初等部生の参加も許可しているのです」


 なるほど、実力のある先輩たちの試合をみて新入生たちのやる気を引き出そうというわけなのかな。 ついでに、驕っている生意気な新入生をコテンパンにできれば――みたいな思惑もあるんだろう。

 でも僕は正直あんまり惹かれない。


「面白そうですが、ちょっと僕は…」


 ここは辞退するが吉。


「それは残念です…多くの人々が、元聖騎士団長の息子の実力を見たがっていましたが…」


 こんなところでも師匠の名前が牙をむく…。 


「副会長、あんまりしつこいと嫌われますわよ」

「あ、そ、そうね。 ではこの話はこれまでに…」

「はい、お誘いいただきありがとうございました」


 もう、なんなんだ…。



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