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落ちこぼれの聖導士と異端の聖心獣  作者: 棚機レンジ
第一章「学園入学編」
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初めてのクラス


「アルマ君すごいですね!」

 フィオナさんが興奮して声をかけてくる。

 魔獣を倒して客席に行くと、全員の目が一斉にこちらを見た。なんだか変な感じだ。


「さすがカールの子だけはある」

 校長先生も手放しで褒めてくれた。

 ヒューイ先生を含めた四人の先生方は一固まりになって何事かを話し合っていた。僕の試験結果についてなんだろうけれど、聖心獣も出したほうが良かったのかな……そこだけちょっと後悔。でも召喚したら召喚したでまた受け入れてくれなさそうだし…。


「ええと、アルマ・ディナミス君、先ほどの魔獣との戦闘を見た結果、本学に入学するのを許可しましょう」

「ありがとうございます!」

「だから合格は私が保証するとあれほど言ったのだ。必要なかっただろう」

「こんなことしているのは校長先生のせいですからね!?」


 ヒューイ先生も大変だ…。

 何はともあれ、無事合格できてほっとした。ここまで来て帰ることになったら本当に師匠をぶん殴るだけしかできなかったので助かった。


「じゃあ、入学ガイダンスの行われる教室に向かってもらいましょうか、遅れていることですしね。 ええと、君たちの教室は―――」



 ◇  ◇   ◇



 ヒューイ先生に指示された教室は、今しがた出てきた闘技場から少し離れた校舎の中らしい。

 フィオナさんと一緒の教室らしく、二人でそろって学校内を歩く。


「アルマ君はお父さんから聖心獣の使い方を教わったんですか?」

「え、いや、父さんじゃないけど……父さんみたいな人に教わったんだ」

「そうなんですかー。きっとその人はすごく強いんですね!」

「なんか、自分ではそんなふうに思ってなかったんだけど、いろんな人が師匠のことを知っていて、意外とすごかったのかなーって」

「校長先生も知っているみたいでしたよ?」

「ああ、うん、たぶん、その姓でこんなややこしいことに……師匠のばか…」


 勝手に校長先生にだけ話を通して軽くオーケーをもらったから合格だと早合点したんだろう。安請け合いをした校長先生も校長先生だ。素直に試験を受けさせてくれていればさ。



 生徒数の少なさに比べて広い学園内は、白いレンガ造りの風情あるたたずまいだ。

 ベルナール王国の王城が改築されたのと同じくらいに建てられたこの学園は、丁寧に地面まで煉瓦で舗装されている。わきに植えられた緑の花壇から柔らかな新芽の香りが漂う。

 ちなみに僕の住んでいたアークランドの家は改築前の王城と同じくらい古くに建てられたらしい。母さんがよく自慢げに話していたことを覚えてる。


 本来なら生徒がたくさん行き来するだろう道も、入学式終わりたての今はだれ一人通らない。みんな教室のほうで待機しているんだろう。


「あ、ここだ」


 四階建ての建物、見上げた窓ガラスの向こう側では僕と同じ学生服を着た生徒たちが楽しげに談笑している。上級生だろうか。


 やばい、緊張してきた。


「はぁ……」

 フィオナさんも口数が少なくなって、階段を歩くスピードがゆっくりだ。

 入学式の直後にまさか遅刻してくる人間がいるなんてふつう思わないだろう。…どんな顔して入ればいいんだろう。


 四階、ヒューイ先生に指示された教室に向かうと、ひそひそと話し声が聞こえた。大きな声じゃないのはみんなも緊張が抜けてないとかそういうことだろうか。

 なんとなくフィオナさんをかばうように先に扉の前に立って、そっとドアを開けた。


「失礼します…」

 扉を開くと時間が止まったのかと錯覚した。

 一斉にこちらを射抜く視線。無音の空間。

 生徒数はざっと二十人くらいだろうか。驚いたようにこっちを見てくる人、興味なさげに視線を元に戻す人、ひそひそと隣の人と話し出す人。対応は様々だったけど、その照準すべては入ってきたぼくらに向いている。


 階段状に、教卓から見上げるように設置された机の数々。一つの机につき三人ずつ座れるようになっているその長机は半分以上が埋まっていない。


 僕とフィオナさんは視線から逃れるように後方の座席に座った。


「予想してましたけど、やっぱりすごい注目ですね! 緊張します!」

 ひそひそと耳打ちしてくるフィオナさん。本当に緊張しているのだろうか。


「入学式終わってから結構時間がたってるもんね…そりゃみんなおかしいと思うよ」


 できるだけ気にしていない風を装って教室内を見回す。

 僕らが何もアクションを起こさなかったからなのか、視線は幾分かましになっていた。


「なにしてたんさ?」


 ふいに、僕の前に座る男子生徒が体ごと僕のほうに向けて話しかけてきた。


「あ、ええと、」

「あーごめんごめん、俺、レオ・ブラウン。よろしく」

「僕はアルマ・ディナミス。よろしく」

「ディナミス…?前の聖騎士団長と同じ姓やん! うらやましいな!」

「ありがとう」


 レオと名乗った男子生徒は微妙にへんてこななまりでぺらぺらと矢継ぎ早にトークを繰り出した。


「君ら二人そろって遅れてきたけどなんかあったの?」

「いや、ちょっと入学の手続きに手間取っちゃって」


 この際僕が試験をさっき受けてきたということは黙っておいたほうがいいだろう。

 あ、フィオナさんに口止めするの忘れた。

 目くばせしようとして、フィオナさんが「わかってるよ!」とでも言いたげに首をぶんぶん振っているのをみて一安心。


「そりゃ災難だなー。 あ、じゃあ職員室にでも行ってたのか? なんか先生たち言ってなかった?」


 何か言っていたも何も、まさに遅れている原因は自分たちにあるとは言えない。

 教室内のあちこちでそれぞれ会話がおこなれているけれど、その関心はやっぱり僕たちに向けられていて、僕とレオ君の会話に耳をそばだてていた。


「もうすぐ来るとは言ってたけど…あ、ほら」


 窓の向こうがわ、廊下を走るヒューイ先生の姿。

 ぜえぜえと息を荒くしながら、先生は教卓の前に立つ。


「や、ごめんねみんな、ちょっといろいろとあってね」

 そのいろいろは確実に僕たちのことである。校長先生のわがままを聞いたらガイダンスが進まなくなった…とは、彼にもまさか言えるわけがない。


「じゃ、遅ればせながら、新入生の君たちに、この学校での過ごし方をガイダンスしよう。僕の名前はヒューイ・マクマス。ヒューイ先生と気軽に呼んでくれ。たぶん、入学試験の時に僕の顔を見たって人もいると思う」


 ヒューイ先生の言葉に、クラスの半分くらいが小さく頷く。

 僕もちょっと頷きたくなったけど自重した。



「このクラスは初等部一年マクマス組だ。ごめんね、この学園はクラスに担任教師の名前を付けることになってるんだ」


 マクマス組…。口の中で転がしてみると、案外しっくりとなじんだ。


「で、みんなが気になっている授業のほうは朝の一限、二限を終えたらお昼休憩、そのあと三限と四限、五限の授業を受けて終わり。配布されている時間割を見ると分かると思うけど、朝は基本座学で、お昼から聖心獣の使い方について実践的な練習をするよ」



 実践、という言葉にクラスがちょっとざわついた。当たり前だけど、ここにいる全員が聖導士、あるいはその先の聖騎士を目指してこの学園にわざわざ挑戦したはずの、ある程度実力のある聖導士見習いのはずだ。かくいう僕も、座学なんかよりよほど実戦練習が楽しみだ。師匠との訓練は練習ではなく修行だったから余計に。


 クラスのほかの生徒たちはみんなそわそわしている。レオ君なんて人目もはばからずガッツポーズをする始末。


「座学、楽しみですね」


 フィオナさんは座学が楽しみらしい。 この学園はずべてが高水準…王国トップクラスの授業を提供してくれるので、その気持ちもわかる。



「あーはい、はい、静かに! 君たちは新入生なんだから、あんまり無茶はできないってのを忘れちゃいけないよ」


 ヒューイ先生が声を上げる。みんなは静かになったけど、それでもまだ興奮の残り香がある。


「ほかのクラスとの合同授業もあるし、そういうところでみんなが人脈をつなげていけたらいいと思う」


 それを聞いて僕は思わず小さなうめき声をあげる。つまり、兄さんと一緒の授業を受けないといけない可能性もあるってことだ…どうか彼が僕のことを忘れていることを願う。


「さっき入学式の壇上であいさつしたベルナールさんなんかもそうだが、この学園には貴族も王族も普通の家庭の人もわけ隔てなく在籍してる。やっぱり小さいころから教育されてきた貴族のほうが数は多いんだけど、この学園にいる限り、みな同じ身分の生徒扱いされる。そのことをよく肝に銘じて、貴族は驕らず、普通の人はへりくだらず、みんなが仲良く卒業してくれることを先生は願ってるよ」


 僕は元貴族であり、今は実家を追放されたただの平民だ。

 周りでは、先生の言葉にうつむく人、関係ないよとばかりにふんぞり返る人…あ、あの人は多分貴族だな。

 だれがどんな反応をしているのか、僕みたいに周囲をうかがう人、反応は様々だ。


「ここにいる僕を含めた二十二人のマクマス組でこれから頑張っていこう! それじゃあ解散!」


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