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グラタン

作者: 夏蜜柑

ベットの上で身体を起こしぼーっとしてると

何故か祐樹のことが思い出されて

また涙が溢れてきた。嗚咽が漏れる。

慌ててこらえた。別に1人なのに。

この家にはもう私しかいないのに。

涙まで我慢する。意地っ張りにも程がある。


長く付き合っていた祐樹と別れ

祐樹がこの家から出て行ったのは

1ヶ月前のこと。

同棲までしていたのに

心はいつのまにかすれ違っていた。

向き合っているのに、近くにいたいのに

離れなければ心が保てなかった。


もう、ただいまも、おかえりも必要ない。

家に帰ってきても誰の声もしない。

1ヶ月経ってもまだ慣れないこの変な感覚。

1人は嫌いじゃないのに

外に出て帰ってくるたび

おかえり、がないことに耐えられなくて

最近は家に篭ってばっかり。


ふと、空腹を感じた。

思わず苦笑してしまう。

こんななのに、お腹はちゃんと空くなんて。

でも何かを作る気も

ここから動く気も全くしなかった。


もう一度眠ってしまおうかと思った。

もうすぐ夜が明ける午前4時。

この頃この時間に起きることが多いけど

またすぐに眠りに包まれるだろう。


布団に潜り込んだけど、眠気はやってこず

空腹が忍び寄ってくるばっかりだった。


ベットから下りて冷蔵庫を見てみたけど

めぼしいものは何もなかった。

買いものにも行ってないからしょうがない。


諦めようと思ったとき、玉ねぎを見つけた。

一度浮かんでしまったから

もう考えはそれに固定されてしまって

身体は勝手に動いていた。


祐樹が大好きだったから

よく作って一緒に食べた

手抜きの、でも、ホワイトソースから作る

私流のグラタンを作る。


ばかみたい。またこんなもの作るなんて。

作らないと誓ったわけではないけれど

未練がましく思っている自分に気づく。

ほんとにばかみたい。


祐樹と2人のときは、マカロニだったり

鶏肉を入れたり、シーフードにしたり

色々工夫もしたけど、今は玉ねぎだけ。

玉ねぎも少ないからほぼ具なしグラタン。


いつのまにか頭は空っぽになり

ただただ料理を作っていた。

手抜きグラタンを作っている間は

祐樹のことも、何もかも忘れられた。


グラタンができたときにはもう

外は少し白く明るくなっていた。

久しぶりで手順がぐちゃぐちゃだったから

思わぬところで時間がかかってしまった。


でも、カーテンはまだ開けない。

薄暗い部屋の中、グラタンを食べる。

1人きり、静かな薄闇。


料理しているときは何ともなかったのに

食べているとまた涙が出てきた。


もう、空腹感もなくなってきたのに

泣いてるせいで喉が詰まって食べにくいのに

グラタンに涙が落ちてしょっぱいのに

それでも食べ続けた。

自分でも何がしたいのかわからなかった。


でも全部食べた。

とろっとしたホワイトソースが

全く残らないぐらいきれいに食べきった。


祐樹と一緒のときもそうだった。

私も、そして祐樹も、絶対残さなかった。

そうして、2人で笑いあったんだ。

あの光が射したみたいな笑顔は

もう二度と手に入らないけれど

確かに私のそばにあったんだ。

やっとそう思えた。


食べ終わってもまだ泣いていた。

子どもみたいにぼろぼろ泣いていた。

目尻を拭い、無理に泣きやんで立ち上がる。

真っ赤な目になっているのが

鏡を見ずとも分かったけれど

顔も洗わず、パジャマだけを着替えて

カーテンをざっと開けた。


夜はまだ完全に明けきってなくて

力のない柔らかい光が

町を、私を、包んでいるようだった。


でも、夜はまだ明けきってない。

いつ完全に明けるのかも分からないまま

私は少しずつ明るさが増していく東の空を

清浄で真っ白な美しい光に包まれた町を

1人で見続けていた。














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