あんた次第
三、
《薬売り》に、《天女の梅の木》の実でつくった梅干しをすべて売ることにしたが、どうしてもひと壺だけは手もとにのこしたくて、嘘をついた。
「 ―― これで、本物の《天女の梅の木》の梅干しは、すべてでございます・・・」
板の間に八つならべた壺のひとつの蓋をあけて中をのぞきこんだ《薬売り》は、棚にのこるほかの壺をいちどながめてから、「 そうかい 」とうなずいた。
思った通り、この男に『本物』と『普通』の梅干しの区別がつくわけではないようだ。
懐から重そうな袋をとりだすと、ならべた壺の横におき、あの汚い革袋をその上にのせた。
「 さっきも言ったが、はやいとこ殿様に頭をさげて梅干しはカビにやられて腐ったとでもいやあ、どうにかなるだろ。 だが、 ―― それでも仕置きされそうになったら、そのときにこの《めくらましの薬》をつかえばいい」
「 お殿様ではなく、わたくしが飲む、というわけで? 」
「 そうさ。 あんたに効く薬だからねエ 」
「 でも、あんたさん、『あつらえた』薬を売っていると言わなかったかね 」
「 まあ、たまに売れ残ることもあるし、薬をつくるやつがね、いろいろ頼まれてもいないものをつくりたがったりするんでねエ」
「 その、《めくらましの薬》というのは、どういうものから作ってあるので? 」
「 そりゃあ、言えねえし、知らない方がいいってこともあるさ 」
「 ・・・飲んだら、どうなりますので? わたくしの目がくらんで・・・そのままあの世ゆき、という薬でございますか? 」
「 まあ、あんたの目もすこしはくらむかもしれねえが、まあ、そりゃあんたより、ほかのやつらの目をくらますっていう薬だ」
「 はあ?わたくしが飲むのに、ほかの者の目を? 」
「 まあ、飲みゃアわかる。 だがね、それを飲まずにすむのがいちばんだよ。なによりもまず、あんたがすぐにお殿様に『梅干しはもうとどけられねえ』と伝えないとねエ。 日がたてばたつほど、言い出しにくくなる」
最後はこちらをみすえて強くいいきった。
「 ―― そ、それはもちろん、そうするつもりではございます 」
「 そうかい? ならあとは、あんた次第だねエ」
並んだ梅干しの壺をとりあげると、背負い箱の中へとおさめてゆく。このこぶりな箱では壺はすべてはいりきらないだろうとおもったのに、どういうわけかすべておさまり、薬売りは満足そうに箱をかつぐと、ふりかえることもなく村をでていった。




