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一二三(ひふみ)の壺のはなし  作者: ぽすしち


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15/15

出番がきた

ここで終わりです。。。



「 ・・・うんん? もう、そとへ出なさったか? おうおう、ひからびた梅干しがまだ底にのこっておる。これがその、『天女の梅の木』の梅干しか? まあだ八つはありそうじゃな。これをまいにち三つまでかぞえていなさったか。 どれ、手をいれてもかまわんか?もう、この壺のなかにはおらぬか? 」



 オウメはそのふるい壺をのそきこんだ。



 壺の底には、干からびかけているがまだ食えそうな梅がくっついている。息をつよくふきこんで、つぎに手をつっこんでかきまわすまねをしてみたが、梅干しのほかは、『何も』ないようだった。


 どうやら壺の中で梅干しをひいふうみいと数えていた男は、どこかへ出て行ったようだ。






 この梅干し屋の下働きにかよいはじめ、大旦那さまから『天女の梅の木』の梅干しのはなしをきき、土蔵からもれるぼぞぼぞとした声をひろうまで、ひと月もかからなかった。



 オウメは十二の年で奉公へでてからこのとしまで、ゆく先々で、こんなことによくであう。



 べつに嫌ではない。


 それに、もうだいぶ慣れてもいた。





 そうしてオウメは、その壺のことを大旦那様におしえたが、壺の中にかくれていた男からきいたはなしは、しないでおいた。 なのに、大旦那はまるで口止めをするように、「こりゃあ、わしとあんたでわけよう」とにっとわらい、壺からとりだしたひからびた梅干し五つをくれた。



 

 その梅干しは、大事にとってあった。




 なにしろ、天女がくれた梅の木になった実なのだ。

 

 あのおかしな《薬売り》のはなしをきかなくたって、これはきっとすごい効能があるだろうとわかる。



 もしも、なにか重い病にでもかかったりしたら、じぶんで食べようと思っていた。



 だが、今日こんにちまで、重い病にかかったことがない。 




 だからこのごろでは、死ぬ前にでも昆布茶にいれて飲むか、経をあげてくれた坊さんにでも残しておくかと、箪笥にしまってあるそれをながめていたのだが・・・。






     その出番が、いま、きたのかもしれない。





「 おうおう、ヒコさん、かげんはどうじゃ?ねてろねてろ。ぼっちゃまがえらい心配なさっての。なんだかふつうの流感りゅうかんとちがってお医者様のくすりがきかねえなら死ぬこともある、とか言ってな。こりゃあえらいことだとおもってな。ほれ、わしが粥でもつくるからまってろ。そのまえに、いい昆布をぼっちゃまがわけてくださったんでな。先に、昆布茶でもつくってみるか。ああ、梅干しをいれると、もっとうまくなる。 ―― わしが、ちょうどいい梅干しをもってきたんでな。粥にもいれるか?そのままだとすこし・・・いやいや、とにかく寝てまっとれ。いーから、いーから」



 さいごのご奉仕先だと思っている一条のおぼっちゃまの友達のヒコイチという男は、口も態度もそれほど良いわけではないが、オウメは気にいっている。



 その男が、このまえからばったり倒れてうごけなくなっている。




 まあ、若いから、一粒か二粒でじゅうぶんだろう。




 おきあがったヒコイチは、梅干しをいれた昆布茶を両手でつつみこんですすると、赤い顔をあげてオウメをみた。


「 ばあさん、こりゃあうめえ 」



『 梅干しだけにな 』



 ヒコイチのあとにしゃべったのは、オウメが『ネコマタ』とまちがえたあの黒い猫かもしれない。

 ヒコイチが布団からあしをだし、土間にむけておいはらうようにふっている。




「 うまいか?そりゃあ、よかったの。いま、粥もできるわ 」


 



 ヒコイチのかわりのように、縁の下から猫の鳴き声がした。











 この梅干しのでどころは、ヒコイチの熱がさがり、すっかりからだももどってから、松庵堂の大福をもってオウメのところへ礼をいいにいったとき、




  ――  ようやくヒコイチが知ることとなる。











目をとめてくださったかた、おつきあいくださったかた、ありがとうございました!


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