婆のはなし
五、
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「 ・・・・それから きづけば ここで、ずっと、梅干しをかぞえておりまする 」
ひさしく人とはなしなどしたことがなったせいか、ひどく、すっきりとしたような気になり、なんだかからだがかるくなる。
ふん、と鼻息をいきおいよくもらしたとしよりの女が、「その《薬売り》のせいじゃろ」といいきった。
「 そう・・・でございますかね・・・。やはり、あのカビは・・・ 」
息をもらすようなおかしなわらいごえをとしよりのおんながあげ、「ぜんぶにきまっとろオ」と、いいながらすべて開けてしまったので、さきほどよりつよいひかりが中へとさしこんだ。
「 おまえさま、その《薬売り》のせいでみイんななくしたんじゃろ。 いいか、このババのはなしをよおききなされ。わしはここへ通いでくることになった年寄じゃ。はじめにきたときから、なにか聞こえてはおったが、こえがちいさくて、土蔵の中だとしかわからんかった。今日は、蔵の中でねずみがずっとないておると大旦那さまにゆうて、鍵をあけてもろてな、いくつも荷をどけてようやく、この壺がでてきよって、そこでようやく、おまえさまが数をかぞえておるのはわかったが、三つまでしかかぞえあげん。だがの、そこでこのババは、この梅干し屋の大旦那さまからきいたはなしをおもいだしたぞ。 ―― この梅干し屋の何代か前の旦那様は、お城に梅干しを献上しておる最中に、ぽっくりと亡くなったそうじゃ。おどろいたお城から知らせがあって家のものが亡骸を迎えにいっているあいだにな、お城に献上しておった、『天女にもらった梅の木』と伝わる実の梅干しがなくなっておって、のこりの梅干しの壺には、ぜんぶカビがはえておったんじゃと。そのうえ、その『天女にもらった梅の木』が、根元から折れて倒れておってな、この家はなにか『天女』の怒りを買って祟られたと噂が出たのを、お殿様が『ここの梅のおかげで病も癒えた』ともうされて、つぎの年からまたつくれるようになった梅干しを殿様がたんまり買い上げてくださったんだと 」
「 お、お殿様が?いや、怒り狂って刀を・・・ 」
「 おまえさまは、お殿様に挨拶もするまえに、畳に頭をつけたまま、亡くなっておったんじゃ。その《薬売り》とかいうあやしい男におうたときから、おかしなことになっておったんじゃろ。 ―― ここの梅干しの商売はいまもうまくいっとるわ。気の毒にのお。そのあやしい《薬売り》にからんだおまえさまだけが、そこにずうっと、逃げ隠れたままだったんじゃなあ 」
「 ・・・ああ、なら、・・・もう、・・・梅干しは・・・ 」
「 かぞえんでも、よかろおに 」
「 ・・・ああ、ならば・・・ 」
「 おまえさまがよければ、ここをあけるぞ 」
ああ・・・そうか・・・
ならばこの暗くせまいところへ逃げこんだこのあさましい姿も、もうかくすことはない。
ずず、とこすれる音がして、まぶしい光が中にあふれ、みあげた丸い中に、年寄りの女のちいさな目がみえた。




