どうにもならぬ
「は、はい。 しかしながら・・・、その梅干しに・・・カビが・・・」
「 カビだけのければ、どうにかなろう 」
「い、いえ。それが、どの壺も、中の中にまでおよびまして、・・・お出しできる梅干しが、もう、のこりわずかと・・・」
「 わずか!?なにを申す、今年のぶんだと金もわたしてあるのだぞ! 」
「は、はい!ですので、おかえしいたします!」
「 金をかえしてすむはなしか! 」
「ですが、すべてカビにやられてしまい、どうにもなりませぬ!」
「 ええい!すべての壺がだめになるなどなかろう!いくつにも分けてあると申したではないか! 」
「はい、わけてございますが、」
「 さては! 《殿様の梅干し》を、他へながしたか!? 」
「 と、《殿様の梅干し》? ―― いえ、たしかに殿様へお分けしておりますが、あの梅干しは、わたくしのものでございます!」
「 殿の領地にある梅の木ならば、殿の梅だわ! 」
「うちのじいさまが天女にもらった梅の木ならば、その実をどうしようとうちの勝手!」
「 この ぶれいもの!! 」
いつの間にか身を起こし怒鳴っていたこちらに、むこうのお付きの男も膝でにじりよっていた。
しかも、そのおとこが刀をつかみ、鞘から身をひきぬこうとするのがいやにゆっくりとみえた。
刀など、どこにあった?
おかしい。このとしよりのおつきの男は、梅干しの代金をこちらに渡すとき、お城の台所もだいぶ厳しいというはなしをしたあと、おのれの刀も売って、この金をつくったと・・・。
だが、たしかにそこで、ぎらぎらとしたながい刃物がゆっくりとぬかれようとしている。
『 まあねエ、こうなっちなうんじゃねえかと心配したのさ。
さあ、いまがあの薬の飲みどきだよ。持ってるんだろオ?さっさと飲んじまいな 』
御簾のほうから、殿様のほそい声ではなく、あの《薬売り》のこえがした。




