おそれながら
四、
きょうこそは、こんどこそ、とおもいながらときは経ち、半月がすぎてしまった。
《天女の木》の梅干しがなくなることは、まだ殿様に伝えられずにいる。
まいにち、震える手で壺から梅干しをとりだす。
ひい ふう みい
底に残った梅干しをみてみぬふりで、早々に蓋をとじる。
掲げ持つ梅のはいった器が、日に日に、重くなってゆく。
お城までの道のりが、なんだかみじかくなってゆく気がした。
震える膝をすすめ石段をのぼり、門を通され、いつのまにか、いつもの廊下をすすみ、いつもの大広間へととおされた。
くちがかってに、本日の梅干しをおさめにまいりました、といって、からだがかってに、縮こまるようにして畳に額をつける。
「 ―― うむ。あすもたのむぞ 」
これはあの。お殿様のお付きの、年をとった男の声だ。
「 まいにち、世話をかけるな 」
離れたところから細い声がした。御簾のむこうにいるお殿様だ。
「い、いえ、とんでもございませぬ」
「 このところは、庭へでて歩きまわるのも疲れなくなったぞ。あとすこししたら、馬にものれるようになろう 」
言ってほそいわらいごえをたてた殿様が、せきこむのを耳にしながら、もう、 ―― ここまでだ、と観念した。
「お、 おそれながら・・・ この、・・・梅も・・・のこりすこしとなっておりまする・・・」
「 おお、だが、ことしの梅の実も漬けたときいたぞ。それに、おぬしの前の代から残っている梅干しもあるのだろう?」
このお付きの男は、うちの棚にたくさんの梅干しの壺があることを知っている。




