届いたのは、君からのメッセージ
僕は、本を読むのが好きだった。
休み時間になると、いつも図書室に行っていた。
だからなのか、クラスメイトは僕を避けていたように思う。
でも、そんな僕にも、友達ができたんだ!
相手は、転校生のゆうき君。
彼は明るく、誰とでも仲良くなれる子だった。
ある日、彼も図書室にやってきて、僕の所に来たんだ。
「同じクラスのひろと君だよね。何読んでいるの?」
「……内気な少年が、親友と一緒にいろんな冒険をする話だよ」
「あっ、それ俺も読んだよ。すごく面白いよね!」
そう言われて、僕はうれしくなったんだ。
だって、初めて共感してくれる相手ができたんだから。
それから、ゆうき君と話すようになって、どんどん仲良くなったんだ。
だけど、楽しい日々は、突然終わりを迎えた。
ゆうき君から、小学校を卒業したら、遠くの中学校に行くことを聞いた。
そして卒業式の後、僕は彼の前で泣いてしまった。
「別々の学校なんて、嫌だよ……」
「泣かないで、ひろと君」
「だって、君と離れたら、僕はまたひとりになっちゃう……」
「大丈夫だよ。また会えるから」
そして月日は流れ、僕は二十歳になった。
会社にも入って、二年目になるため、後輩もできた。
だけど、僕は仕事が遅くて、上司に怒られてばかり。
しかも、後輩は仕事がよくできるので、いつも僕を見て鼻で笑っていた。
僕は悔しい思いと、情けない気持ちでいっぱいだった。
僕の心は、どんどんすり減っていった。
そんな日が続いて、やっとの休みの日。
僕は、ベッドの上で、膝を抱えて落ちこんでいた。
すると、インターホンが鳴った。
でも、出る気にもなれないので、無視していたんだ。
そしたら、何回もインターホンが鳴った。
さすがにうるさいと思い、しかたなくドアを開けた。
ドアを開けて、僕は一瞬固まった。
だって角の生えた、大柄で黒いマントをした男の人が立っていたんだから。
「あの……どちら様ですか?」
「わしは魔王便。お主に、これを届けにきた」
「僕に?」
『魔王便』という人は、手に持っていた手提げ袋を僕にくれた。
そして、こう言ったのだ。
「わしにはわからんが、友は大切にするのだぞ」
「えっ、どういうことですか?」
僕が聞き返した時には、男の人はもういなかった。
首を傾げた僕は、手提げ袋を持って、家の中に戻った。
「なんだったんだろう。それに、僕に友達なんか……」
僕はそこまで言って、思いだした。
いや、僕にもいた。ゆうき君だ!
僕は、慌てて袋から中身を取り出した。
「あっ、これって……」
中に入っていたのは、小学生の時に読んでいた本だった。
「懐かしいなぁ……あれ、何か挟んである」
本に挟まっているのを見つけ、その部分を開いた。
それは、しおりだった。
「なんで、こんなもの挟んで……あっ!」
そのしおりには、文字が書かれていたんだ。
『君は、ひとりじゃない ゆうき』
その力強く書かれていた文字に、僕は泣いてしまった。
ひとしきり泣いて、僕はしおりの裏を見た。
そこには、ある古本屋の名前が書かれていた。
「そうだ、ここに行けば、ゆうき君に会えるかも!」
僕はスマホの地図で、その古本屋を探した。
三十分くらいかけて、やっと見つけたんだ。
僕は少し入るのを迷ったけど、心を決めて入ることにしたんだ。
「いらっしゃいませ」
「ゆうき君!」
「えっ、ひろと君?」
ゆうき君に会えて、僕はうれしかった。
彼は、突然来た僕に驚いていたけど。
そして、優しく微笑んだんだ。
「そっか、魔王便さん届けてくれたんだな」
「うん、ちゃんと受け取ったよ、ゆうき君の言葉!」
「少し前に君を見かけたんだけど、すごく辛そうだったから……」
「うん……仕事がうまくいかなくて……」
だったら、俺とここで働かないか?
「えっ?」
「ひろと君、本が好きだったよね。君がよければなんだけど……」
「ありがとう、うれしいよ!」
それから僕は、一か月後に会社を辞めた。
今は、ゆうき君と一緒に古本屋をやっています。
友達と働けて、僕は毎日、楽しい日々を過ごしています。
「そういえば、『魔王便』って、珍しい宅急便だよね」
「あぁ、確か魔王がやっている宅急便なんだって」
「えーっ、なにそれ」
そう言って、僕たちは笑い合った。
だけど、僕は感謝している。
だって、彼とまた会えたのは、魔王便さんのおかげなんだから。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!