第4話 魔王の一日は地獄スケジュール
ーーー結論。
魔王ディアヴェルは忙しい。 忙しいなんてもんじゃない。多忙の次元が違う。
曰く---。
◆
魔族は大きく四つの血族に分かれている。それらが常に派閥争いをしており、
国内は常に揉めに揉めているらしい。
「誰かにモノを頼めば、その家を重用するのかと他の3家から猛抗議がきて執務が止まる。
1人でやった方が早い、というのが自分が出した結論だ」
結果、国政は魔王の机に全部回ってきており、その結果がこの様相らしい。
(つまり兄様……ほぼワンオペ国家運営……!?)
朝から晩まで謁見、調停、文書決裁。 食事も机で書類を見ながら摂れればいい方。
夜になっても蝋燭の明かりで書類を裁き、寝るのは明け方。
(……それで、いつも眠そうな顔だったのか……)
「いつもはここまでではないのだが…ここ数日の分が溜まってしまってな」
それは、わたしと出かけたりしたせいでしかない。
「これでも、他国との戦争をやめたので仕事は減った。
もう数日で多少落ち着くゆえ、妹には寂しい思いをさせるが部屋で刺繍でも…」
迅速な戦争終結も、仕事の断捨離の一環だったという人間側からすると衝撃の事実が明かされる。
それはそれとして。
私は、こんなに忙しいのに歓迎の準備をしてくれた兄様に報いたい気持ちがむくむく湧いてきた。
妹らしく笑って焼き芋を食べている場合じゃない。
「兄様、わたくしお手伝い致します」
偽物の妹だとしても、家族の健康を脅かす生活には改善を求める権利があるはずだ。
とくになんの特技もないが、私は元の国で身につけた事務スキルがある。
書類整理、日程管理、交渉の下準備。バックオフィスの民をなめてもらっては困る。
これを活かせば、多少は魔王様の役に立てるはず。
しかし、魔王様はゆっくりと頭を振ってその提案を拒絶した。
「妹は、そこにいるだけでよい」
魔王はわずかに首を傾けて、淡々と告げた。
「お前が何をしてもしなくても、妹だと思っているゆえ安心せよ」
胸の奥が、きゅっと締めつけられた。
----役に立たなければ、生きていけない。
孤児として生きてきた私をいつも追い立てていたその焦燥感に、なぜこの人は気づくのか。
ますます、腹の底からやる気が湧いてきた。
「兄様の言うことなんて聞いてあげない! いいから早くさっきの書類、出す!」
「『妹大全――千世界の妹気質とその生態』にあった通りだ。
ツンデレ妹が、妹界隈では1番の生息数の多いと書いてあった」
「はいはい。もうそれでいいから、さっさと書類をだす!」
私が適当にいなすと、魔王様は苦笑しながら小箱の蓋を開けた。
再びそこから吹き出す書類をかき集める私に、「無理はしないように」とだけ言って執務に戻った。
◆
「まずは文書を種類ごとに分類するか」
書類の吹き出しが終わると、私は内容をざっと確認しつつ大枠での分類を進める。
「……カルド家からの不満書。……グラース家の領地境界線問題。
……ヴォルト家の武具納入遅延。……ノクス家の密偵逮捕抗議……うわあ、ろくな案件がない」
四つの血族が互いに足を引っ張り合っているのが、書類だけでよくわかる。
これを兄様が全部処理していたのかと思うと、胃が痛くなる。
「兄様、これは書類を減らすより、争いの種をなくしたほうが早くないですか…?」
「そうだろうな」
「なんで今までやらなかったんですか?」
「……そっちの方が、面倒くさい」
「諦めないで下さい…」
書類をチェックしながら、陳情書にある余計な話題や挨拶などの前書きの多さに、
まずは提出書類の規格統一を決意しながら黙々と書類の分類を進めていった。