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第3話 妹、妹らしくあろうとして空回る

 「妹らしさって、なんだろう」

 私は、今朝のスープをすすりながら唐突にそんな疑問にぶつかった。

 毎回食事は一緒にとっていたが、今日は魔王様はお出ましにならないとのことなので

 部屋で気楽に食べさせてもらってる。

 魔王ディアヴェルの妹――という設定でこの城に来て、2週間。

今すぐに殺されることはなさそうだと、ようやく少し安心して過ごせるようにはなってきたものの。

 私の正体は、妹の偽物。 しかしこの数日間、魔王は一度も私を疑うそぶりを見せなかった。

 それどころか――


(……普通に優しい)


 淡々としているが、食事の席では必ず私が食べ終わるのを待っているし、

 歩くときも自然に歩調を合わせてくれる。

 朝は目が合うとコクリと軽くうなずき、夜にはなぜか猫のぬいぐるみを6匹設置しに部屋にくる。

 全員、ティアラ付き。


 (多少変な部分があれど……兄としての完成度、めちゃくちゃ高くない……?)


 このままじゃ私の方がバランス悪い。

 偽物なのに、妹としての完成度が低いのは危険だ。

 そう思った私は、スープの残りを飲み干して、決意した。


 「よし! 妹っぽいことをして、魔王様を喜ばせよう!」


◆ 


 まずは無難に、「兄様、仲良くしましょう」路線だ。

 兄妹といえば、なんでも遠慮なく言える関係。

 そんなやりとりができれば魔王様も「妹がいて嬉しい」と感じるはずだ。

 ちなみに本当は魔王様の参考図書が詰まった図書室に行きたかったが、

 「お前には、刺激が強すぎる」

 と許可がでなかった。 いったい、どんなものがあるというのか更に不安は深まる。


 さっそく廊下で魔王様を見つけた私は、深呼吸してから駆け寄った。


「兄様っ! お会いできて嬉しいですっ!」

 

 魔王は一瞬だけ私を見た後――


「……ああ」


 それだけ言って、私の頭をひと撫でする。


 (えっ……?)


 めちゃくちゃクール……というか、受け流された…?

 きっと廊下で妹とバッタリ会った時の兄妹マニュアルが出てくると思っていたので

 普通の対応にビックリして、魔王様の顔をガン見してしまう。

 

 ーー顔色、わるっ! 


 昨日までは朝と夜は必ず食事を一緒に摂っていたのに、今日は1人だったのは

 もしかして具合が悪かったのだろうか。


 「兄様、…体調が悪いのではないですか?」

 「いや…そんなことはないが?」


 そう言うが綺麗な顔にクッキリと刻まれたクマが、誤魔化せない疲労を表している。


 (あ! お兄ちゃんを労うといえば膝枕――とか、魔王様的に妹っぽいと思われるのでは!?)


 私は勇気を振り絞って提案してみる。


「兄様、お疲れではありませんか? その、もし……もしよければ、膝枕など……」

「断る」

「秒で!?」


 即答だ。理由もなく拒否された私の心は粉々である。


「……膝枕は、まだレベルが高い」

「レベルがあるんですか!? じゃあ今は何レベルなんです?」

「1だ」

「まだ第一歩目からのスタートだった!!」


「まだまだこれからだ」と大きくうなずくと、執務室の中に入っていってしまった。

 パタンと閉まった扉をみながら、あまりの覇気のなさに妹作戦どうこうより心配が勝る。


 「…もしかして今日、なにも召し上がってないのではないかしら?」


 厨房に向かい料理長に聞くと、やはり「今日は何もお出ししてない」との返事。

 ならば、と私は厨房をお借りして作業を始めた。



「兄様! ちょっと休憩されませんこと?」

 

 執務室の扉に控えめなノックをすると、中からくぐもった返事が聞こえてきたので

 声をかけながら、そっと扉を開く。


「……ん? 妹か。なにか用か?」

「な、なにこれ!?」


 魔王様の執務室は、書類で溢れていた。

 比喩ではなく、床という床にうず高く書類が重なって散らばっているのだ。


 「各所から、陳情の書類がここに転送されている。…待て、今片付ける」


 執務机の小箱を魔王様が開けると、その中にズワっと書類が吸い込まれていく。

 一気に綺麗になった執務室の書類の下から現れたソファを私に勧めると、魔王様もそちらに移動してきた。


 「『猫と妹の類似性について』に、妹は仕事をしていると

  かまってほしくて寄ってくるという記述があったが、正しい理論であったようだ。

 <撫ですぎると逃げる>との記載もあったが、さて」


 と手を伸ばしてきたが、それどころではない。


 「兄様、今ちらばっていた書類は…」

 「ここ数日、妹と遊ぶのに時間を使ってしまったのでな。溜まったものを片付けていたのだ。

 なにか用事があってきたのだろう? どうした?」

 「あ、ええ。兄様に食べて欲しくて、軽食を作って参りましたの。 一息いれませんか?」


 厨房から借りてきたカートから、緩めに作ったリゾットを出す。

 魔王様は驚いたように目を見開くと、嬉しそうに目を細めた。

 「いただこう」 カトラリーを手に取ると、黙々と食べ始める。


 「うまい。 こういう味が妹は好みなのか?」

 「ええ。私の故郷の味なのですが、お口にあってよかった」


  皿がぴかぴかになるほど残さずに完食してくれて、ちょっと嬉しくなる。それにしても、


 「…兄様。私が言うことではないですが、毒が入ってる心配などしなくてよかったのですか?」


 いきなりきた妹が作ったものを食べるなんて、無用心の極みだ。


 「私に効く毒は、この世にない」

 「あ、左様で…」


 あらためて、この人が魔王様であることを思い出す。

 食事をしたせいか顔色が戻ったようで少し安心したので、気になっていたことを聞いてみる。

 「…ものすごい数の書類でしたが、数日仕事をしないだけであんなことになるんですか…?」

 恐る恐る聞いてみると、魔王様の驚きの暮らしぶりを知ることになった。 



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