凪 ト 響
大切な人々を失い、無力感に打ちひしがれた紡。
しかしそこで途絶えることはなかった。
神によって告げられた「ゲームオーバー」の言葉。それは、彼の人生が単なる「転生シミュレーション」であったという事実を突きつけられる。
後悔の中で紡が見つけた、唯一の希望。それは、失われた命を取り戻し、二度と悲劇を繰り返さないという揺るぎない決意。
神から与えられた圧倒的な力――因果を操る能力の真髄を習得し、再びあの世界へと舞い戻る。
これは、二度目の生を歩むことを決めた青年が、失われた絆を再び紡ぎ、宿命に抗い、大切な人々を守り抜く物語。彼が見たのは、希望か、それとも新たな絶望か。繰り返される「日常」の中で、紡は己の全てを賭け、未来を切り開く。
響との騒動の後、紡と朔月、そしてなぜか当たり前のように二人についてきた響の三人で、街の巡回を再開した。
未だに響の能力や彼の行動の真意を完全に理解しきれていない紡は、朔月と響のやり取りの一つ一つに内心で注意を払っていた。
「そういえば響くんって、俺がここに配属されてきてから、急に気配を感じるようになったんですけど……」
「それ以前もずっと朔月さんのそばに、気配を消して一緒にいたの?」
紡は、素朴な疑問を響に投げかけた。彼の「隠密気配」がどれほどの範囲で有効なのか、いつから朔月の傍にいたのか。純粋に気になったのだ。
響は、紡の問いに鼻で笑い、得意げに胸を張った。その態度は、まるで大した功績をあげたとでも言いたげなほどだった。
「ふんっ、当然だろ。俺は管理局から出向命令が出てて、暁紋都に一時的に応援派遣されてたんだよ」
「お前みたいな低能には、想像もできないくらい遠い場所だけどな」
響は、紡への嫌味を混ぜながら答えた。その言葉に、紡の眉がわずかにぴくりと動く。
紡は、以前に街の人から聞いた暁紋都のことを思い出した。なんでも都市部になればなるほど強力な怪異が現れる傾向がある、と聞いていた。
そんな危険な場所へ派遣されていた響が、まだ十代前半のような見た目にも関わらず、そこで活動していたという事実に、紡は内心で驚愕した。
(こいつ……こんなクソガキのくせに、俺よりもよっぽど優秀な天才なのか……?)
悔しいが、その事実は認めざるを得ない。
響は紡の内心の動揺には気づかず、さらに言葉を続けた。
「で、派遣を終えて帰ってきたら、見知らぬ男が凪ちゃんと仲良くしてたんだ。姉さんを守る弟の使命として、そいつを監視するのは当然だろ?」
響は、悪びれるどころか誇らしげに言い放った。その口調は、まるで教科書通りの模範解答を述べたかのようだ。
紡は、そのあまりにも堂々としたシスコン発言に苦笑いしかできない。どう反応すればいいのか分からず、ただただ乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。
一方、朔月はそんな響の様子を見て、どこか複雑な、悔しそうな表情を浮かべていた。
その表情には、弟の歪んだ愛情に対する困惑と、諦めが混じっているかのようだった。
巡回を続ける中、朔月はいつものように紡へ雑談を持ちかけた。
「ねー、ツムくん。そういえばさ、この間食べたお菓子、美味しかったよねー」
いつもの明るい口調で、他愛のない話をする朔月。紡もまた、彼女のペースに合わせ、普段と変わらない距離感で会話を続けた。
その緩やかな空気に、張り詰めていた心が少しだけ和らぐ。
話題がカイの話に移った時だった。朔月がカイに触れるため、紡の右側から左隣のカイの元へ回り込もうとした。
その際、彼女の足元がわずかにもつれ、よろめきそうになる。
「あっ」
と、声が漏れた瞬間、紡は咄嗟に手を伸ばし、朔月の腕を支え上げた。朔月の柔らかい腕が、紡の指先に触れる。
その、ほんの一瞬の触れ合いだった。だが、その瞬間、紡は背筋にゾクリと冷たい視線を感じた。
これまでも感じていた、どこか冷たく、執拗な視線。それは、まさしく響からの、嫉妬に近い視線だった。
紡の視線の端っこで、響が明らかに怒りと嫉妬を抱えて、その小さな身体を小刻みに震わせているのが見えた。
彼の瞳は血走っており、紡を射殺すかのような鋭い光を宿している。
響は、堪えきれなくなったかのように、突然朔月の腕を掴んだ。その手には、明らかに力が込められている。
「凪ちゃん! 凪ちゃん、待ってて! 俺、凪ちゃんの好きな満月大福、今すぐ買ってくる!」
響は、無理やりに朔月を紡から引き離す。その顔は、先ほどまでの怒りが嘘のように、朔月に対してだけは甘えた表情を浮かべていた。
朔月の好きなものを口に出し、それを餌に紡と二人きりにさせないという、響の必死な意図が、朔月にも紡にもはっきりと分かった。
朔月は、そんな響の意図を察しつつも、優しい笑顔を向けた。
「えー、満月大福!? 嬉しい! じゃあ響、私、すぐ近くの公園のベンチで待ってるから、買ってきてくれる? お願いね!」
朔月はそう言いながら、響の頭を優しくポンポンと撫でた。響は、その言葉に安堵と喜びを覚えたのか、これ以上ないというほどの最高の笑顔を浮かべた。
「うん! 任せて凪ちゃん! すぐ戻ってくるから!」
そう言うが早いか、響は一目散に駆け出していった。その速さは尋常ではなかった。まるで、風を切るようなスピードで、あっという間に人影の中に消えていく。
(は、速い!? あれ、人間か!? 怪異を追う時もあんな速度出すのか……いや、まさか満月大福のためだけに……?)
紡は、その驚異的な速さに呆れると同時に、改めて響の能力と、彼がどれほど朔月に執着しているのかを思い知らされた。
響が買いに走っていくのを見送った二人は、近くの公園のベンチに座って待つことにした。
木陰に腰を下ろすと、先ほどの騒がしさが嘘のように、心に染み入る静けさが訪れた。
「朔月さん、そういえば、弟さんがいたんだね。これまで一度も聞いたことがなかったから、少し驚いたよ」
紡は、雑談のタネとして、改めてその話題を切り出した。朔月の様子を窺うような、探るような気持ちがあった。
それを聞いた朔月は、急に表情を曇らせ、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんね、ツムくん。実は弟がいたことは黙ってたの。あの時は咄嗟に嘘をついちゃって……」
彼女の突然の謝罪に、紡は少し焦った。
「え、そんなことで!?」
紡が思わず笑い飛ばすと、朔月は顔を上げ、紡の言葉を遮った。
「そんなことなんて言わないでよ! 私にとっては、すごく言いにくいことだったんだから!」
朔月は笑いながらも、少し拗ねたように唇を尖らせる。その表情は、いつもの明るい彼女とは少し違って見えた。
だが、紡は朔月のその言葉に引っかかりを感じた。なぜ、それほどまでに隠したがったのか。
「どうして、嘘をついたんですか……?」
紡の問いに、朔月の表情から笑顔が消えた。悔しそうに唇を噛みしめ、重い口を開いた。
「……響は、私の弟ではあるけど、実は血のつながりはないの」
朔月の言葉に、紡はハッと息を呑んだ。
(朔月さんが、以前話してくれたこと……)
1周目で朔月が幼い頃に怪異によって家族を失ったこと、そして管理局に保護されたことを話していた事を思い出す。
彼女が、その悲劇の後、新しい家族の元に引き取られたことを示唆していた。響は、その家族の一員だったということか。
朔月の声は、徐々に力を失っていく。
「私が引き取られた時には、もう家に響がいたの。響は小さい頃から因果の力が強くて、それこそ天才だって、両親は褒めちぎってた」
朔月の口調は、どこか寂しげだった。
「でも、養子である私と、天才である実子の響を、両親は露骨に比べてたんだ」
彼女の言葉に、紡は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「響の見えないところで、私だけずっと嫌味を言われてた。『お前さえいなければ、響はもっと伸び伸び育ったのに』とか、『お前は本当に厄介者だ』って……」
朔月の声は、途中で途切れそうになる。その言葉は、まるで鋭い刃物のように、紡の胸を深く突き刺した。
身体的な暴力ではなく、魂を蝕むような言葉の暴力。それがどれほど苦しいものか、紡には想像に難くない。
「管理局の調査員になったのも、もちろんみんなを怪異から守りたいって気持ちはあったけど……」
「半分は、養父母たちから『お前みたいに何の役にも立たない人間が、せめて給付金をもらえるだけの存在になれ』って、半ば強要されたようなものだったの」
朔月は、遠くを見つめるような瞳で、寂しそうにそう言った。その声には、やり場のない悲しみと、諦めが滲んでいた。
それを聞いた紡は、やるせない気持ちでいっぱいになった。言葉にできない深い悲しみが、彼の胸を満たす。
朔月の明るさの裏に、これほど重い過去が隠されていたとは。
「それからね――」
朔月がさらに何かを話そうとした、その瞬間だった。
「凪ちゃーん!! 満月大福、ないよぉぉぉぉぉ!!」
遠くから、すごい勢いで響が戻ってくるのが見えた。その声は、絶望と怒りに満ちている。
朔月の悲しそうな表情を見た響は、真っ先に紡の顔を睨みつけた。その瞳には、ものすごい剣幕の怒りが宿っている。
「お前! 凪ちゃんに何言ったんだよ! 凪ちゃんが悲しそうな顔してるじゃないか!」
響は、紡に向かってまるで牙を剥くかのように怒鳴りつけた。
朔月は、そんな響の剣幕を、いつもの調子で柔らかく諭した。
「もう、響ったら! ツムくんは何もしてないよ。大丈夫だから、落ち着きなさい」
朔月の優しい声が、響の怒りを少しだけ和らげる。
響は、朔月と紡の間に、まるで紡を邪魔者とばかりにどかすように、ドカッと勢いよく座り込んだ。そして、すぐに朔月にデレデレと甘え始める。
「凪ちゃん、満月大福、売り切れてたのぉ! なんか、さっき大柄な男の人が全部買い占めたんだって! 凪ちゃんと一緒に食べたかったのにぃ……!」
響は、子供のように朔月に抱きつき、泣きつく。その言葉の節々から、満月大福が手に入らなかったことへの純粋な悲しみと、それを朔月と共有できなかったことへの不満が滲み出ていた。
それを見ていた紡は、朔月が優しいのはよく分かるが、響がどうしてこんなにもシスコンになってしまったのか、その根源的な理由について改めて疑問に思った。
その後、無事に巡回を終えた三人は、管理局に戻り、今日の報告を済ませた。一日中立ちっぱなしだった足が重い。紡と朔月は寮へと、連れ立って歩き出した。
すると、響が当たり前のように朔月の寮の部屋についてくる。まるで、そこが自分の家であるかのように。
「響、もう自分の家に戻りなさい。あなたにはあなたの部屋があるでしょ?」
朔月が窘めるように言うと、響は、初めて、本当にしょんぼりとした表情で黙り込んだ。
その耳は少し垂れ下がり、普段の生意気な態度からは想像もつかないほど、小さく肩を落としている。その姿に、紡は少し驚いた。
朔月も、そんな響の様子を見て、わずかに顔を綻ばせる。
「……分かったわよ。今日だけだからね?」
その言葉に、響は露骨にご機嫌になった。顔を輝かせ、再び朔月の腕にしっかりと組み付いた。
それを見ていた紡は、昼間の朔月の話から、どうやら響の実家にもなにかしらの問題を抱えているのではないか、と考えた。
朔月を「厄介者」と扱った両親が、響に対しても何か複雑な感情を抱いているのか。紡は眉間に皺を寄せ、真剣な表情でその謎について考え込んだ。
その紡の真剣な表情を、響は珍しくじっと見つめていた。彼の瞳の奥には、どこか複雑な感情が揺れているようだった。
寮に戻った紡は、いつものようにカイと寝る準備をしていた。カイは、紡の足元に丸くなり、幸せそうに寝息を立てている。
その穏やかな時間に、トントン、と控えめなノック音がドアを叩いた。
こんな時間に誰だろう、と首を傾げながらドアを開けると、そこに立っていたのは響だった。
響は相変わらず生意気な態度だが、どこか真剣な雰囲気も漂わせている。彼の顔には、昼間見せた子供らしい表情とは違う、決意のようなものが浮かんでいた。
「おい、お前。ウチのことについて、変な詮索はするなよ」
響は、紡の目を見据え、真剣な声で釘を刺した。その声には、朔月を守ろうとする強い意志が込められている。
「何の話だ?」
紡が戸惑うと、響は一歩踏み込んできた。
「凪ちゃんから直接聞こうとするな。凪ちゃんが傷つくのは嫌だ。だから、俺から話しておくから、それで終わりにしろ」
響は、半ば命令するように告げた。紡は響の真意を測りかねつつも、彼の真剣な表情を見て、ただ事ではないと察した。
彼がここまで朔月を守ろうとする理由が、一体どこにあるのか。
響は、朔月が話したがらない理由を語り始める――そう紡に告げ、その瞳の奥に、遠い過去の光景を映し出した。
響がまだ幼かった頃、それはまだ記憶もおぼろげな、ほんの数年前のことだった。
ある日突然、見慣れない少女が両親に連れられてやってきた。それが、朔月だった。
両親は、朔月のほうに視線を向けながら、響に説明した。
「この子はね、怪異に襲われて家族と離れ離れになっちゃったんだって。可哀想だから、しばらくの間、うちで預かることになったんだよ」
響はまだ幼く、最初は新しい「姉」の存在に戸惑った。見慣れない場所で、どこか怯えた表情をしている朔月に、どう接すればいいのか分からなかった。
しかし、朔月は響にも優しく接してくれた。おどおどしながらも、響の遊びに付き合ってくれたり、絵本を読んでくれたりした。
次第に響は、新しい「姉」の存在を受け入れ、心を開いていった。朔月もまた、新たな家族として響を受け入れようと努めていたように見えた。
その時には気づかなかった。幼かった響には、まだその裏に隠された真実が見抜けなかった。
だが、月日が経ち、物事を理解するようになってから分かったことだ。
響の両親は、表面上は朔月を引き取った心優しい善人を装っていたが、裏では朔月に対して執拗な言葉の暴力を振るっていたのだ。
響が部屋にいない時、あるいは彼が寝静まった後。あるいは、両親の機嫌が悪い時を選んで、彼らは朔月の心の傷をえぐるような言葉を平気で浴びせていた。
「お前さえいなければ、うちの響はもっと伸び伸び育ったのに」
「怪異に家族を殺されるなんて、よほどお前が弱かったせいだろう。生き残って、うちの邪魔をするなんて、本当に厄介者だ」
「お前は給付金目当てで引き取っただけの存在なんだから、せめてその分くらいは役立つ存在になれ」
彼らの言葉は、鋭い針のように朔月の心を突き刺した。響の両親が朔月を引き取ったのも、後に分かった事だが、養子として引き取れば国から給付金がもらえるためであり、あくまで目先の金のためであった。
彼らは響には優しい顔を見せるが、朔月には冷淡で、時に存在そのものを否定するような言葉を浴びせていたのだ。
朔月は、その言葉の暴力に耐え、響の前でだけは、いつも明るく優しい「姉」であるように、笑顔を貼り付けて平気を装っていた。
しかし、その内面では深く傷つき、孤独を感じていた。その笑顔の裏に隠された悲しみに、幼い響は気づいていた。
響は、幼いながらもその違和感に気づいていた。なぜ、両親は朔月に対してだけ冷たいのか。なぜ、朔月はいつも無理に笑顔を作っているのか。
幼い響には、どうすることもできなかった。ただ、隠れて姉の様子を伺うことしかできない。
ある雨の日だった。両親にひどい言葉を浴びせられ、朔月は自分の部屋で膝を抱え、静かに涙を流していた。
その小さな肩が震えている。響は、ドアの隙間からその光景を見ていた。その時、彼の幼い胸に、これまで感じたことのない強い感情が湧き上がった。
――この人を、守らなければ。
幼いながらも、響は本能的にそう思った。朔月がどれほど傷つき、孤独を感じているのか、彼なりに理解した。
その日から、朔月を傷つけるもの全てから守ろうと、響は彼女を影から見守るようになった。
朔月が悲しむ顔を見たくなかった。彼女の笑顔が、嘘ではない本当の笑顔であってほしかった。
彼が朔月に甘えるようになるのは、もしかしたらこの頃からだったのかもしれない。
それは、朔月を励まし、彼女を安心させるための、彼なりの方法だったのだ。朔月が笑顔でいれば、響も安心できた。
響は、そこで言葉を切った。その瞳は、今も遠い過去の光景を見つめているようだった。
「……そんなことがあって、凪ちゃんは、自分の過去、つまり養子縁組の家族のことを、誰にも話したがらなかったんだ」
「あそこは、凪ちゃんの心の傷を深めた場所だったから」
響の言葉には、朔月を理解し、彼女を守ろうとする、強い決意が滲んでいた。
ここまでの話を聞いた紡は、響の語る事実に呆然としてしまう。朔月の明るさの裏に、これほどまでの悲劇が隠されていたとは。
言葉の暴力という見えない虐待が、彼女の心を深く傷つけていたのだ。
響は、紡の反応には構わず、さらに念を押すように続けた。
「それに、響の両親から凪ちゃんへの言葉の暴力は、外部に漏れてはならない『家の中の秘密』だった」
「だから、迂闊に凪ちゃんに聞こうとするな。凪ちゃんがその『秘密』を他人に知られることを、何よりも嫌がってるからだ」
響の瞳は、再び鋭い光を放ち、紡を真っ直ぐに見据える。
「分かったか。だから、凪ちゃんは可哀想なんだ。お前みたいなやつが、これ以上、凪ちゃんを傷つけるんじゃないぞ」
響の言葉は、相変わらず生意気で、紡を突き放すような響きがある。
だが、その生意気な言葉の根底には、朔月への深い愛情と、彼女を守りたいという強い願いがあることが、紡にははっきりと伝わった。
響は、彼なりの方法で、朔月を守ろうとしているのだ。
紡は、響の生意気な態度の中に隠された、朔月への純粋な想いを理解した。彼への見方が、この瞬間、少しだけ変わる。
ただのシスコンではなかった。彼なりの、朔月への深い愛と、守りたいという使命感があったのだ。
響は「言いたいことは言った。じゃあな」と一方的にそう言うと、紡の部屋を後にした。彼の足音は、あっという間に向かいの部屋へ消えていった。
響の話を聞いて、紡は朔月の明るさの裏にある深すぎる傷と、彼女がどれだけの苦痛を乗り越えてきたかを痛いほど理解した。
朔月が、なぜあそこまで他者に優しく、明るく振る舞えるのか。
それは、自身が経験した悲しみや、響の両親からの仕打ちを、他者には味合わせたくないという、彼女自身の強い願いから来ているのかもしれない、と紡は考える。
そして、響のシスコンは、単なる歪んだ愛情ではなく、幼い頃に見た朔月の苦悩に対する、彼なりの「守る」という行動だったのだと納得する。
朔月が響の存在を言いたくなかったのは、その過去に触れられたくなかったからだと、紡は痛感した。
紡は、朔月を守りたいという気持ちを新たにした。
それは、単なる怪異からの保護だけでなく、彼女の心の傷にも寄り添いたいという、より深く、温かい感情へと変化していた。
紡の心に、朔月という存在が、かけがえのないものとして刻まれる。
てとまるです。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
今回は、少し深堀回になりました。
朔月家は、毒親感がありますね。そんな中で拗らせながらも普通に育った響くん、
とっても良い子ですね、言葉使い以外は。
さて、次回は少し動きのある回になるかと思います。
お待ちいただけると幸いです。
それでは、よろしくお願いいたします。




