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Fw:キュウカ ト 日常

大切な人々を失い、無力感に打ちひしがれた紡。

しかしそこで途絶えることはなかった。

神によって告げられた「ゲームオーバー」の言葉。それは、彼の人生が単なる「転生シミュレーション」であったという事実を突きつけられる。


後悔の中で紡が見つけた、唯一の希望。それは、失われた命を取り戻し、二度と悲劇を繰り返さないという揺るぎない決意。

神から与えられた圧倒的な力――因果を操る能力の真髄を習得し、再びあの世界へと舞い戻る。


これは、二度目の生を歩むことを決めた青年が、失われた絆を再び紡ぎ、宿命に抗い、大切な人々を守り抜く物語。彼が見たのは、希望か、それとも新たな絶望か。繰り返される「日常」の中で、紡は己の全てを賭け、未来を切り開く。

 石凝の言葉が転送室に響き渡り、その場に張り詰めていた緊張感が、わずかに緩んだ。

烏賀陽は、場の空気を換えるように穏やかな声で紡に語りかけた。


「杜野さん、それでは私から寮にご案内いたします。朔月さんも寮にお住まいですので、ご一緒に帰りましょう」

烏賀陽の言葉に、朔月はにこやかに頷いた。


 紡は内心で少し驚いた。だが、これは1周目と違う展開だ。むしろ、朔月と二人きりになる機会が増えることに、ひそかに期待を抱いていた。


 管理局を出て寮へと向かう道中、朔月と烏賀陽は楽しげに談笑していた。朔月の朗らかな笑い声が、街の喧騒に溶け込んでいく。

烏賀陽もまた、普段の冷静な表情を崩し、柔らかい笑顔で朔月の話に耳を傾けている。そんな二人の様子を横目に、紡は次に起こる出来事を思い出していた。


(あ、そうだ。この後、朔月と出かけることになるんだっけ……)

思い出が鮮明になるにつれて、紡の心臓はドクンと音を立てた。朔月との「デート」は、1周目でも意識せざるを得なかった出来事だ。

チート能力を手に入れたとはいえ、女性との関係においては、彼はまだ純粋な「童貞」なのだ。

顔が自然と熱くなるのを感じ、紡は内心で慌てふためいた。


(や、やばい……また童貞ムーブが出てしまう……! なんとか、なんとか冷静を保たねば……!)

紡の内心の葛藤などつゆ知らず、朔月と烏賀陽の談笑は続いていた。やがて、彼らは管理局から少し離れた所にある、局員寮へと到着した。

中に入り、複数の部屋が立ち並ぶ中、烏賀陽は一つの部屋の前で足を止める。


「ああ、そういえば杜野さん。お部屋は朔月さんの部屋の前になりますね」

烏賀陽が指差したのは、朔月の部屋の真向かいのドアだった。


 朔月は「わーい、ツムくんがお隣さんだ!」と無邪気に喜んでいる。

しかし、紡は内心で叫び出しそうになった。


(ま、まじかよ! お隣さんって! 1周目でもこうだったけど、まさか本当に隣だとは……これは、完全に「恋の予感」とかいうやつじゃないか!?)


 紡の顔は、さらに熱を帯びた。その紡の様子を、烏賀陽は静かに見つめていた。彼の口元には、いつの間にかニヤリとした笑みが浮かんでいる。

烏賀陽は、紡の朔月に対する秘めたる想いを、とっくに見抜いていたのだ。


「フフ……杜野さん。明日は引っ越しや寮生活の準備で忙しくなるでしょうから、管理局から特別に休暇を付与します。ゆっくり準備してください」

烏賀陽はそう告げると、紡に顔を向けたまま、朔月の方へ視線をやった。


「朔月さん。杜野さんは新しくこの寮に来たばかりですから、寮生活に慣れるためにも、色々と手伝ってあげてください」


 烏賀陽の言葉に、朔月は目を輝かせた。

「はい、分かりました! ツムくん、私に任せてね!」

朔月は喜んで了承し、紡に笑顔を向けた。その笑顔は、あまりにも眩しく、紡の童貞心をさらに刺激する。


(うわぁあああ! こんなことまで1周目の再現はしなくて良いのにぃいいい!)

紡は内心で悲鳴を上げた。朔月との二人きりの「引っ越し準備」など、彼にとっては想像を絶する試練だ。

恥ずかしさと、予想通りの展開にテンパる気持ちが入り混じる。


 しかし、その時、ふと紡の脳裏に電流が走った。この場面なら、1周目と違うことをしても、今後の大きな運命には影響しないのではないか、という直感が働いたのだ。

寮生活の準備という些細な事柄は、怪異との戦闘や、未来の悲劇に比べれば、いくらでも軌道修正が可能だ。


 紡は、冷静さを装い、烏賀陽に告げた。

「あの、烏賀陽さん。実は俺、住居が必要ないんです」


 烏賀陽の眉が、わずかに上がる。

「……と、言いますと?」


「ええと……俺、実は以前から放浪していまして。定まった住居を持たずに、各地を転々と旅していたんです。だから、引っ越しという概念自体がないと言いますか……」

紡の言葉に、烏賀陽は訝しげな目を向けた。


「へぇ……。今どき、定住せずに放浪している方はかなり珍しいですね。……もしかして、何か犯罪をして逃げている、というわけでは……?」

烏賀陽の鋭い問いに、紡は顔色を変えた。


(ぎゃあああ! やっぱり疑われるよな! そりゃそうだ! 根無し草とか言ったら怪しまれるに決まってる!)


 紡は必死に手を振り、慌てて否定した。

「い、いえ! そんなことはしません! 犯罪なんかしていません! ただ……そうですね、趣味で旅をしていると言いますか、根無し草のようなものでして……」


 紡の必死な言い訳に、烏賀陽は顎に手を当てて考え込んだ。その表情にはまだ疑念の色が残っているものの、深く追求する様子はない。

「フム……。珍しいケースではありますが、確かにそういう方も稀にいらっしゃいますね。とりあえず、今のところは納得しておきましょう」


 烏賀陽の言葉に、紡はホッと胸を撫で下ろした。これでなんとか、この場は乗り切った。


「あぁ、そうそう。寮の説明ですが、生活家電と、ある程度の必需品だけは揃っております。あとはご自身で必要なものを揃えていただく形になります」

烏賀陽の説明を聞き、紡はさらに思考を巡らせた。確かに、寮には最低限のものはあるだろう。

だが、カイの寝床やご飯といった必需品と、自分自身の洗面用具や着替えといった必需品は揃えたい。しかし、彼はこの世界でろくな金銭を持っていない。


(しまった……。神に再転生の際、路銀が少ないと文句を言うのを忘れていた……)

しかし、仮に言ったところで、あの神はしたり顔を浮かべながら「文句言うならあげないよ?」と返しそうだ。そう考えると、無性に悔しくなった。


 紡は意を決し、烏賀陽に切実に問いかけた。

「あの……烏賀陽さん。大変恐縮なんですが、カイの必需品と、俺自身の必需品も揃えたいのですが……正直、あまりお金がなくて……、何とかなりませんか……?」


 烏賀陽は、紡の言葉に動揺する様子もなく、淡々と言った。

「ああ、問題ありません。調査員としての活動に必要なものであれば、経費として精算が可能ですから」


 そう言うと、烏賀陽は懐から革製の財布のようなものを取り出した。中から、まるで小切手のような紙切れを取り出す。

サラサラと万年筆で何かを書き込み、それをちぎって紡に差し出した。


「これで必要なものを揃えてください。領収書は後日、私に提出いただければ結構です」

渡されたものに記載されていた数字を見て、紡は目を丸くした。そこには、ゼロがずらりと並び、とんでもない金額が記されていたのだ。

おそらく通貨単位も金額感も、自分の元居た世界と同じであろうと察した紡は、そんな大金をあっさりと渡す烏賀陽の行為に驚愕した。


(え、これ、いくらだよ!? ゼロの数が尋常じゃないぞ!? この人、こんな大金をホイホイ渡して大丈夫なのか!?)

紡の内心の驚きなど、烏賀陽には全く届いていない。そのやり取りを、朔月は、?を浮かべたような顔で二人を見ている。

彼女の瞳は、紡と烏賀陽の間を何度も往復していた。



「では、引っ越しは必要ないとしても、寮生活の必需品の買い出しには行く必要がありますね。その際、やはり朔月さんの手も必要でしょう」

烏賀陽は、まるで当然のように朔月に付き添いを促した。


 朔月は目を輝かせ、烏賀陽の言葉に便乗するように、100%善意の笑顔で紡に語りかけた。

「うんうん! 私もツムくんの買い物、付き添うよ! なんでも手伝うからね!」


 朔月の言葉に、紡は頭を抱えたくなった。

(くそっ! やはり回避不可能か! デートイベント!)


 紡は、もはや朔月との「デートイベント」を回避することは不可能だと悟った。彼の表情には、諦めと、ほんのわずかな期待が入り混じっていた。


「わ、分かりました……明日は朔月さんと共に……買い出しに……行きます……」

紡は、しぶしぶといった様子で答えた。朔月は、そんな紡の反応に、楽しそうに笑っていた。明日は朔月と共に行動する。

それは、紡にとって嬉しい反面、彼の童貞心を試される、新たな試練となるだろう。


 烏賀陽と朔月に別れを告げ、自分の部屋に戻った紡は、改めて、今日一日の出来事を振り返った。

再び大切なみんなに会えたこと。そして、自分の能力を使いこなし、神に言われた通り、まさにチートの力で怪異を無双できたこと。

その全てが、紡に深い満足感を与えていた。温かい安堵感に包まれながら、紡はベッドに身を横たえ、深い眠りについた。


 翌朝、紡は目覚まし時計が鳴る寸前、時間ぴったりに目を覚ました。寮の前に着くと、そこには既に朔月が待っていた。

彼女は、普段の管理局の制服とは違う、可愛らしい私服姿だ。淡いラベンダー色のロングスカートに透け感のある白いブラウスが、彼女の可憐さを際立たせている。


 何度見ても見慣れないその可愛さに、紡の心臓はドキドキと高鳴った。

(可愛い……! やばい、可愛すぎる……!)


 朔月は、紡とカイに気づくと、パッと顔を輝かせた。


「ツムくん! カイちゃんも! おはよう!」

 朔月の元気な声が、朝の寮に響き渡る。


「じゃあ早速、カイちゃんのお世話用品とか、ツムくんの生活用品の買い出しに行こっか!」

彼女は楽しそうに歩き始めた。


 紡は、まだ童貞心が顔を出しそうになるのを必死に抑えながら、心の中で固く誓った。


(この光景を、何度でも見れるように……俺が、必ず守る!)


 買い物は、1周目と違い、円滑かつスムーズに済ませることができた。

烏賀陽から貰った小切手のおかげで、金銭的な心配もなく、必要なものを全て揃えることができたのだ。

高額な小切手も、この世界の金銭感覚では、管理局の調査員が持っていて当然のものなのだろうか。そんなことを考えながら、紡は安堵のため息をついた。


 朔月とはまるで恋人のように、たわいもない会話をしながら、一緒の時間を夕方まで過ごすことができた。

雑貨屋でカイのおもちゃを選んだり、カフェでお茶をしたり、街を散策しながら場所の案内をしてもらったり。

1周目では味わえなかった、穏やかで楽しい時間が過ぎていった。


 再転生と同時に、少し度胸がついたのではないか。そう、紡は内心で確かな自信を持ち始めていた。



 一通り、今日の楽しい思い出を噛みしめた紡は、自室に戻り、静かに窓の外を見つめていた。今日の日中の楽しかった記憶が、彼の心を温める。

しかし、それと同時に、いよいよ運命の明日を迎えることに、張り詰めた緊張感が彼の全身を支配し始めた。


 明日、あの怪異が再び現れる。そして、その怪異によって、この神楽郷に甚大な被害がもたらされる。

何よりも、大切に思う人々が、巻き込まれてしまう。あの強い怪異を、誰よりも先に払いに行かなければならない。

いたずらに被害が増えてしまう前に、手を打たなければ。そう、紡は思考を巡らせた。


 どうやって被害が増える前に奴と接敵し、祓えば良いか思案するも、良い案がなかなか浮かばずに、紡は苦悶した。

1周目の経験があるとはいえ、怪異の発生は予測不能であり、場所も正確には特定できない。下手に動けば、それが逆に被害を拡大させることにもなりかねない。

かと言って、管理局の指示を待っていては、手遅れになる可能性もある。


 彼の脳裏には、1周目で目の当たりにした、破壊された街の光景がフラッシュバックする。


(どうすればいい……? どうすれば、あの悲劇を完全に防げるんだ……?)


 しかし、紡はすぐに頭を振った。

「いや……もう大丈夫だ、あの時とは……違うって証明するんだ」


 彼はすでに、神から与えられた、この世界で最強の力を手に入れているのだ。過去の自分とは、何もかもが違う。

次こそは、必ず。どんな犠牲も出させない。


 強い決意を胸に、紡は静かに目を瞑った。明日に備え、彼は心を落ち着かせようとしていた。

しかし、その瞳の奥には、燃え盛る炎のような、未来への強い意志が宿っていた。

てとまるです。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


今回は閑話休題の回になりました。

調査員って命がけの仕事だから、結構給料とか良いのですかね?

皆さんは能力があったとしたら、調査員をやりますか?私はやりません。命が惜しいです。


さて、次回はいよいよあの強大な怪異との再戦になります。

どんな結果が待っているでしょうか。


それでは、よろしくお願いいたします。

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