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Fw:カノジョ ト 異変

大切な人々を失い、無力感に打ちひしがれた紡。

しかしそこで途絶えることはなかった。

神によって告げられた「ゲームオーバー」の言葉。それは、彼の人生が単なる「転生シミュレーション」であったという事実を突きつけられる。


後悔の中で紡が見つけた、唯一の希望。それは、失われた命を取り戻し、二度と悲劇を繰り返さないという揺るぎない決意。

神から与えられた圧倒的な力――因果を操る能力の真髄を習得し、再びあの世界へと舞い戻る。


これは、二度目の生を歩むことを決めた青年が、失われた絆を再び紡ぎ、宿命に抗い、大切な人々を守り抜く物語。彼が見たのは、希望か、それとも新たな絶望か。繰り返される「日常」の中で、紡は己の全てを賭け、未来を切り開く。

 翌朝、紡は普段よりも早く目覚めた。差し込む陽光が部屋を明るく照らしている。簡易宿泊施設の質素な朝食を済ませると、すぐに石凝と烏賀陽に呼び出された。

昨日と同じ会議室のような場所へと足を踏み入れると、1周目と同じように、石凝が腕を組み、鋭い眼差しで紡を見据えていた。

烏賀陽は、隣でいつものように落ち着いた表情で控えている。


「杜野紡。貴様が使用した廻環術について、改めて聞きたいことがある」

石凝の低い声が、静かな会議室に響く。一周目では、彼らと共に怪異と対峙し、その力を目の当たりにした後にこの尋問が行われた。


「はい、何でも分かる範囲で全て答えます」

紡は、まっすぐな目で石凝を見つめ返答した。


「妙に素直だな……、まあいい。まず、その能力はいつ発現した?」


「能力の発現時期は、昨日、カイを……、俺と一緒に居たあの犬を助けた時です。祠にいた怪異を祓うために、自然と力が湧き上がりました」

紡は澱みなく答える。石凝の眉が、わずかに動いた。


「……具体的な能力の内容を説明しろ。我々の知る廻環術とは、明らかに特性が異なる」

石凝の問いに、紡は神から教えられた自身の能力内容を、さらに簡潔に、そしてわかりやすく説明した。


「俺の能力は、『因果律の操作』です。万象の因果を文様として認識し、それを改変することができます」

「具体的には、物質やエネルギーの生成・消滅、物理法則の操作、生物の活動への干渉、記憶や思考の改変、時間の操作、情報の隠蔽、そして抽象的な概念の操作などが可能です」

「さらに、連鎖的な因果を誘発させ、望む結果へと世界を誘導することもできます」

紡の説明は、あまりにも流暢で、かつ深遠な内容を含んでいた。石凝の表情に、疑念の色が濃く浮かぶ。隣の烏賀陽も、目をわずかに見開いている。


「因果律の操作……? それが、お前の持つ廻環術だと?」

石凝の声には、明らかに不審が混じっていた。


「何故、昨日の今日で自分の能力について、そこまで理解できている? 普通はありえんぞ?」

石凝は、あまりにも詳細で、まるで最初から全てを知っていたかのように語る紡に、強い違和感を覚えているようだった。


(しまった!あまりにも知りすぎていたか……?)

紡は内心で焦った。昨日の調書でも、あまりにもスムーズに、そして的確に答えてしまった自覚がある。

一般的な新米の廻環術師であれば、自分の能力をここまで明確に、しかも専門的な言葉で語ることはまずないだろう。


 紡がどのように言い訳をするか考えていたその時、烏賀陽が口を開いた。

「室長。確かに杜野さんの説明は、発現したてにしては詳しすぎるかもしれませんが、廻環術に関する研究は進んでいます」

「一般の人間でも、文献や資料を通じて、ある程度の知識を持っていることは珍しくありません」


「ましてや、杜野さんは今回、自力で怪異を祓った実績もあります。知的好奇心から、事前に自分にはどんな能力が発現しうるのか調べていたとしても不思議ではありませんよ」

烏賀陽の言葉に、石凝の眉間の皺がわずかに緩んだ。確かに、烏賀陽の言う通り、知識がある者がいてもおかしくはない。


「……フン。まあ、特段怪しむ理由があるわけでもない。今回は良しとする」

石凝はそう言い放ち、それ以上の追及はしなかった。紡は内心で深く安堵した。


(助かった……烏賀陽さん、流石だ!)


 石凝が視線を外したその瞬間、烏賀陽が紡に小さく、しかし明確にニヤリと笑みを見せた。

その表情は、「分かってるだろ?」とでも言いたげな、どこか含みのあるものだった。


 紡は、烏賀陽の洞察力に舌を巻きつつ、やはりこの男は只者ではないと改めて認識した。


「能力については分かった。では、その能力に名前を付けるとすれば?」

石凝はどこか事務的に聞こえるような声で、紡に聞いた。


 紡は、迷いなく答えた。

「『因果律の操作者(えにしつむぎ)』です」



 それからもスムーズに事は進み、以前よりもずっと早く登録が終わり、石凝は紡に向き直った。

「杜野紡。貴様の能力の特性から鑑みて、やはり管理局の調査員として協力してもらう必要がある。怪異の発生頻度は増大している」

「貴様のような強力な廻環術師は、我々にとっても貴重な戦力となる」


 石凝の言葉に、紡は満面の笑みで答えた。

「はい! 喜んで協力させていただきます!」


 その紡の返事に、石凝は眉をひそめた。

「……貴様、命にかかわる仕事だぞ? なぜそんなに嬉々としているのか、不気味でなないか」


「いえ、滅相もございません!」

紡は慌てて真顔に戻り、1周目と同じように演技を始めた。


「管理局に協力できること、そして、この神楽郷の平和を守る一助となれることが、私にとっては何よりも光栄でございます!」

「何かお役に立てるならば、喜んでこの身を捧げます!」

紡の熱のこもった嘘の言葉に、石凝はさらに怪訝な顔をした。烏賀陽は、紡の芝居がかった態度に、小さく肩を震わせている。


「……フン。貴様の真意は測りかねるが、まあ良いだろう。明日から正式に調査員として勤務してもらう」

石凝の言葉に、紡は内心でガッツポーズをした。これで、予定通りに進む。



 石凝の言葉はそこで終わらなかった。以前と少し違う動きをしたことで、因果の流れが変わったのだろうか。

「調査員として働くにあたり、いくつか確認したいことがある。まず、隊服の用意が必要か。そして、武具の用意は必要か」


 石凝の問いに、紡は一瞬、思考が停止した。

(隊服? 武具? まさか……、これ一周目にはなかったパターンだぞ!?)


 紡は内心で、天を仰ぎたくなった。まさか、自分が先回りしたことで、こんな細かい部分にまで影響が出るとは思っていなかった。

これまで完璧な再現度だっただけに、このイレギュラーな展開に、紡の頭の中は軽い混乱に陥っていた。


 烏賀陽が、紡の様子に気づいたのか、心配そうに声をかけてくる。

「杜野さん、どうかしましたか? 急に顔色が……」


「い、いえ! 大丈夫です! あまりに光栄すぎて、少し感極まってしまって……!」

紡は必死に誤魔化した。冷や汗が背中を伝う。


「あー……そうですね。隊服は……今の服装が、比較的動きやすいので、もし可能であれば、これと同じような作務衣調の隊服を用意していただけると助かります」

紡は、冷静さを装いながら答えた。作務衣であれば、動きやすさも確保でき、何より普段着に近い感覚でいられる。


 そして、もう一つ、重要なことを思い出した。自身の能力の代償として右腕に出てしまう、おぞましい文様の存在だ。

この世界では、怪異を連想させるそれらは、忌まわしいものとして扱われるはずだ。


 一周目では、幸いなことに目立つ機会が少なかったが、これからは調査員として積極的に動くことになる。

能力を使うたびに右腕に文様が浮かび上がるのだから、隠す必要があった。


「あと……、そうですね。個人的な要望で恐縮なのですが……右腕にアームカバーのようなものがあると嬉しい……です……」


 紡は、とっさに嘘をついた。

「ええと、その……能力を使う際に、右腕を酷使することが多くて、その、腱鞘炎の予防と、補助になるかと思いまして……」


 烏賀陽は、紡の言葉に真剣な表情で頷くと、おもむろに会議室のホワイトボードにペンを取った。

キュッ、キュッと小気味良い音を立てて、烏賀陽は流れるような線で、指ぬきのアームカバーのようなイラストを描き始めた。

それは、手首から上腕までを覆い、指先は露出している。


「これですか? こういった形であれば、動きを妨げずに済むかと」

烏賀陽が描いたイラストは、まさに紡がイメージしていた通りのものだった。

これならば、文様を隠すこともできるし、実際の能力使用における集中力維持にも役立つかもしれない。


「はい! まさにこれです! 是非、この形でお願いできますでしょうか!」

紡は、興奮気味に答えた。烏賀陽は、満足げに頷いた。


「分かりました。手配しておきましょう」

石凝は、紡と烏賀陽のやり取りを黙って見ていたが、特に異論は挟まなかった。


 少し流れは変わったが、概ね順調に進んでいることに、紡は達成感のようなものを覚えていた。この調子でいけば、未来は変えられる。



 一通りの登録や採寸等を済ませると、既に夕食時になっていた。朔月のことを思い出した紡は、カイを連れて、急いで食堂へと向かった。


 食堂の扉を開けると、そこには数人の局員たちが食事を摂っていた。食欲をそそる香りが漂う。

紡はカイを連れて、トレーを手に料理を選んだ。1周目と同じメニューをあえて選ぶ。


 食事を早々に済ませ、空いているテーブルへと向かう。

ここまでで既に2周目を確証していた紡だったが、朔月に会うまでは、半ば心配の念が拭えずにいた。

彼女もまた、あの怪異によって命を落とした大切な仲間の一人だったからだ。


 そんな紡の心配を掻き消すように、あの衝撃を受けた時と全く同じように、朔月が現れた。

食堂の入り口から、ふわりと柔らかな空気を纏って現れた彼女の姿に、紡は思わず目を奪われた。

1周目よりも、ずっと彼女に釘付けになってしまう。


 透き通るような白い肌、薄紫色のポニーテール、そして、少し困ったように微笑む表情。

彼女の纏う空気は、まるで満開の桜のように優雅で、それでいてどこか儚げだった。


 朔月は紡のすぐ近くのテーブルに座ると、目の前に置かれた具材がほとんど入っていないような質素なカレーライスを見て、小さく、しかしはっきりと呟いた。

「はぁ、またこれかぁ……」


 その、どこか諦めを含んだ、しかし可愛らしい声を聞いた瞬間、紡の瞳から、再び熱いものが込み上げてきた。

再会できた嬉しさと、あの時、彼女を守れなかった後悔の念が、同時に胸を締め付ける。


(朔月さん……)


 紡は、涙を見せないように、慌てて机に突っ伏した。その様子を、足元にいたカイが心配そうに見上げていた。

クン、クン、と鼻を鳴らし、紡の顔を覗き込む。


「クゥン……?」

カイの心配そうな声が周囲に響き、朔月はその音に気づき、ハッと顔を上げた。

カイの姿を見つけると、彼女の表情は輝き、まるで吸い寄せられるように紡たちのテーブルへと近寄ってきた。


「あぁ~、可愛いワンちゃん! 迷子かな?」

朔月は、しゃがみこんでカイの頭を優しく撫でた。カイも、朔月の手の温かさに、嬉しそうに尻尾を振っている。


 1周目の完全再現とはならなかったものの、こうして朔月と再会できた喜びを、紡は噛みしめていた。

涙はまだ止まらないが、その中には、確かな希望の光が宿っていた。


「あ、あの……この子は、あなたの飼い犬?」

朔月は、カイを撫でながら、紡に尋ねた。紡は顔を上げ、涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠すように、恥ずかしそうに答えた。


「い、いえ……今日、家族になったばかりです」

朔月は、紡の返事に、にこりと微笑んだ。その笑顔は、まるで春の陽光のように温かく、紡の心をじんわりと溶かしていく。


「そうなんだ! 今日から家族なんて、素敵ね!」

朔月は、紡に突然話しかけたことを詫びながら、自己紹介をしようとした。


「あっ、ごめんね……自己紹介がまだだったね。私、管理局の調査員をしている……」

しかし、紡は彼女の言葉に被せるように、その名前を呼んでいた。


「朔月さん!」


 紡の言葉に、朔月は目を丸くした。

「え!? どうして私の名前を……?」


 朔月は、明らかに驚いた顔をしている。紡は、咄嗟に口から出てしまった自分の失態に、どうやって誤魔化そうかと慌てた。


(やっべ! またやっちまった!どうする、俺!?)

紡は、頭の中で必死に言い訳を探す。冷や汗が流れる。


「あ、いや……その……俺の廻環術で、見破りました!」

紡は、半ばやけくそ気味に、一番それっぽい嘘をついた。朔月は、紡の言葉に目をキラキラと輝かせた。


「ええ!? すごい! そんな廻環術があるなんて、初めて聞いた! 君は、どんな能力を使えるの!?」

朔月は、純粋な好奇心と尊敬の眼差しで紡を見つめている。彼女の可愛らしい反応に、紡は改めて、彼女がどれほど魅力的であるかを再認識した。

そして、2周目では見せないようにしていた、消えたはずの童貞ムーブが、再び復活しそうになるのを必死に抑え込む。


「い、いえ、大したことありません! あ、俺、杜野紡っていいます! よろしくお願いします!」

紡は、なんとか自己紹介を済ませた。朔月は、にこやかに紡の手を握った。


「私、朔月です! ねぇねぇ、杜野さん、だとちょっと呼びにくいから、ツムくん、って呼んでもいい? なんとなく可愛らしい響きで、杜野さんにぴったりな気がして!」

朔月の言葉に、紡は内心でガッツポーズをした。この展開も、1周目と同じだ! 朔月との距離が、早くも縮まっている。


「は、はい! もちろん、全く問題ありません!」

紡は、待っていたかのように、喜びを隠しきれない声で答えた。朔月は、そんな紡の姿を見て、またくすくすと可愛らしく笑った。


「ふふっ。そんなに愛称で呼ばれることを嬉しがるなんて、面白いね、ツムくん!」

朔月の笑顔は、紡の心を射抜いた。その屈託のない笑顔を、今度こそ、必ず守る。紡は、内心で固く誓った。


 その時、食堂の奥で烏賀陽と食事をしていた石凝が、突然立ち上がった。彼の声は、食堂全体に響き渡るほどの大声だった。

「おい、杜野紡! いつまでそこで女とイチャついてるつもりだ! こちらに来い! 早急に報告すべき事項がある!」


 石凝の言葉に、紡の顔は一瞬で真っ赤になった。2周目でも、まさかこんな大声で「イチャついてる」などと言われるとは。

恥ずかしさで、今すぐ地面にめり込みたかった。


「は、はいっ! 今行きます!」

紡は、朔月に申し訳なさそうな顔で謝罪し、慌てて石凝の元へと向かった。朔月は、そんな紡の姿を見て、また可愛らしく笑っていた。


 石凝は、紡が目の前に来ると、眉間に皺を寄せ、真剣な表情で告げた。

「緊急事態だ。先ほど、この神楽郷の北区で新たな怪異が生まれた。規模は不明だが、通常とは異なる反応を示している。併せて、貴様の力について最終確認をさせてもらう」


いよいよだ。紡の胸が高鳴る。肩慣らしの時が来た。1周目では、この怪異に苦戦を強いられた。しかし、今回は違う。


 紡は、その瞳に強い決意を宿し、石凝の言葉を静かに受け止めた。


てとまるです。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


2周目の朔月ちゃん登場回です。2周目でも彼女だけは純粋な子にしたいと思っています。

そして、紡のキャラデザを少し変更しました。

何となくチートなら武器はいらないな、と思い変更してみました。


さて、次回はカイ救出以来の怪異討伐回です。

次回をお待ちいただけると幸いです。


それでは、よろしくお願いいたします。

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