第七話 必殺技って憧れるよね!
補足
魔法の短縮詠唱ですが、詠唱をほんの少しだけ短縮しても、大幅に短縮しても、短縮詠唱という扱いになります。
魔法協会で『加速魔法』を登録した日から一年と少しが経ち、私は六歳になった。
あれから更に『防御魔法』と『追尾魔法』と『対魔力障壁魔法』の三つの無属性魔法を開発した。
尚、全て仰々しいだけの見掛け倒し魔法である。
具体的に言うと、魔力効率が頗る悪い。
まあ、そのおかげで一応、報奨金がたくさん溜まった。
尤も、私が転生してから買った物なんて、無属性の魔力を増幅してくれる杖と小物が少々ぐらいしかないけど。
他にも色々した。
例えば、師匠からほとんど全ての属性のよく使う(主に戦闘で)下級魔法を教えてもらい、そして無詠唱で発動できるようになるまで練習した。
その後、基本四属性のよく使う中級魔法を教えてもらい、短縮詠唱で発動できるようにもした。
一部は無詠唱まで頑張った。
上級魔法はまだ『追尾魔法』しか使えない。
しかも、『追尾魔法』は目標に向かって飛ばす系の魔法に後付けで付ける付与魔法なので実質、上級魔法は使えない。
そして現在、私は一旦上級魔法の習得は放置して、オリジナルの必殺技のような魔法を作るのに熱中している。
そんなある日、私は屋敷の訓練場で必殺技を作りつつ、練習していた。
「『岩投槍』」
無詠唱で発動した土属性中級魔法『岩投槍』はまっすぐに飛んでいき、的に刺さった。
「大分、素早く撃てるようになったな」
何故、この魔法を練習しているのかと言うと、必殺技にちょうどよさそうと思ったからでもあり、師匠の適性属性が土属性なので喜んでくれると思ったからでもある。
「よし、今度は『岩投槍』に『追尾魔法』をかけてみよう」
「『岩投槍』」
私は打ち出すイメージをせずにそう唱え、頭の上に出現した岩の槍を無詠唱で発動した『念力』で浮かせ、それを維持しつつ、『追尾魔法』の詠唱を短縮詠唱で唱えた。
「『追尾魔法』」
そう唱えて岩の槍に『追尾魔法』を付与してから、『加速魔法』で槍を適当に飛ばした。
すると、普通は的に当たらないような軌道を描いて飛んでいった槍が吸い込まれるように的に命中した。
「一応、成功ではあるけど。必殺技と言うにはまだ足りないな。詠唱に時間がかかり過ぎだし、魔力もそこそこ消費されたからな。いっその事、『追尾魔法』を削るか?でもな、『追尾魔法』を頑張って開発してまで、私はこの必殺技をやってみたかったのだよな。こうなったら、頑張って改良するか」
魔法協会で「飛行系の魔物退治に革命が起こるぞ!」と、持て囃された魔法がこんなに馬鹿馬鹿しい動機で生まれたと知ったら、真面目に魔法の研究をしている人が卒倒しそうな物である。
私はぶつぶつと独り言を言いながら、的を確認した。
今回の的は上級魔法の直撃でようやく砕けるぐらいの性能の物を採用したのだが、『岩投槍』は的に刺さっていた。
『岩投槍』を発動する時に打ち出すイメージは一切しなかった。
となると、威力は『加速魔法』に込められた魔力量に依存していると考えられる。
今回は『加速魔法』に『追尾魔法』一回分ぐらいの魔力を込めた。
つまりだ。
「おおよそ上級魔法二回ぐらいの魔力で上級魔法一回分以下の威力か。追尾機能が付いているとしても、もう少し効率を良くしたいな。それにもっと素早く打てないとな。まあ、練習をたくさんすれば効率も素早さもある程度はどうにかなるだろうけど」
「苦戦しているようですね。いっそのこと全ての呪文をまとめて一つの呪文にしてはいかがですか?」
「その案、いいですね!と言うか、いつからそこにいたのですか!?」
「つい先程ですよ。そんな事よりも、お嬢様、旦那様がお呼びですよ」
えっ?
◆◇◆◇
「お父様、ティファニーです」
「入りなさい」
頭の中で師匠が言っていた呪文をひとまとめにする案を検討ながら、中に入った。
「ティファニー、聞いたぞ。魔法協会で魔法の発表をしたそうじゃないか。お前の父として鼻が高いぞ」
私に父らしい事をした事が無い人が何かを言っているが、一応返事する。
「ありがとうございます」
「そんなお前には必要が無いと思い、今まで通わせていなかったが、色々あり初等学校に通ってもらうことになった」
色々ね。
大方、「あの家は子供に初等教育を施していない」と他貴族から批判されるのを恐れただけだろう。
にしても、今更私に小学校に行って何をしろと言うのだ?
そんな時間があるのなら、魔法の修練に使いたい。
ちなみにこの世界の初等学校はほとんど前世での小学校と同じである。
読み書き、算術、歴史など色々教えてくれるそうだが、既にこの国の高等学校の内容まで学習した私には必要ないのだが。
「とは言え、魔法に熱中しているお前から鍛錬の時間を奪うのは忍びない。よってお前にはこの後、編入試験と飛び級試験と卒業試験を受けてもらう」
よくわかっていらしゃる。
素晴らしいお父さんだ。
要するに形式上、通った事にしろと言っている訳だ。
流石だわ。
「かしこまりました」
さて、小学校の入学から卒業を一瞬で終わらすとしますか。
私は執務室から出ると、父の秘書さんに案内された部屋に行き、試験を受けた。
結果は言うまでもないだろう。
◆◇◆◇
試験を秒殺した私はくだらない用事に時間を使ってしまったと言わんばかりに『身体強化魔法』すら使って訓練場に素早く戻った。
そして定位置に戻るなり、くだらない用事を済ますついでに考えた呪文を詠唱し始めた。
例の全ての呪文をひとまとめにした呪文である。
「『岩投槍』」
私がそう唱えると、普通の『岩投槍』の物よりも複雑になった魔法陣から槍が現れ、勢いよく飛んで行き、槍は吸い込まれるように的に命中した。
威力、追尾性能の有無、飛距離、速度など、色々と元の『岩投槍』からかけ離れているため、名前を変えた方がいい気がするが、名称詐欺は昔からやっている為、今更である。
的を確認すると威力は前回よりも上がったが、消費した魔力量は同じぐらいだった。
「ましにはなったけど、まだまだだな。もっと改良するか。まずは槍の大きさを変えるか」
空気抵抗の影響を受けにくくしつつ、飛距離と威力を出すには鋭く重い槍を作ればいいが、それだと速度が遅い。
かと言って、速度重視だと飛距離も威力も出にくい。
いや、近距離でなら威力は出るか。
回転させる呪文を加えて、弾道を安定させるのは当然として、威力と速度のバランスを考えて呪文を考え直すか。
いや、用途別に分かればいいのか!
遠距離用と中距離用で分けるとしよう。
でもな、そうなると、近距離用も欲しいな。
それはまた、後で作るか。
あっ!威力を求めるなら爆発させたいな。
弾頭に火属性下級魔法の『火球』を仕込むか。
魔力を中級魔法一回分ぐらい注げば、そこそこの威力になるだろう。
空中で爆発されたら困るから、信管の役割の呪文も作るか。
完全に榴弾だな。
消費魔力量は増えるけど、私の魔力量ならそう簡単には枯渇しなさそうだし、まあ大丈夫か。
あっ!でも、呪文が長くなり過ぎるな。
簡素用と豪華用で分けるか。
榴弾を作るなら、徹甲弾も作りたくなるな。
私はその後、寝る暇を惜しんで、色々と槍の形や密度、呪文の構成などを変えて改良を続けた。
そして、その日から一週間後、後に戦場で大活躍する魔法が完成したのであった。
ティファニーの開発した魔法のほとんどが戦闘用で物騒な件。
まあ、魔法と言えば攻撃魔法だから仕方がないか。
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