第四話 無属性
四話目です。(結局プロローグは一話扱いしないことに決めました)
ちなみに本日は投稿初日記念ということで十話目まで投稿します。
追記
魔法の名称に誤りがあったので、修正しました。
間違いない。
そう断言できるほどに魔玉は白く光っていた。
「お嬢様の適性属性は無属性のようですね」
ここまで白かったら、そうでしょうね。
にしても、無属性か。
折角なら、光とか火とか派手な属性がよかったな。
「そうみたいですね」
無属性、それはまたの名を器用貧乏属性と言う。
一般的に適性属性と相性の悪い属性は使いにくいとされている。
だがしかし、無属性は相性が存在しないため、全ての属性が使えるのだ。
理論上は。
相性がない、それはつまり属性の得意、不得意がない。
得意な属性がない、と言う事は一つの属性を極められないということだ。
一つの属性を練習したとしても、その属性が適性属性の人よりも、上達に時間がかかり、普通の人よりは若干早いだけという、まさしく器用貧乏に陥りやすい属性と言えるだろう。
一応、無属性魔法が得意になるが、無属性魔法と言えば地味過ぎて、人気が無い属性だ。
さらに言えば、研究者がこぞって基本四属性の魔法ばかり開発するため、種類も少ないのである。
おそらく、全属性の中で最も人気のない属性の一つだろう。
「お嬢様、そんなに落ち込まないでください。一応、無属性魔法は地味で種類が少ないとは言え、使えなくはないのですから」
師匠が励ましてくれる。
「そうですね。でも、無属性魔法なんて適性属性でなくとも使えるじゃないですか」
無属性は相性がない。
つまり無属性が適性属性の人以外でも割と簡単に習得できるのだ。
「それはそうですね。ではこう考えましょう!不得意な属性がない、つまり全ての属性を使えると」
「全ての魔法を練習すれば、器用貧乏になりますよ」
確かに適性属性が無属性ならば全ての属性の魔法が使える。
でも、人の一生は短い。
たった一つの属性を極める事すら、才能ある魔法使いが一生をかけてようやくできるか、できないかと言われているのに。
「いい事を思いつきました!お嬢様、無属性魔法を極めればいいじゃないですか!歴史上、無属性を極めた大魔法使いは存在しません。一人目になるチャンスですよ」
正確には無属性魔法を極めた魔法使いは既にいる。
無属性魔法の種類は少ないため他の属性と比べ、簡単に極められるためである。
尤も、「極める」の定義をどこに置くかにもよるが。
「無属性は地味で、種類が少なくて、効果も今ひとつではないですか!」
「なら、お嬢様が作ればいいじゃないですか!」
魔法を作る。
そう言えば、魔法はどうやって開発されているのだろう?
「魔法はどうやって作るのですか?」
「意外と簡単ですよ。呪文を作ればいいのですよ。実は、私も一つだけオリジナルの魔法があります。そもそも、魔法はどうやって発動しているかと言うと、魔力を設計図と共に精霊に渡して奇跡を起こしてもらっているのです。つまり、その設計図である呪文を開発できれば、新魔法を作れるのです」
精霊とは魔力生命体の一種である。
高位の精霊以外は目に見えないらしいが、どこにでもいるとされている。
まあ、よく分からない魔法と言う現象を理解しようとして無理矢理、理屈をつけたと言うのが実態だが。
「呪文はどうやって作るのですか」
「精霊語で文章を書けば、作れますよ。まあ、詳しく書かないと精霊が何をすればいいのか理解してくれないので書き方には注意が必要ですが」
なるほど、その精霊語で呪文を作れば、強かったり、便利だったりする無属性魔法を作れるのか!
「師匠、私に精霊語を教えてください!」
「ええ、びしびしと教えるので覚悟してくださいね。あっ!今日ここに来た目的を忘れるところでした」
あっ!そう言えば、下級魔法を教えてもらうんだった。
研究があまりされていない属性とは言え、流石に下級魔法は何種類か存在する。
「無属性の下級魔法を教えてください!」
「ではやりますよ。『念力』」
師匠がゴニョゴニョと何かを唱えてから魔法名を唱えると、魔法陣が現れ、目の前にあった小石が浮いた!
「無属性下級魔法『念力』です。このように物を動かす事ができます」
これ、ソフィアさんが本を取る時に使っている魔法だ!
「確かに便利そうですね」
「遠くの物や重い物は動かせられませんが、ちょっとだけ手が届かない時には活躍する魔法です。では、やってみましょう」
「どうすれば使えるのですか?」
「頭の中でイメージをしながら、魔力を声に込めて呪文を唱えましょう」
呪文ってまさかさっきのゴニョゴニョした謎言語のこと?
「聞き取りにくいでしょうが、頑張って真似してください」
こうして、私のゴニョゴニョ言語との格闘が始まった。
◆◇◆◇
私はニ時間ほどかけて、三つの無属性の下級魔法と土属性の下級魔法を一つ習得した。
物を動かせられる『念力』。
身体能力を強化できる『身体強化魔法』。
魔法攻撃に極端に弱いが、物理攻撃を防げる『障壁魔法』。
小石を作り出して、飛ばす『石礫』。
「これで、お嬢様も下級魔法使いの仲間入りですね」
「まだ試験を受けていませんが」
「気分ですよ。それにお嬢様なら下級魔法使いの試験ぐらいなら楽勝ですよ。では、そんなお嬢様にプレゼントです」
師匠はそう言って、懐から短い杖を取り出した。
「魔法使いは教え子が下級魔法を使えるようになったら、杖を贈るのが慣わしなのです。これがあれば魔力の消費量を抑えられて、もっとたくさん練習ができますよ。無詠唱化を目指して頑張ってくださいね」
「ありがとうございます、師匠」
ちなみに無詠唱で魔法を使うには精霊が行なってくれている作業を自分でやる必要がある。
まあ、要するに、物凄く練習しないといけないのだ。
私はその日、気絶するまで杖で下級魔法の練習をしたのであった。
◆◇◆◇
翌日、師匠は精霊語の授業をしてくれた。
「精霊語は精霊に思いを伝えるための言葉なので、人間には聞き取りにくく、意味を理解して話せるようになるのは相当な努力が必要です。と言う訳でびしばしと教えていきますよ」
「よろしくお願いします」
と言う会話をしてから半年が経ち、私はようやく精霊語を習得した。
幼児だから物覚えが良いはずなのだが、それでこんなに時間がかかっているのだから、驚きだ。
師匠は宣言どおり厳しく教えてくれた。
途中、「エルフ族の方がネイティブなのでエルフ族の知り合いを呼んできました」と言ってエルフ族の人を連れてきた。
エルフ族は地域によっては迫害されており、滅多に人里に現れないと本に書いてあったから驚いた。
『幻影魔法』でエルフ族の特徴的な耳を隠しながら、一ヶ月ほど教えてくれた。
そのおかげもあって、私はほぼ完璧に精霊語を習得する事が出来た。
「いよいよ、オリジナル魔法を作ってみましょうか。どんな魔法を作りたいのか考えてきましたか?」
「はい、夜通しで考えてきました」
「やる気があって結構ですが、夜は寝てくださいね。魔力の回復が遅くなりますよ。それで、どんな魔法を作りたいのですか?」
「物を飛ばす魔法です」
「なるほど、言われてみれば、そんな魔法は今までありませんでしたね。では早速、呪文を考えてください」
『障壁魔法』の呪文を訳すとすれば、「魔力で壁を作れ」という内容になる。
『身体強化魔法』は「魔力で体を強化しろ」という内容になる。
では、物を飛ばす魔法の場合は「物体に力を与えろ」だろうか?
私はそこまで考えるとそれを精霊語を訳した。
「思いつきました!」
「早いですね。では、あの石にその魔法を掛けてください」
「あっ!師匠、魔法名を考え忘れていました」
「呪文を考えてから魔法名を考える人、初めて見ました。それで、どんな名前にしますか?もし、その呪文が成功したら、一生残る名前になるのでしっかりと考えてくださいね」
魔法名、「物に力を加える魔法」はどうだろうか?
そのまますぎるな。
「物を飛ばす魔法」はどうだろうか?
ダサいな。ネーミングセンスを疑われる。
論外だな。
「加速魔法」はどうだろうか?
この魔法は減速にも使えるし、力の向きを変える事もできるはずだ。
適切ではないな。
まあでも、主に加速に使うからこれでいいか。
「『加速魔法』にします」
「おお、いい感じの名前ですね。では改めて、あの石にその魔法を掛けてください」
私は近くの小石に向かって呪文を唱えた。
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