第三十七話 続・地下室
実は一章が終了してから二章の下書きを書いていたのですが、色々と修正を入れながら書いている内に、十話分ぐらいの下書きが没になりました(涙目)。
下書き、所詮は下書きだからってその時のノリで書き進めるとこうなる。
私が目を覚ますとそこにはお宝屋敷の天井ではなく、宿の天井があった。
「旅の道中でたくさん見た光景」
この安宿っぽさが如何にも旅って感じがするんだよね。
「あっ!御主人様が起きたのです!エリザさんを呼んできますね!」
「あ、ヒェロナ、私は何日ぐらい寝ていたの?」
「十日なのです!」
「長っ!」
「じゃあ、呼んできますね!」
なるほど、十日も栄養や水分を魔力で補っていたから、魔力が三割ほど削られているのか。
と言うか、普通の魔法使いだったら死んでいたな。
栄養失調で。
やっぱりあの記憶継承の呪術、欠陥か?
継承できた記憶も穴だらけだし。
「にしても、あの老人の息子が先代の領主か。比較的肥沃になった土地は受け継がれても、領地への愛情は受け継がれなかったとは、皮肉な話だよね」
私が何気なくそう呟いていると、師匠らしき魔力反応が急に『魔力感知』にひっかかった。
と言うより、感知圏外から爆速で突入してきたと言った方が正しいか。
「『防御魔法』」
私が魔法で宿の備品と部屋自体を保護するのとほぼ同時に師匠がヒェロナを抱えながら窓から飛び込んで来た。
「お嬢様!無事ですか!?」
「大丈夫ですよ。あの呪術は害の無い魔法だったので。運が良かったです」
実際、あれが殺意盛り盛りのやばい呪いだったら、私は既に死んだいたかもしれない。
「よかったです」
師匠はそう言うと、その場に倒れ込み泣き始めた。
「師匠、私は無事なので泣かないでくださいよ。あ、はいはい」
「エリザさん、御主人様が倒れてからずっとこの感じなのです」
「ヒェロヒャはもっとお嬢様の事しんひゃいしなさい」
「弱っているエリザさん、珍し…痛ッ!」
流石は師匠、泣きながらでも最小限の魔力でヒェロナの魔力防御の隙を突く魔法の腕、流石だわ。
◆◇◆◇
結局、師匠を泣き止むまで三十分ほどかかり、その後で私たちは私が倒れた屋敷の地下室に向かった。
「ここがお嬢様が倒れた場所ですね」
私はヒェロナがそう言って指差した場所を見た。
闇属性の膨大な魔力の残滓と例の本が落ちている。
「本にはもう呪いは残っていないようですね」
「一応、浄化しておきましょうか。『解呪』」
割と多めに魔力を使って念入りに本を数秒包み込む。
そして、残滓すらも消え去った本を慎重に払い上げ、題名を見る。
「お嬢様、この字は何語でしょうか?」
「暗号かもしれませんね」
私はそう言いつつ本の表紙をまじまじと見つめた。
そこには日本語で『研究日誌』と書かれていた。
あの老人も転生者だったのか。
だがあの呪術によってもたらされた記憶にはそんな物は存在しない。
考えられる可能性としては……。
「御主人様、奥の部屋にきっとたぶんまだたくさん本が残っていますよ!きっと暗号の解読法もありますよ!」
まあ、あれこれ考えるのは資料を全て見た後でも遅くはないだろう。
私はそう思い、奥の部屋に入いるとそこには小さなベットや本棚、机と椅子、魔法の触媒を保管している棚に加えてトイレらしき物まであった。
「仮眠室と書斎と研究室を混ぜ合わせたような部屋ですね」
「よほど、効率を求めていたのでしょう。この部屋を作った人は」
「住みにくいそうなのです」
私はヒェロナの発言に確かにねと苦笑しつつ、記憶を頼りに本棚を弄った。
すると本棚が横にスライドし、更に奥へと続く通路が現れた。
「隠し扉なのです!」
「よくわかりましたね」
「こういう場所にある本棚は大抵隠し扉になっているのです」
まあ、実際は記憶通りに動かしただけだけどね。
「早く行くのです!」
「はいはい、落ち着こうねー」
私はそう言いながら細く狭い通路を通った。
通路の壁には扉がいくつかあり、通路と言うよりかは廊下のようである。
一つ目の扉を開けると、中の部屋全体に精密な魔法陣が描かれていた。尤も、もう稼働していないが。
「地下に行かないように暗示をかける魔法と地下室の魔力反応を隠蔽する魔法のようです。範囲は屋敷全体ですか。効果の強さは稼働してみないとわかりませんが、王城の物より強力そうですね」
「王城の方が弱そうって不味くないですか?」
「まあ、確かにそうですね」
いや、王城がと言うより、この国は全体的に闇魔法の技術も対策も進んでいない。
私やこの老人のように一部の魔法使いが独自に研究しただけで技術的に優位に立ててしまう程に。
王城で働いている人に呪いとか仕向けられても、防げなさそうで怖い。
まあ、流石に王族は何かしらの方法で防御を固めているだろうけど。
私はそんな事を考えながら、次の部屋に入った。
「牢屋ですね」
「ですね」
「牢屋なのです!」
生贄を捕まえておく為の部屋なのだろう。
他の部屋を比べて作りが雑である。
脱走対策だけは馬鹿みたくしっかりとしてあるが。
鉄格子に魔法陣がぎっしりと刻まれている。
「次の部屋に行きましょうか」
私はそう言って次の部屋へと向かった。
次の部屋は廊下の突き当たりにあり、一見するとどうやら最後の部屋のようであった。
「ここは自室ですか?」
「そうかもしれませんね」
先ほどの色々と混ぜ合わせました部屋よりも如何にも自室って感じがする。
「御主人様!これ、絶対に日記ですよ!」
ヒェロナはそう言って机の上で開かれたまま放置されていた本を持ってきた。
「暗号で書かれていて読めないですけど、きっとなんか凄い事が書いてありますよ!」
「まあ、描かれている魔法陣だけでも十分に凄い本だね」
私は本を流し読みしながらそう言った。
内容としてはあの呪術で受け継いだ記憶の答え合わせような物だが、色々と謎が解ける内容でもある。
あの老人が転生者である事。
若くして両親を失い領地を守らなければならなくなった事。
禁忌に手を出した事。
そして例の呪術の事。
何故、記憶を受け継ぐなんていう呪術を組んだのか疑問に思っていたのだが、どうやらあれは記憶継承の呪いではなく、魂を乗っ取る呪いだったようだ。
あの老人の魂を呪術として保管しておき、条件に適合する者が例の本を開けた瞬間、その相手の魂を乗っ取る仕組みだったようである。
それが長い時を経て、本自体が劣化し、呪術が不完全な物になったようだ。
そして記憶の一部だけが受け継がれるという不完全な結果に終わった。
対象者である私が魂を魔法で保護していたのも原因の一つかもしれない。
にしても。
「後で『精神保護魔法』、改良しないとな」
もしも、あれが経年劣化していなかったら相当、不味かった。
ほぼ確実に体を乗っ取られていた。
早急に対策しなくては。
「それで、御主人様!お宝が埋めてある場所は書いてありますか!?」
「ないよ!」
借金の借用書ならあるかもだけど。
「このアホの子はさておき、この地下室はどうなさいますか、お嬢様?」
「誰が、アホですか!私、アホじゃないもん!」
「ヒェロナ、黙って」
「あっ、はい」
「さて、どうしましょうかね?普通なら、資料は全て破棄、地下室も破壊すべきですが、なかなか興味深い資料が大量にありますからね。保存しておきましょう!」
「いや、上の屋敷を再建するなり改修するなりした時にバレますよ?」
「では、入口を物理的に封鎖してから魔法で封印し、更に幻術をかけて、その上から土を被せましょう!万が一にも誰かが侵入したら自壊するように魔法具も仕掛けておきましょうか!」
「そこまでして保全したいのですか?」
「ここにはそれだけの価値があるので」
「他所にバレたら大変な事になりますよ?流石にこれは」
もしもバレたら、間違いなく一族皆死刑になり、主犯である私は特に尋問されて情報を全て吐き出させられてから処刑される事になるだろうな。
だがしかし、私も魔法使いの一員である。
時には腹を括る事だってしなくてはならない。
「覚悟の上です」
「はあ、わかりましたが、くれぐれも気をつけてくださいよ?それと、禁忌魔法は研究したとしても実際に使ってはいけませんよ?」
「わかっていますよ。ヒェロナもいい?ここの事は誰にも喋ったら駄目だからね」
「わかりました!」
「ここの部屋の事が漏れるとしたら、ヒェロナからでしょうね」
「私もそれが一番、心配です」
「酷いのです!」
だってね、ヒェロナだもんなー。
肉をあげるから、秘密を喋って!って言われたら聞いていない事まで何でもぺらぺら喋りそうで怖い。
「頼むから喋らないでよ?」
「心外なのです!」
「ちなみに、秘密を喋ったら肉をあげるって言われたらどうする?」
「たぶん、喋らないのです。きっと……たぶん?」
心配すぎる。
闇魔法で喋れなくする事を本気で検討した方が良い気がしてきた。
「そんな事よりもお嬢様、この壁の奥から魔力反応がある気がするのですが」
「お宝ですか!?」
「わざわざここで終点だと思わせておいて更に続きの隠し扉があるとは……」
どれだけ用心すれば気が済むんだ?
「壊すのです!」
「やめなさい。私がこじ開けます」
奥に大切な資料があった場合、ヒェロナに任せると吹き飛びかねない。
この子には繊細さが無いからなー。
さて、どう開けたものか?
『風刃』で切り開くか、『加速魔法』で吹き飛ばすか、『石礫』で吹き飛ばすか。
ん?なんで吹き飛ばす方向で考えているの?
最近、荒っぽい仕事していたせいか?
「御主人様!早くしてください!」
「わかった、わかったよ」
私はそう言いながら石レンガの壁に手を当て、魔力で包み込んだ石を一つ抜き取った。
そして次々と石を抜き取っていき、物の数秒で人が通れる大きさの通路が出来た。
「魔力を通しにくいですね。魔物から剥ぎ取った素材を混ぜているのでしょうか?」
「そうでしょうね。魔力を通しにくい分、包み込むのは楽でしたよ」
「そんな事よりもお宝探しです!」
ヒェロナはそう言い残してまた走り去って行った。
「あの子、いつか痛い目に遭いそうですね」
「まあ、私たちも行きましょうか?」
私たちはヒェロナの後を追い、階段を降りていった。
この地下室自体、相当な深さにあるのだが、更に降っていっている。
そして、何よりも気を引くのが魔力濃度である。
下へ行けば行く程、濃くなっていっている。
既に王都の魔鉱迷宮内部並みの濃度なのにまだまだ濃くなっていきそう。
そんな事を考えながらどんどんと階段を下っていると、突然私たちは足を止めた。
「お嬢様、ここ、迷宮の中です。それも最下層の」
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