第三十六話 先々代の遺産
久しぶりの投稿です。
それと、少しだけいつもより長めです。
「本当にここなのですか!?」
「そうだよ」
「いや、私にもただの壁にしか見えないのですが?」
私たちは今、屋敷の一階のとある壁の前にいる。
目的は勿論、例の地下室を見つける為だ。
「ここであっているから、ヒェロナ、壊して」
「はいなのです!」
出番、待っていましたと言わんばかりに元気にハイキックを壁にかますヒェロナ。
そして、簡単に崩れていく壁。
「本当にありましたね」
「びっくりなのです!」
「ヒェロナ、ハイキックはスカートの中が見えるから、外ではやらないでね」
「見えても問題なくないですか?」
ドラゴンに羞恥心とか存在しないんだった!まあ、そりゃドラゴンに服を着る文化なんてないよね。
あの巨体な訳だし。
これだから年中裸族は。
「人間の世界だと問題しかないから」
「まあ、そんな事よりも早くお宝を獲りに行くのですよ!」
「ヒェロナには淑女教育とか、無理そうですね」
「一応、メイド教育はさせたはずなんですがね」
私たちはそう言いながら後をついて行くのであった。
◆◇◆◇
地下室へと続く道は細い階段であった。
「にしても、何故あそこの壁が怪しいとわかったのですか?」
結局、あそこの壁は隠し扉でも魔法具でもなく、ただの壁であった。
つまり、通路を扉ではなく壁で塞いでいたのだ。
師匠は隠し扉を探して魔力反応を探知しようとしていたが故に見つけられなかった。
「あそこの壁だけ少し新しい気がしたんですよ」
「つまりは、勘ですか?」
「まあ、そうとも言えるかもしれませんね」
おそらくは魔力の浸透率の違いに違和感を抱いたのだろうが、あまりにも軽微過ぎる違和感だったが為に、「何となくそんな気がしなくもないような」と言う曖昧過ぎる感覚になったのだろう。
「なんか、喧嘩売ってくる騎士がいる!」
先行した(暴走したとも言う)ヒェロナの声が下から響いてきた。
叫び声を聞くや否や、階段を飛び降り魔法で衝突しないように華麗に飛行し、数秒もせずにヒェロナと合流し、戦闘に備えるべく杖を取り出しながら光魔法で部屋を照らすと、そこにはメイド服のスカートが切れているヒェロナと既にボコボコにされた鎧がいた。
「御主人様!部屋に入ったらこの騎士が襲ってきて、服が破れてしまいました!それで、イラッとしたので鉄屑にしてやりました!」
「それで、怪我はない!?」
「あっ、折れたので大丈夫です!」
ん?折れた?骨が?あっ、騎士型魔導具が装備していた剣か!
確かにポキっとなっているし。
「怪我がなくてよかった」
にしても、剣よりも硬い皮膚って、流石はドラゴン。
ドラゴン時代よりも表面積が減ったから防御に使われている魔力が分厚くなっているのか?
「それじゃ、行きましょう!お宝部屋に!」
そう言うなり、ヒェロナは騎士が守っていたであろう扉を勢いよく開け、そして扉の奥にいた五体の騎士に再びメイド服を斬られた。
「邪魔をするな!」
そして、騎士型魔導具をスクラップにしたり、四散させたり、爆散させたり、はたまた首を捩じ切ったりした。
ヒェロナ、実は近距離戦闘、物凄く強い説浮上中。
「なるほど、拳を打ち込む瞬間に魔力も送り込んで内部と外部から破壊しているのですね。人相手にやったら、だいぶグロい死体が出来そうですね」
「いや、師匠。そんな事よりもあれ、なんだと思いますか?」
私はそう言って、扉の奥のだだっ広い部屋にぎっしりと刻まれた赤黒い魔法陣を指差した。
「禁忌魔法の痕跡以外には見えませんね」
「ですよね」
腐臭もするし。
生贄とか大量に捧げられていそうである。
「お宝は!?」
「ないよ!」
強いて言えば、この魔法陣と何処かにあるであろう研究日誌がそれに当てはまるだろうが、流石にこんな魔法を使う事はないだろうからな。
一部の技術は何かに流用できるかもしれないが。
「師匠、この魔法陣の解析はできますか?」
「偽装された術式もありますし、経年劣化で一部読み取れなくなっているところもありますし、そもそもこういう系統の魔法の知識が足りていないので無理そうですね。お嬢様は?」
「ぱっと見た感じ、だいたい魂や血肉を魔力に変換する魔法のようですね。ただ正確な解析には時間がかかりそうです」
「変換された魔力の行方はどうなっていますか?」
「それが、大地に流れ出るようになっているんですよ」
「はい?なんか、こう、変換した魔力を貯めてもっと危険な魔法を使うとか、そんな感じじゃないんですか?」
「んー、やっぱりたぶん、これだと大地に魔力が流れ出るだけですね。もう少し時間をかけて見れば何かわかるかもしれませんが」
「いったい、術者は何をしたかったんでしょうか?」
「御主人様!エリザさん!なんか、お宝っぽい本を見つけてきましたよ!ヘビがうにょうにょしたような暗号っぽい字で書かれているので、きっとお宝です!」
ヒェロナをそう言って満面の笑顔で超やばそうな呪い付きの本を持ってきた。
「ヒェロナ!その本は呪われているから、貸して!」
「え!?呪われているのですか!?」
ヒェロナはそう叫びながら、本を落とした。
それを見た私たちは急いで本をキャッチすべく、超高出力版『浄化魔法』を構築しながら走り出した。
魔法で受け止めたいところだが、何が発動条件なのか分からない状況でそれは下策である。
流石にあの密度の魔力が使われた呪いはやばい。
魔力量だけなら超級魔法にも匹敵する。
私が常時発動している『精神保護魔法』すらも貫通しかねない。
「間に合って!」
私は地面と本の間に滑り込みながら、手を翳した。
「『浄……」
だがしかし、魔法の発動よりも早く本が私のお腹に直撃し、開いた。
そしてその瞬間、本から溢れ出してくるあからさまにやばい色をした魔力が私を呑み込んだ。
◆◇◆◇
(ここはいったい?)
目が覚めると、私は何故か乾涸びた畑にいた。
元気の無さそうな子供たちもいる。
(ああ、ここは百年前のヘクセ領か)
見た事もないはずの光景が何故か、見慣れた光景に思える。
資料、それも直近の物でしか知らないこの領地の実情が実体験のようにわかる。
あの謎の呪術のせいか。
そう考えていると、景色が霧散した。
視界が戻ると、今度は領都の屋敷の玄関にいた。
まだぎりぎり生活できそうな壊れ具合ではあるが。
「ヘクセ卿!借金を返済してくださらないなら、担保のこの土地は差し押さえますぞ!?」
肥えた豚が痩せ細ったおじさんに詰め寄っている。
(そこは比較的肥沃な土地なのに)
またしても知らない知識が出てきた。
再び景色が変わった。
今度は教会にいるようである。
おそらくオーツ教の教会だろう。
この頃の王国はオーツ教とソーネ教が勢力争いをしていた筈なのだが、ここは昔からオーツ教一筋なのか。
「司教殿!お願いいたします!このままでは今年の収穫量が!」
司祭らしき人物に先程の痩せ細ったおじさんが土下座している。
「ヘクセ卿、そうはおっしゃられましても、豊穣祈願の神聖魔法は無論、雨を降らすだけの魔法ですら、多大な魔力と人員が必要なのですぞ?この程度のお布施では到底話になりませんな。お引き取りください」
(相変わらずの守銭奴具合、流石はオーツ教か)
またしても、景色がグニャリとねじ曲がり、変わった。
私が倒れた地下室にいるようである。
あのおじさんが一心不乱に羽ペンを動かし、研究結果を書き留めている。
チラッと奥の方を見ると魔法具らしき短剣でめった刺しにされた盗賊が何人も倒れている。
(こうやって研究していたのか)
そう思った瞬間、景色が霧のように消え、再び現れた。
どうやら数年が経過したようだが、ストレスのせいかおじさんは十年程老けているように見える。
そんなおじさんは自分の血に溶かした魔鉄やら魔物の素材を混ぜ合わせて魔法陣を刻んでいた。
どうやら、ちょうど完成するところのようである。
(私が倒れた部屋にあった魔法陣と大きさも規模も違う。この後、改良していくのか)
私がそんなふうに思っていると、どう考えてもやばい喜び方をしながら、おじさんは奥の部屋から縛られた盗賊たちを連れて来て、台の上に固定した。
そして、内容こそ悍ましいがやたらと理論整然とした呪文を唱え始めた。
(この雰囲気で思う事ではないけど、暇なんだよね。詠唱完了まで三時間はかかりそうだし。視界切り替えは来なさそうだし。仕方が無い、魔法陣の解析と記憶の確認でもしておこう)
そして待つ事、数時間。
魔法陣から赤黒い光が溢れ出し、それと同時に盗賊たちが次々と絶命し、その死体から魔力が溢れ出て大地へと流れ込んでいった。
(魔力が少ないせいで痩せていた土地だったこの領地に魔力を充填しているのか。だとしても、このままだと儀式を続けたところで焼け石に水だね)
そして、視界が消えた。
視界が戻ると、儀式の最中だった。
魔法陣は記憶にあるサイズまで大きくなっており、複雑さも勿論、パワーアップしていた。
生贄の数も増えており、三百人近い人数がいた。
流石に台の上には載せられないようで、魔法陣の上に適当に転がせられていた。
その代わりに台の上には怨念がこれでもか!と込められた魔晶石が触媒として置かれており、よく見てみれば、魔法陣のいたる節目にも魔晶石が設置されていた。
一番目を引くものは老人の杖だ。
いたるところまでぎっしりと魔法陣が刻み込まれていて、さらに先端には真っ黒な精霊石が付けられていた。
(いや、あれはただの精霊石じゃない。悪魔石とでも言うべきか?いや、精霊も悪魔も方向性が違うだけで、同じような存在ではあるが。ん?堕ちた精霊である闇精霊の力が凝縮されて出来た精霊石に悪魔を宿しているのか!?魔力生命体だからこそ出来る技だな)
私が色々と考察したり、老人の記憶に照会したりしている間にも儀式は進行していき、杖と魔法陣から色んな意味で異常な魔力が溢れてはじめた。
(魔力量がおかしいでしょうが!しかも色もおかしいし!王都を取り囲んだ魔物を一掃したあの儀式魔法を優に超えているよ!?こんな魔力量、いったいどうやって制御しているの!?)
私が慌てふためきながら、老人の記憶から答えを探すとたいして時間もかからずに理屈がわかった。
(あの精霊石に宿っている悪魔は人造悪魔?精霊石に残っている精霊の魂の残滓を利用して再構築したのか!?そしてそれを補強し、強化する為に盗賊の魂を吸収させて、育てたのか!?完全に受肉させないのは安全装置か?悪魔が暴走した時の)
私が興味津々と儀式の進行を見守っていると、いよいよクライマックスになり、老人の顔も苦しげになった。
(魔力制御は悪魔が、魔法陣の構築と維持は老人がする。素晴らしい役割分担だな。集団儀式魔法を一人でやれるのか!だけど、制御力が足りなくなっているな)
儀式は一応は進んでいくが、だんだんと魔法陣の輝きにムラができ、魔法陣自体も暴走しかけてきている。
そして、ついに崩壊する寸前で魔法が発動した。
「『魂魄変換』」
もっと、かっこいいい魔法名、思いつかなかったのかな?
私はそう思いながら、気絶した。
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