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第二十九話 スタンピード

みんな大好き(偏見)、スタンピードだぜ!


私は屋敷に帰るなり早速、『魔素精錬』の練習を始めた。

魔素の収集は簡単だったが、魂を捉えるのに苦労した。

ようやく魂を感じ取れるようになっても、魔力を流し込み過ぎて、気絶したりもした。

師匠は「少しずつ流す量を増やして慣らしていくといいですよ」と言っていたが、スタンピードまで時間がない為、急いで慣らそうとした。

何度も気絶する結果になったが、怪我の功名と言うべきか、スタンピード前日の夜にはなんとか使い物になるぐらいまで上達した。

あとは実戦で鍛える他にないだろう。

そして、迎えたスタンピード当日。

私たちは冒険者ギルドで作戦の説明を受けていた。

作戦と言っても、「力を合わせて王都を守りきろう!」と言う内容だったが。


「では、今から詳しい説明を行う!理解できる脳が無い残念な奴は聞かなくていいぞ!」


あっ!今までのは説明ではなく、所信表明だったのね。


「範囲攻撃が得意な奴は遠方にいる魔物の集団を殲滅する!空を飛べる奴は遊撃だ!治癒が出来る奴は負傷者の治療だ!弓使いは空中の魔物を狩れ!そして、剣を振るしか脳の無い俺みたいな奴は城壁に近づいて来た魔物を斬る。倒した魔物の魔石を拾っている時間があるなら、さらに魔物を倒せ!素材は無視しろ!」


「「「「おお!!!」」」」


「悲しい事に、Sランク冒険者たちや、精鋭の騎士たちは遠征に行っている為、不在だ。だが、喜べ!なんと、我々には聖女様が二人もついている!まあ、一人は治癒よりも攻撃が得意そうだがな!」


事実だが、なんかムカつくな。

いちいち、指摘する事ではないだろ。

そのせいで、「戦闘狂聖女だな!」とか、「いやいや、銀貨巻き上げ聖女だろ!」とか、「慈悲(笑)の聖女だろ!」とか聞こえてくる。

最初のやつ、酷くない?


「この街を守るぞ!」


「「「「おお!!!」」」」


こうして、王都防衛戦は始まったのであった。




◆◇◆◇


私と師匠は城壁の上から眺めていた。

下には土魔法で掘られた溝と壁があり、平原には夥しい数の魔法罠が設置されている。


「流石は王都と言うべきか、魔法罠の数が尋常ではありませんね」


「森にも大量に仕掛けられているようですね。まあ、これでもだけの数があっても、突破されるのがスタンピードですが」


魔法罠とは使い捨ての魔法具である。

魔物を感知すると爆発するのだ。

ただし費用対効果が良いとは言えないので、あまり使われない。

今回はエリート騎士たちは遠方に発生したSランクの魔物の討伐に当たっている為、王都には二戦級の戦力しか無い。

その戦力不足を少しでも補う為に倉庫から引っ張り出してきたらしい。

私が森を眺めていると、いきなり森の一角が吹き飛び、鐘が鳴り始めた。


「襲撃が少し早くわかるのは利点ですね」


「そうですね」


私たちはそんな会話をしてから即座に詠唱を始めた。

他の魔法使いたち中でも遠距離攻撃に自信のある者が続々と詠唱を始めた。

数十人の魔法使いが同時に上級魔法や特級魔法の詠唱を始めるのである。

実に壮観。

そして、続々と魔法が放たれた。

津波、暴風雨、巨大竜巻、小隕石、氷柱の雨などが森から押し寄せようとしていた魔物の集団に降り注いだ。

控えに言って天変地異。

さらにそこに私の特級魔法が加わる。


「『聖雨(ホーリーレイ)』」


神聖属性特級魔法『聖雨(ホーリーレイ)』だ。

聖雨(ホーリーレイ)』は光の雨を降らせて広範囲の魔物を殲滅する魔法であり、他の魔法に影響を及ぼしにくい為、今のような状況には最適の魔法なのだ。

しばらくして、魔法が収まると魔物の姿はどこにも無かった。


「第一波は無くなりましたね」


「直ぐに第二波が来ますよ。それまでに魔力を回復しておきましょう」




◆◇◆◇


その後、第十波までは魔法使いによって防げたが、だんだんと魔力切れが続発し、地上でも激戦が繰り広げられ始めた。

そんな中、私は『中位範(エリアミドル)囲治癒(ヒーリング)』を連発しながら、『重力魔法』で空を飛び、魔法銃片手に遊撃をしていた。

撤退のタイミングを間違えて取り残された冒険者の援護をしたり、火力不足な所に支援砲撃を撃ち込んだり、単身で魔物の集団上空で特級魔法を使っていたりしている。

崩壊(コラプス)』が思いの他、便利だった。

音も振動も無い地味な魔法だが、周りの魔物を巻き込む形で発動するので、殲滅に向いている。


「『崩壊(コラプス)』」


また、積層型魔法陣周辺にいた魔物の塊が消えた。

にしても、私が遊撃を始めてから、既に六時間以上経過している。

日も暮れかけている。


「いつになったら、終わる?」


私は若干、恐怖を感じながらも魔法を連発するのであった。




◆◇◆◇


波と波と間の僅かな休息の時間に私はギルマスと面会していた。


「その話は本当なのですか?」


「ああ、間違いない。森の奥でドラゴンが暴れている。迷宮からだけじゃねぇ、ドラゴンを恐れた森の魔物も来るぞ」


更に来るのかよ。と言うか、それって、スタンピードが二つ同時に起こっているじゃん!

そんな情報初耳なんですけど!?

あっ、士気の為か。


「Sランク冒険者や騎士団は?」


「Sランクだと推定されていた魔物がSランクオーバーだったらしい。戻ってくるには時間がかかる。頑張って持ち堪えるしかねぇな」


「他の街からの救援は?」


「あるにはあるが、焼け石に水だな。今回のスタンピードの規模は百年に一度あるか、ないかと言った具合だからな」


スタンピードが起こった場合、周辺の迷宮も連鎖的にスタンピードを起こす可能性がある。

つまり、周辺の街も戦力を迂闊に送り出せないのだ。


「はあ、わかりました。では負傷者の治癒をしてきます」


「おいおい、まだ魔力が残っているのか?」


「気力でどうにかするので、ご心配なく」


私は冒険者ギルドの地下に向かった。

普段、ギルドの地下室は倉庫として使われていたが、急遽、治癒所になった。

私は部屋の中央まで歩き、詠唱をした。


「『上位範(エリアハイ)囲治癒(ヒーリング)』」


複雑な魔法陣が現れ、その範囲内の怪我人を全て癒した。

尤も、流石に腕とか足は生やせられないが。


「マリアさん、後はよろしくお願いします」


「任せて、ティファニーさん」


と言う訳で、腕とか足を生やすのが上手な王都の聖女マリアさんにバトンタッチだ。

比較的軽症な者は私が治癒して、重症者はマリアさんが治癒する。

マリアさんは神聖属性の適性がとても高いが魔力量は一般よりは多いけどぐらい(あくまで貴族令嬢としてはだが)なのでこのような体制になった。

ギルドの外に出て、少し休憩をして、再び遊撃をすべく、城壁を飛び越える。

魔物の襲撃に夜も昼も関係無い。

深夜だろうが、なんだろうが、迎撃しなければならない。


「最悪だな。いや、ある意味では予定通りか」


私の眼下にはスケルトンやゾンビなどのアンデットの群勢がいた。

王都の近くの迷宮の一つに、墳墓迷宮と呼ばれている迷宮が存在する。

この迷宮はアンデットしか湧かないから、スタンピードするなら日が暮れてからだろうと予想はされていた。

だが、実際に見てみると、気が滅入る。


「仕方が無い。やるか」


私は高度を落として『悪霊退散(ターンアンデット)』を連発し始めた。

次々とアンデットの群れが消えていくが、なにせ相手が多過ぎる。

アンデットを完全に滅するには燃やすか、浄化するか、木っ端微塵にするかしか選択肢が無い。

つまり、冒険者の大多数を占める、近接職では歯が立たないのだ。

悪霊退散(ターンアンデット)』を連発しながら、『聖雨(ホーリーレイ)』の詠唱もする。


「『聖雨(ホーリーレイ)』」


光の雨が降り注ぎ、アンデットが広範囲に渡って浄化されていくが、アンデットの後続が次々と押し寄せてくる。

『魔素精錬』で魔力を回復するが、これを使っている間はそちらに魔力制御を回さなければならない為、攻撃力が低下する。

聖雨(ホーリーレイ)』で稼げる時間に少々回復するのが限度だ。


「『聖雨(ホーリーレイ)』」


そんな中、私の目の前に光の雨が降り注いだ。

私の『聖雨(ホーリーレイ)』ではない。

だが、マリアさんはギルドで治癒に当たっているはず。


「助けに来ましたよ。ティファニー」


私が振り返ると、そこにはリシアと大勢の魔法使いがいた。


「リシア!どうしてここに!」


王都からの知らせを受け取って、ここに来たのだとしても、二週間はかかるはずだ。


「忘れたのですか?アシュトンフォードには大勢の魔法使いがいるのですよ。魔法で吹っ飛ばして送ってもらいました」


「ありがとう、みんな」


「ティファニー、よくここまで持ち堪えましたね。後は私に任せてください。これでも、聖女学院では首席だったのですから」


そう言ってリシアたちはアンデットの集団に突撃して行った。

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