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第二十八話 『魔素精錬』

目を覚ますと何故か、私は師匠に膝枕されていた。


「起きましたか、お嬢様?」


「私、どのくらい寝ていましたか?」


「三十分程ですね」


道理で体がまだ怠い訳である。

魔力が全然、回復しきっていない。

私は魔力回復薬を取り出し、飲み干した。


「それで、師匠。その無尽蔵の魔力はなんですか?」


師匠も超級魔法を発動してから、三十分しか経っていないはずなのだ。

なのに、師匠の魔力は全回復していた。


「私が開発した『魔素精錬』と言う初級魔法ですよ。大気中の魔素を取り込み、魔力に変換、波長を変え、自分の魔力にする技術です」


「実質的に無限の魔力が使える訳ですね」


「これでも制限は多いのですよ。魔力操作能力の大部分をこれに割かなければならないので、肝心の魔法が疎かになりますからね」


「にしても、その技術は古今東西ありとあらゆる魔法使いが追い求めた物です。でも誰が研究しても成功しなかったはずです」


「正確には成功した魔法使いもいましたよ。方法は違いましたがね。王都の結界の魔力源なんてその最たる例です。さて、この技術を扱う上で最も難題となる問題はなんでしょう?」


「変換した魔力と自分の魔力の性質が違い過ぎて、扱えない事ですか?」


「その通りです。そこで昔の私は考えました。魔力の性質を私好みに合わせればいいのではないかと」


「それなら、各地の魔法使いが既に試したはずですが」


「ええ、ですが、彼らは失敗しました。何故か、わかりますか?」


「魔力について理解が浅かったからですか?」


私はしばらく考えてそう答えた。


「その通りです。魔法使いは魔法に対しての理解は深めるのに、魔力に対しての理解を深めようとする者はあまりいないのですよ。おかしな話ですよね。そこで私は何年もかけて魔力の正体を突き止める研究をしました。そして、私は遂に突き止めたのです。魔力の正体を!」


「おお!」


「魔力とは魂から湧き出てくる謎の霊的物質なのですよ」


ん?謎って言ってるのだが?


「つまり、魔力とは魂の力的な何かなのです」


雲行きが怪しくなってきたのだが?


「という事はですよ、魔力の違いは魂の違いと言い換えれる訳です」


「確かに、そう言えますね」


「ところで、魂から溢れ出る魔力の源はどこだと思いますか?」


「食事ですか?魔法使いは大喰らいが多いので」


「よくわかっていますね。そうなのですよ。魂には栄養を魔力に変換する機能があるのですよ。そして、思ったのですよ。栄養すらも変換できるのならば、性質が違うだけの魔力の変換ぐらい容易いはずだと」


「確かにそうですね」


「そして、私は魔素から作った魔力を魂に注ぎました。すると、思った通りに魂は魔力の変換を始めたのですよ。こうして『魔素精錬』が出来たのです」


「とんでもない技術ですね」


「そこが最後の問題だったのです。貴族の権威はどこに由来していると思いますか?」


「魔力量です」


平民と貴族では魔力量に差がとてもあるのだ。

何百年と魔力量の低い者を淘汰してきた結果だ。


「この『魔素精錬』は魔力量を実質的に無限に出来ます。こんな代物の存在を知られたら、間違いなく消されます。だから、お嬢様、これは私たちの秘密ですよ」


「わかりました。教えて下さり、ありがとうございました」


「そう言えば、『重力魔法』は既に習得されていましたね」


「理解がしやすかったので」


「異世界人の遺した文献から重力と言う概念を発見して、そこから魔法の着想を得たのですが」


「少なくとも、大地の束縛だと言われるよりかは、理解しやすいですよ」


「そうですか。これで、私の教える事は無くなりましたね」


「最後の授業って言うのはそう言う意味ですか」


「私の知る知識、言語、魔法はほとんど全て教えました。事実、最近は授業の頻度も少なくなっていましたからね」


「そうですね」


「お嬢様、あなたはとても優秀な教え子でしたよ」


「エリザ先生、あなたは最高の師匠でした。今まで本当にありがとうございました」


「こちらこそ、ありがとうございました」


「ところで、師匠はこの後、どうするのですか?」


「元々の予定では家庭教師を辞めたら、放浪の旅に出るつもりだったのですが、お嬢様の今後を見守りたくなりましたからね。旦那様に頼んで侍女として雇ってもらおうと思います。これでも、没落したとは言え、教養のある貴族令嬢ですからね、雇ってもらえるでしょう」


「これからも、一緒にいてくれるのですか?」


「はい、これからもよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「ギャー!」


私たちがいい感じの雰囲気になっていると、空気が読めていなさ過ぎる招かれざる客(ゴブリン)が来た。


「師匠、森ごと焼き払っていいですか?」


「焼くのは良くありません。火属性以外にしましょう」


私は魔晶石から魔力を取り出した。

師匠はいつもの笑顔で杖を構えて詠唱している。

目が笑っていないので怖い。

私も詠唱をする。


「『小津波(プチタイダルウェーブ)』」


「『大嵐(テンペスト)』」


師匠から魔力が過剰に注がれたせいでプチではない水属性上級魔法『小津波(プチタイダルウェーブ)が放たれ、私からは風属性上級魔法『大嵐(テンペスト)』が放たれた。

標的にされたゴブリンは魔石すら残さず消え去り、勢いそのままの二つの上級魔法は木々を押し流し、吹き飛ばし、と大暴れしながら、進んでいった。

ただでさえ、師匠との戦闘で滅茶苦茶になっていた森は更に荒れた。


「やりすぎましたか?」


「どうしましょう?」


「まあ、森なので勝手に治るでしょう」


この世界の森は繁殖力が化け物なのである。

魔力がある限り、とんでもない勢いで生えてくるのだ。

まあ、放置しても半年もすれば元通りになるだろう。


「さて、超級魔法を感知してきた王宮魔法使いに事情聴取されると面倒です。逃げますよ」


「私、魔力が空なので飛べません」


「問題ありません」


私は師匠にお姫様抱っこされながら王都に帰る事になった。




◆◇◆◇


私たちは途中からは見つけた馬車にお金を払って、乗せて貰い、移動した。

流石に師匠も『魔素精錬』をしすぎて疲れたようだ。

王都に着くと私たちは冒険者ライセンスが光っている事に気がついた。


「師匠、これってもしかして」


「呼び出しですね」


「にしても、師匠はAランクだったのですね」


「そう言うお嬢様はいつの間にBランクになったのですか?」


私たちはそんな会話をしつつ、冒険者ギルドへ向かった。

中に入ると、既にたくさんのDランク以上の冒険者が集まっていた。


「よく集まってくれた野郎共!」


一部、野郎では無い人がいるのだが?

まあ、少数派ではあるが。


「王都周辺の迷宮がスタンピードを起こす予兆を観測所が検知した」


ギルマスがそう言うと、全員が静かになった。


「逃げたい奴は逃げればいい。強制はしない。だが、この街を守りたいと言う骨のある奴は街の防衛に参加して欲しい。スタンピードは五日後から始まるらしい。それまでに覚悟を決めておけ!以上だ!」


そう言い終えるとギルマスは奥に帰って行った。


「お嬢様、どうしますか?」


「どうするも何も、私は王国貴族なのよ。最前線で戦うのが責務でしょ」


「ご立派です」


迷宮型のスタンピードは魔物が一斉に押し寄せてくるのではなく、波のように来る。

そして、その波は迷宮内の魔物が出し尽くされるまで止まらない。

つまり、持久戦だ。

始まるまでに『魔素精錬』を習得しなければ。

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