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第二十七話 最終授業

謁見を終えた私たちはアシュトン領に帰る事になった。

だが、貴族とは一部の例外(例えば私とか師匠とか)を除けば、身動きが遅い生き物だ。

まあ、何が言いたいのかと言うと、お父さんの出発の準備が整うまで時間がかかるのである。

そして、暇を持て余した私はひたすらに禁書庫に入り浸っていた。

非常に些細な事だが、毎日行ったせいか、王城内で「禁書を好む令嬢がいる」と噂になってしまった。

アシュトン領は辺境と言っても差し支えない。

つまり、王城で禁書を読める時間は限られているのだ。

噂なんぞ気にしていたら勿体無い。

お父さんに「外聞を悪くしないでくれ」と言われたが、元はと言えばお父さんの出発に時間がかかっているのだ。

当然、無視する。

そんな訳で今日も、私は禁書庫で本を読もうとしていたのだが、屋敷を出ようとしていたら、師匠に「一緒に外に行きましょう」と誘われたのだ。

そして、一緒に馬車に乗り、人気の無い森まで来た。


「それで、師匠、こんなところでいったい何をするのですか?」


「お嬢様の謁見の成功祝いですよ。私のとっておきの魔法を教えて差し上げます」


師匠のとっておきの魔法。

おそらく、土属性のオリジナル魔法なのだろう。


「よろしくお願いします」


「実は私、魔法戦が好きでしてね」


知っている。

実際、私に教えてくれた魔法のラインナップが結構、戦闘関係に偏っていたからな。

一部、呪文が一般的な物から改変されていたし。


「知っています」


「では、()()の授業を始めましょうか。私のとっておきの魔法を取得したいのならば、見て盗んでください」


「えっ?」


私が最後の授業と言われた事に驚いていると、師匠が急に杖を取り出し、魔力反応が膨れ上がり、『岩投槍(ロックジャベリン)』を何本も飛んできた。

しかも、『加速魔法』を使ったのだろう、とんでもなく速い。

急いで回避し、杖を取り出して『魔力障壁』を張ろうとしたが、体が急に重くなり体勢を崩してしまった。

そして、『魔力障壁』で防ぎきれなかった岩の破片を『加速魔法』で弾いた。

どうやら、あの槍は地面に元からあった岩を利用して作っているらしい。

あれを防ぐには『防御魔法』が最適だったようだ。

再び師匠の魔力反応が増え、地面から槍が生えてきた。

大地の槍(アースランス)』だ。

『身体強化魔法』で上空に跳び、『魔法障壁』を地面代わりにして着地し、回避する。

そして、反撃と言わんばかりに『石弾(ストーンバレット)』の魔法陣を百個ほど出す。

ただの下級魔法である為、その気になればこのぐらいは展開できるのだ。

魔法陣から飛んでいった小石の雨は、師匠の足元の一歩手前に落ちた。

私がミスをした訳ではない。

師匠から魔法陣が現れると同時に石の軌道があからさまにおかしくなったのだ。

更に攻撃をしようとすると、師匠から魔法陣が現れ、巨大な槍が飛んできた。

発動する際に現れた魔法陣が若干、白かったから『追尾魔法』つきなのだろう。

私はそう考え、限界まで引き付けて、回避しようとした。

だが予想に反して、巨大槍は私に高速で迫ると、爆発して大量の破片に分裂した。

急いで、『加速魔法』と『防御魔法』で破片から身を守った。

白っぽく見えた魔法陣は火属性の赤を隠すための『幻影魔法』の白だったようだ。

魔法で偽の魔法陣を見せて、判断を誤らせてきたのだ。

私が反撃しようとすると、師匠が目の前にいた。

『感知魔法』の反応は直前までなかったはずなのに。


「『重力魔法』」


師匠がそう唱えると茶色の魔法陣が現れ、私の体重が数倍になった。

咄嗟に『魔力波』で妨害したのだが、それでもこの威力とは。

私は落ちる予定の地面を確認した。

殺意満載の『大地の槍(アースランス)』地獄だった。

しかも、呪文に改造が入っているらしく、槍から小さな槍が生えていた。

『爆裂槍』を三発ほど地面に撃ち、槍を破壊して着地した。

私にかけられた『重力魔法』は健在である。

とても体が重い。

だが、いきなり軽くなった。

上空を見上げると、師匠がとんでもない魔力反応を出しながら、詠唱をして大規模な魔法陣を構築していた。

土属性なら特級魔法ですら、詠唱破棄できる師匠が詠唱をするほどの魔法。

それ即ち、超級魔法。

そして、師匠が習得している超級魔法は『流星群』しかない。

おそらく、これで決着をつけるつもりなのだろう。

師匠の持つ全ての魔力が魔法陣に集められていた。

だが、私はそこで違和感を覚えた。

師匠の魔力量は実はそこまで多くは無い。

超級魔法なんて発動できるはずがない。

特級魔法を数発、発動したら空になるはずなのだ。

しかも、この戦いで師匠は私の防御を突破するために『重力魔法』に魔力を過剰に注いでいる。

足りるはずがないのだ。

魔晶石に溜めていたとしても、限度がある。

私はそう考えながら、詠唱の妨害をするべく、『爆裂槍』を何本も飛ばした。

途中で軌道が変わり、跳ね返ってくる始末だが。


「『飛行魔法(フライ)』」


私は詠唱破棄で『飛行魔法(フライ)』を発動し、上空にいる師匠に向かって飛んだ。

だが、これまた案の定と言うべきか、師匠に近づくとおかしな方向に引っ張られて、飛べなくなる。

魔法で攻撃しても、全て当たらない。

これも師匠の足元で光り続けている『重力魔法』の効果なのだろう。


「師匠、どこからそんな魔力を持ってきているのですか?」


師匠は詠唱中のため当然、返事は無い。

だが、近づいてわかった。

師匠は大気中の魔素を収集し、魔力に変換しているのだ。

大気中の魔素を変換しても、その魔力で魔法を発動できないはずである。

いや、発動できても非効率過ぎると言うべきか。

でも実際、師匠はやっている。

私はそう考えながら、師匠の重力防御とでも言うべき重力場を破るべく、あのゴーレムに放った『砲撃魔法』の詠唱をした。

今回は突破するべく、とにかく速さ重視である。


「『砲撃魔法』」


私の魔力反応を感じ取ったのだろう。

師匠は『流星群』への魔力供給を一旦止めて足元の『重力魔法』へ注ぎ込んだ。

空中に浮いていられない程の重力を受けた私と『砲撃魔法』の弾は吹っ飛んだ。


「『上位治癒(ハイヒーリング)』」


地面に叩きつけられ、致命傷を負ったが『上位治癒(ハイヒーリング)』で即座に癒す。

私は師匠の重力場を突破できない。

師匠は詠唱中のため、他には何もできない。

無駄に魔力を消費するぐらいなら、これからやってくる『流星群』の防御方法を考えた方がいいな。

そう考え、師匠の詠唱が終わるまでの間、魔力回復に努め、対処法を考える事にした。

ちなみに、効果範囲外まで逃げるのは不可能だ。

間違いなく、追ってくる。

しばらくして遂に師匠の詠唱が終わった。


「土属性超級魔法『流星群』」


距離があるため、聞こえないはずの師匠の声が聞こえてきたような気がした。

それと同時に一段と『流星群』の魔法陣が輝き、上空に向かって溶けるように消えた。

目に『身体強化魔法』をかけ、『望遠』を使うと、遥か上空から無数の小隕石が落ちてくるのが見えた。

全てとても小さいが、それでも隕石だ。

しかも、このままだと『重力魔法』のせいで全て私に吸い込まれるように直撃コースだ。


「『重力魔法』」


私は詠唱をするだけでしておいて発動していなかった魔法を発動した。

師匠の詠唱が終わるまで三十分程かかったのだ。

初めて見る魔法でも、習得するだけなら容易い。

師匠も対抗して『重力魔法』を使ってくるが、なんせ師匠はそこそこ離れた位置にいる私にかけなければならないのだ。

圧倒的に私の方が有利である。

小隕石の直径は目測だが約三十cm程だ。

もし当たったら、痛いでは済まないが、所詮は三十cmだ。

超級魔法の発動に必要なはずの儀式も省いている為、密度も低いと想定できる。

つまり、この重力場(デバフゾーン)さえなければ、迎撃も容易い。

私は『重力魔法』で師匠の『重力魔法』を無効化しつつ、残りの全ての魔力を注ぐ勢いで短縮詠唱をした。


「『崩壊(コラプス)』」


無属性特級魔法『崩壊(コラプス)』である。

流星群は私の『重力魔法』によって一箇所に集められ、そして『崩壊(コラプス)』の積層型魔法陣に触れた。

その瞬間、無数の小隕石は音も無く消えた。

やはり、無属性魔法は地味である。

私はそう思いながら気絶した。

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