第二十六話 禁書庫
虫歯になりました。
虫歯、悲しい。
私は魔法銃の献上を終えた後、応接間で国王陛下と非公式の面談をしていた。
先程の謁見も非公式だったが、この面談は更に非公式だ。
この応接間には国王陛下と私しかいない。
「アシュトン伯爵令嬢、先程は見事な魔法具を見せてもらった。褒美を与えたいのだが、希望はあるか?」
本来、褒美とは事前に授与者の希望を聞いておき、その上で働きに見合った物を与えるのが通例である。
だがしかし、今回は国王陛下も魔法銃がどのような物か実際に見るまで判断しづらかったのだろう。
よってこのような形で褒美を貰う事になったのだ。
「では、禁書の閲覧許可をいただきたく存じます」
私がそう言うと、王様の表情が険しくなった。
そりゃそうなるよね。
禁書の閲覧許可を求めてくる令嬢なんて普通はいないからね。
「禁書か。何故、禁書を閲覧したいのだ?」
一歩間違えれば即座に危険分子扱いされるが、ここは綱渡りをするべきだ。
こうでもしないと禁書庫に入る事なんてできないからな。
「禁書に記された魔法を知りたいのです」
「知ってどうするつもりだ?よもや、使うつもりではないだろうな?」
「滅相もございません。ただ単に知識欲を満たしたいだけでございます」
王様はじっと私の目を見てくる。
いや、この感覚はおそらく魔法を使われているな。
自力ではなく、魔法具で魔法を行使する事によって、魔法陣を隠しているのか。
無駄な工夫だが。いや、魔法を碌に鍛えていないボンクラ貴族相手なら、通用するはずだから、無駄ではないか。
魔法の感じから察するに大方、嘘を見抜く効果の魔法だろう。
まあ、闇魔法対策として私が開発した『精神保護魔法』が刻まれた指輪状の魔法具を着けている私には効果があるのかはわからないが。
「そうか、わかった。では、アシュトン伯爵令嬢に禁書庫閲覧許可を出す。禁書庫の鍵は後ほど下賜する」
「ありがたき幸せ」
「どうしたのだ?余があっさりと許可を出した事に驚いているのか?」
顔に出ていたか?
いや、出てはいないはずなのだが。
国王陛下には分かるのだろう。
「はい。正直に申し上げますと、許可が貰えるとは思っていませんでした」
「狸貴族と毎日のように化かし合いをしているのだ。魔法が通じずとも信用できるかのか、できないのかぐらいは分かるわ。それにその魔力量から察するに、本当に魔法が好きなだけの令嬢のようだしな」
「ありがとうございます」
国王陛下と数分、雑談すると、ギュスターブさんが複雑怪奇な魔法陣が刻まれた大きな鍵を持って来て、国王陛下に渡した。
私と話ながら、ギュスターブさんに『念話』で持って来させたのか。
「ご苦労だったな、ギュスターブ。さて、アシュトン伯爵令嬢よ。これが禁書庫の鍵だ。くれぐれも無くさないように」
ちなみに、もしもこれを無くしたら、極刑間違いなしである。
「ありがとうございます」
私は国王陛下から禁書庫の鍵を受け取って、退出した。
「よろしかったのですか?」
「あの歳であのような魔導具を開発する逸材だぞ?今のうちから恩を与えておいた方がいい。それにな、ギュスターブよ、あの令嬢をどう思った?」
「率直に申し上げますと得体の知れない相手だと思いました。その身に宿す魔力量が異常です」
「しかも、『読心』が効かなかった」
「誠ですか?」
「ああ、王国一の魔法使いが作った魔導具が効かなかった。おそらく、魂に関する深い造詣があるのだろう」
「あの歳で、ありますか?まさか、ッ!」
「ああ、十中八九、転生者だな」
◆◇◆◇
私は国王陛下から禁書庫の鍵を受け取った後、早速禁書庫に向かった。
禁書庫はこの王城の図書室の奥にあるらしい。
と言う訳で私はまず図書室へ行った。
てっきり迷うかと思ったが、そこら辺にいる騎手さんに場所を聞いたら、辿り着けた。
王城の図書室は想像以上の広さを誇っており、至る所に本棚が設置され、学者やメイドもたくさんいた。
城に勤めている人なら、誰でも読んでもいいという事になっているらしい。
そんな広過ぎる図書室を見渡しながら、奥へ進んで行った。
しばらく歩くと、急に違和感を感じた。
その違和感の大元に向かって歩くと扉が現れた。
比喩表現ではない。本当にどこからともなく現れたのだ。『認識阻害結界』でも張られていたのだろう。
私はその扉を開け、中に進んで行った。
扉の奥は長くて暗い降り階段になっており、何かしらの魔法がかかっているようである。
大方、なんとなく引き返したいと思わせられる闇魔法がかかっているのだろうが、私には効かない。
『精神保護魔法』のおかげだな。
何故、こうも簡単に闇魔法を無効化できるのか、疑問に思わなくもないが、そんな理由簡単に推察できる。
この国は魔法研究が盛んだが、魂に関する研究は準禁忌扱いだから、その弊害がこれなのだろう。
私はどんどんと下に降りていった。
しばらくすると、両隣を騎士に守られている、金属製の扉に辿り着いた。
正確には騎士の形をしたゴーレムだが。
しかも、魔鉱迷宮のボスよりも強そうだ。内包する魔力量が半端じゃない。と言うか、私よりも多くない?
許可されていない者が強引に扉を開けようとすると、襲いかかってくる仕組みなのだろう。
私は金属製の扉を刻まれた魔法陣の真ん中に鍵を差し込んだ。
すると、魔法陣が薄らと鈍く光り、金属製の扉が音もなく開かれた。
中に入ると、扉が閉まり、部屋が明るくなった。
部屋全体が魔法具になっているらしく、埃は微塵も無かった。
警備用なのだろう。あちらこちらに騎士型ゴーレムがいた。
本は全て鎖で繋がれており、幾重にも重ねられた緻密な結界が張られている。
相変わらず、闇魔法だけクオリティーが低い。
「にしても、とんでもない警備体制だな。闇魔法以外の結界に至っては最早、芸術品だな」
結界の解析をしたいという衝動は抑えてとりあえず、気になった題名の本を読む事にした。
一番初めに読んでみた禁書の題名は「神とは何か?」と書かれていた。
『身体強化魔法』を使って超高速読みした。
内容はとても理論的な本だったが、宗教的にアウトだった。異端扱いされない訳がないでしょ。
その禁書は神とは人から溢れた信仰心の籠った魔力によってできた魔力生命体なのではないかと結論付けていた。
つまり、神が作ったのではなく、人が神を作ったという訳だ。私とほぼ同意見の人がいたとは驚きである。
次に読んだ本は魔族について書かれていた。
内容は簡単に要約すると「魔族全員が人類の敵なのではない!魔族も人類も種族が違うだけなのだ!教会の言っている事は間違っている!友好的な魔族もいるのだ!」となる。
「魔族は人類の敵!滅ぼすべし!」と言う教会から異端扱いされる内容だな。
まあ、私もこの本に書いてある事に賛成だが。
次の本の題名は「異世界の存在について」だった。
元異世界人としてはとても惹かれる題名だった。
その本を要約すると「異世界は実在する!なぜなら不定期ではあるが、こちらの世界に迷い込んでくる転移者や転生者がいるからである。あちらの世界からこちらにこれるならば、私たちもあちらの世界に行く方法があるはずだ!」である。
その本の著者によると、『転移魔法』を極めれば世界間の転移もできるとなっているが、いったいどれだけの魔力が必要になるのやら。
その次に読んだ本はとても素晴らしいかった。
題名は「迷宮について」だ。
内容は「迷宮は自然発生するものだが、迷宮を人工的に発生させる方法があるばすだ!私は如何なる手段を用いてでも、それを発見する所存だ!」という感じである。
どうやら、本と言うよりも、実験日誌のようなものであった。
実験の内容、結果、考察が事細かに書かれていた。
だが、途中でページが空白になっていた。
おそらく、この本の著者は禁忌に触れた魔法使いだったのだろう。
実験の途中で捕まって、実験日誌はこの禁書庫に納められる事になったのだろう。
とても鋭い考察が書かれていたので残念だ。
実際、この著者は超小規模迷宮の生成に成功していた。
維持に失敗していたが。
何故、失敗したのかを研究しているうちに捕まってしまったようだ。
この人の研究は道半ばで頓挫してしまったが、それでも、一時的にダンジョンマスターになれたのだ。
この人はその体験をこう綴っている。
「凄まじい全能感を覚えた。魔力量と魔力操作能力などの魔法に関する能力全てが強化されたようだ」と。
実に興味深いではないか。
しかも、この人はマスターになった瞬間、未知の魔法を習得したらしい。
その名も『迷宮魔法』。
その人がそう名付けた魔法は文字通り、迷宮を管理する為の魔法らしい。
と言うよりかは最早、新しい属性だ。
規模が小さ過ぎて、『迷宮魔法』の全てを確認できなかったようだが、それでもとても興味深い。
一般的に知られていない魔法はあっても、知られていない属性は存在しないとされている。
だがしかし、ここに存在している。
未知の属性が存在しているのだ。
とても興味深い。
私は口にでないように気をつけてながら、こう思った。
いつか、『迷宮魔法』を習得しようと。
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