第十一話 オーツ教会議
オーツ教の元ネタが若干、身内ネタ案件。
オーツ神聖帝国聖都オーツカノン、オーツ教総本山オーツ大聖堂にて、教皇と枢機卿四名による会議が行われていた。
「今回は議題はガリア王国のアシュトンフォードという街での騒動についてだ」
「聞いた事のない街ですね。辺境でしょうか?」
「そこまで大きな街ではないらしい。よくあるありふれた街だな」
「そんな所でいったい何が起きたのです?」
「どうやら、現地の司教がお布施の料金を釣り上げて、私腹を肥やしていたらしい」
「またですか?なぜ、最近はそのような者が増えてきたのでしょうか?」
「我々が大きくなり過ぎた弊害だな。どうやら、我々の威光も流石に隣の大陸までは届きにくいらしい」
「はぁ、困ったものですね。ではいつもどおり、信心深い者を送り、信用回復に努めましょう」
「それが、そう簡単な話ではないのだよ。なんでも、現地の貴族の娘が民衆を扇動して、教会の権威を削いでいるらしい」
「その貴族は何をしたいのですか?我々と敵対していい事なんてないでしょうに」
「何かがあるから、こんな事をしているのだろう」
「その娘は毎日、街の貧民街へ行き。無償で治療を施して、お金のある人は格安で治療し、そのお金で食料を買い、孤児院に寄付しているらしい」
「それは教会のやる事ではありませんか!?現地の教会は何をしているのですか?」
「逃げたそうだ」
「「「「は?」」」」
「怒り狂った民衆が恐ろしくて、逃げたそうだ。おかげで、その街では教会の威信は完全に失墜した。放っておけば、付近の街の教会にまで被害がいくぞ。しかも、この情報は一ヶ月前の物だ。この件は最重要案件に指定したため今後、情報は通信魔法を駆使して送られてくるだろうが、それでもタイムラグが一週間ほどある」
「教会が機能していないとなると、街が怪我人で溢れかえるはずですが。いったい、どのような対応をしているのでしょうか?」
「なんでも、その娘が類い稀なる魔力量の持ち主だそうでな、『中位範囲治癒』を無詠唱で連発しているそうだ」
「その娘は何歳ですか?」
「九歳だそうだ」
「聖女候補にしたいですね」
聖女とは神聖属性に優れた女性のことである。
一人だけではなく、何人もの聖女がおり、オーツ教の教会がある全ての国に派遣されている。
「実際、街の人は『聖女様、万歳』と言っているそうだ」
「これ、我々が信用回復する方法、ありますか?」
「難しい議題だからこそ、この場で話し合っているのだ」
「会議中、失礼します!」
「今は会議中よ。後にしなさい!」
「よせ、私が許可したのだ。それでどのような情報が入ってきた?」
「はっ!アシュトンフォードに大量の貧民と闇魔法使いが押し寄せているとの事です」
闇魔法使いとは闇属性の魔法を使う魔法使いの事である。
オーツ教のせいで一般的に嫌われている。
「なぜこうなった?」
「無償で治療を受けられると噂を聞いた貧民と教会がないため、弾圧されないと考えた闇魔法使いが付近の街から押し寄せているようです」
「それに対しての街の対応は?」
「城壁の拡大工事を行い、雇用を創出し、貧民に仕事を与えているようです。闇魔法使いに関しては貴族の娘が大々的に受け入れを表明しているようです」
「わかった。報告ありがとう。下がりなさい」
「はっ!」
「上手く対応しているようですが、混乱はあるはずです。そこにつけ込み民からの信頼を回復するのはどうでしょうか?」
「いい案だと思うぞ」
「失礼します!」
「今度はなんだ?」
「それが、貴族の娘が闇属性魔法及び闇属性の派生属性の研究を解禁すると発表しました」
「なぜそうなった?」
「どうやら、街で闇魔法を使った犯罪者がいたらしく、犯人を捕まえるのに手間取ったそうです。同じ事が起きないように対処法を知るべく、研究を解禁すると宣言しています」
「下がりなさい」
「はっ!」
「まずいな。そんな事をされたら好奇心で闇魔法を研究したがっている魔法使いが続々と集まるぞ。そうなったら魔法協会はあちら側を擁護するだろうな」
「闇魔法を弾圧したツケが回ってきましたな」
「もし、この闇魔法解禁が王国中に広まったら、それだけでも我らの威光が弱まりますな」
「はあ、どうしてこうなった?」
その一言にその場の全員の気持ちが込められていた。
◆◇◆◇
その頃、屋敷にて私は報告を受けていた。
「お嬢様、王都の教会から『どのような目的のためであれ、闇魔法を研究する事は許されない』と抗議文が届いています」
この人は、お父さんが私につけた秘書だ。
「魔法協会と他貴族からは?」
「魔法協会は大々的に支持を表明しており、王国は黙認するようです」
「そうですか。王都は今、王位を争って派閥争いをしています。黙認というのは、下手な対応をして中立であるアシュトン伯爵が敵陣営につくのを恐れた結果でしょうね。実際は私の独断なので関係ないのですが」
「それと人口流入は終わったようですが、闇魔法使いたちは保護を求めて未だに集まってきています」
「そうですか、貧民の流れ込みはどうにかできましたか。闇魔法使いに関しては正直なところ、こんなに集まるのは想定外ですが、まあ元々、数が少ないですからね。今のところ冒険者として働いてもらったり、城壁工事をしてもらっているので問題ないでしょう。闇魔法使いに対しての差別は今はもうないでしょう?」
「はい、おっしゃる通りです。お嬢様が連日、『闇魔法使いは教会に差別されてきた被害者である』と演説された甲斐がありました」
「とは言え、多少の混乱はあるようですね。教会はそこにつけ込んで信用回復を目指してくるでしょう」
「今の内につけ込む隙を塞ぎますか?」
「いえ、そんな事をしたら教会が戻ってこれなくなります。理想は適正価格の治療と孤児院の管理を教会にさせて、以前のように威張らさせないようにする事です」
「かしこまりました」
「冒険者の魔法使い全員に『治癒』を習得するように指示を出してからは怪我人がだいぶ減りましたが、それでも重症者を治癒できる者は限られていますからね。ではそろそろ、城壁工事の視察に行ってきます」
私はそう言うと、風属性上級魔法『飛行魔法』の呪文を唱えた。
「『飛行魔法』」
『飛行魔法』はその名の通り空を飛ぶ魔法だ。
『追尾魔法』の次の習得した上級魔法でもある。
この魔法は性能は素晴らしいがまだ未熟なせいと、どうして風で人が飛べるのかが理解できないせいで、イメージが上手く出来ず、魔力消費量がとんでもない事になっている。
風で人は飛べると、無理やり思い込んでイメージをする事で、魔力消費量を多少は抑え込む事に成功したが、この後、『上位治癒』を連発する予定なんであまり無駄遣いはできない。
私は『飛行魔法』でそこそこの高度に上がった後、自分自身に『加速魔法』をかけて工事現場まで吹っ飛んだ。
そして、ふわりと着地した。
「工事、お疲れ様です」
「聖女様!」
「視察に来ました。後、七ヶ月もすれば完成しそうな勢いですね」
城壁の拡大工事は通常、魔法使いを投入しても時間がかかる。
「はい!聖女様が魔法使いを大量に動員してくださったおかげです」
そう、大量に動員したのだ。
この街に集まった魔法使いはほとんど世に潜んでいた闇魔法使いだが、彼らは闇属性しか使えないわけではない。
他の属性も使えるのだ。
むしろ他の属性の方が得意という者もいるぐらいだ。
しかも、迫害を逃れるために力をつけた魔法使いだったのだ。
そこに目をつけた私はその中でも特に土属性に秀でた者を土木工事に動員したのだ。
魔法で作り出した物はいずれ魔素という魔法の残り滓のような物に分解されていく。
だが、元からある物を利用した場合は別だ。
位置が変わっただけであるため、いつまでも残り続けるのだ。
そんな訳で常軌を逸っした魔法使いの超大量動員(しかも全員やる気に満ちている)によりあり得ない速度で城壁が建設されていた。
我ながら素晴らしい建築方式なのだが、城壁作りである以上、避けて通れない最大の問題が存在していた。
その名を資金問題と言う。
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