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第1話 海はプラスチックでいっぱい 第5回目

第3章捕獲

<第7日目>

艦長室横の水槽がたくさん並んだ会議室のテーブルのところにプロジェクトメンバーが集まってFanを見ている。Fanは右手に小さな注射針を持ち左手はタロを押さえつけて、その部分を星野が心配した顔をして照明をあてていて、それを近くではNinaとCarloにRyan、それにもう一人見慣れない大柄のいかにも軍人らしいがっしりした大柄の人が見ている。この人の名前はGeoffrey(ジェフリイ) Pearce(ピアース)、ただこの人が本部直轄なのか外部の人なのか誰も知らないし本人も答えてくれないから、名前だって本名なのか今回だけその名前なのかもわからない。話をすると気さくに答えるのだが、肝心なことは教えてくれない。何故この人がここにいるかと言うと、本部からの荷物を、それもかなりの大きさになるものを運んできてくれたからだが、今朝になったら会議室に来ていたので誰もどうやってきたのかは知らない。正確に言うと艦長だけは何か連絡を受けていたようだ。あとで調べてみると夜中に近くを貨物船が通っているのだがそこから水中バイクに機材を取り付けて乗ってきたらしい。持ってきたのは、小型の人工血液製造装置と言っても実際に培養をしたりするのはBio Survey Departmentの機器を使うのでその入力アタッチメントにあたる機器と使用する薬品、配管簡易補修用の機材、あとはエビの捕獲に使用する器具の設計図などで、設計図をMaintenance Departmentにある3Dプリンタに入力して必要な器具を作ることになる。自分が使用することになるためNinaがGeoffreyに人工血液製造装置のことを聞いたとき、こんな答えも帰ってきた。「型名はABP L800 型、イスラエル製の装置だ。この国は、今はそこまでひどくは無いらしいが、昔は国内でいろいろな事件があって、要するに内戦に近いものなのだが、急に輸血が必要になることが多かったらしい。輸血が必要な人の中には他人の血液を体内に入れるくらいなら死んだほうがいいという人が多くいたようで、このように自分の血を培養して輸血するという用途がかなりあったらしい。そんな理由があるから、こんな変わった装置が多いのだ。」

人工血液製造装置が届いたのでタロから採血することになったのだが、NinaとCarloはネズミアレルギーがあるとか言うので料理するので手先が器用というFanが対応することになったのだ。Fan曰く「血を見るのには慣れているから」。ただこの2人がネズミアレルギーという話は今まで聞いたことは無い。NinaとCarloは横で見ているだけ、Ryanは星野の耳元で「痛そうだなあ」と言うだけで、そのうちFanが「1ccとったよ」と言った。Carloはタロを見ながら「このネズミは200gくらいありそうだからもう少し採血しても大丈夫なんだけどなあ」などと言いながら血液を受け取りNinaに渡した。確かに体重60㎏の人で考えると140ccに相当する量だから献血する量よりは少ない。これを人工血液製造装置にセットすると次の日の夕方には排水系統6か所に必要と思われる血清が得られる計算なのだが、捕獲作業は1か所ずつで1か所に付き2日かかるという計算で、作った血清が使用可能なのは冷蔵しても最大1週間ということらしく、もう1回タロから採血する必要があるらしい。

7日目の残りだが、Ninaは人工血液製造装置でのタロの血清培養のセッティング、Fajar、Fan、CarloはGeoffreyから受け取った器具の設計データを3Dプリンタにセットして器具作成でそこにGeoffreyも同席、星野とRyanは排水系統への音響センサ追加作業の続きを行った。

Javier副官からの本日の公式報告事項は、排水系統におけるエビのモニタリングの改善を進めた、というだけだった。確かに漏水が発生したなどと報告してしまうと、船舶事故に早急に対応できる専門部隊を派遣するという国が2つあって、片方だけ受け取ることはできず、もし来てしまうとすべての作業がストップしてしまうからだ。

<第8日目>

Ninaは血清培養、Fajar、Fan、Carloは器具作成で忙しい中で、今度は抽出エリアから淨排水エリアへの通路で漏水発生とのモニタリング結果が出たため残りの星野とRyanが対応することになりGeoffreyが持ち込んだものがさっそく役に立った。モニタリング結果から漏水が生じていると予想される位置近辺には通路の塀があって床板を外せない可能性があったので、星野とRyanはFajarが準備していた配管補修パックのほかにGeoffreyが持ってきた中にあるWater Stopとの表示がある箱も持ってきたのだ。漏水予想位置の近くの床板を外して聴診器あてて高精度でチェックするとやはり床板が外せない場所の下だった。そこでその両側の床板を外し出てきた排水管にネジ溝のシートを取り付け、それから制御室に連絡してそこの配管の流れを止めてもらい、ネジ溝の両外側に小さな穴をあけ、いよいよWater Stopの出番になる。要するに風船みたいなもので細長い器具の先にしおれた感じの棒状のものを取り付け穴から配管の中に入れ膨らませることでそこから先への排水の流れを止めるのだ。2か所で流れを止めた後、ネジ溝のほぼ真ん中で排水管をカットし、片側からカットした配管を取り出した。2mくらいで漏水の原因になった小さな穴が開いている。工事に気づいて逃げたようでエビは切り出した配管の中にはいなかった。同じくGeoffreyが持ってきた中にあったテープで配管を2回ほど巻くだけで補修になるらしい。この配管に連結用の補助パーツを2個取り付けて元の位置に戻して連結し、配管に入れた風船をしぼめて取り出しその穴をふさぎ、配管の流れを復帰して終了となる。Ryanが言った。「こんなときハリケーンなんか来なくてよかった」、確かにハリケーンが来ると屋外での作業はできない。問題はハリケーンが来るまでに全部の排水系統での捕獲が終了していなければいけないのだ。

その日は午後から夜半まで休憩、捕獲作業の準備は艦内の日勤が終了して夕食時間となるころに始まった。何かプロジェクトがあること自体は特に秘密ではないのだが、具体的に何をしているのかはオープンではないので、目立つ作業は控えているのだ。作業開始時には培養している血清が3リットルになっていた。第1回目の捕獲作業は回収エリアから淨排水エリアへの排水系統で、回収エリアから排水が流れ出すので排水エリアが上流側となる。血清が下流に流れることでエビをおびき出すので、作業場所はその時点でのエビが集合して排水管をかじっている場所より100m上流とした。先日排水管補修を行った回収エリアよりは30mほど上流側となる。その日の夜勤はRyanということになっているらしい。作業位置及びその両側の計3枚の床板を外し1m程度離れた2か所に午前中に星野とRyanがしたのと同様にネジ溝のシートを取り付け配管の流れを止めネジ溝の外側2か所で小さな穴をあけGeoffreyが持ってきたWater Stopを入れて配管内部で膨らませ流れを止めネジ溝の真ん中で配管をカットした。そこにL字型のジョイントを付けてそれにFajar達が3Dプリンタで作った透明の容器を取り付け、Water Stopを占めて取り出すと中に排水が流れ込んできた。この上流側に小さなチューブが付いていてそこに小さな箱を付けそこに血清が入っている袋を取り付けた。血清の袋から1分間15cc血清を流しその後5分止める、という繰り返しで培養した血清を配管に流すのだ。この時点での音響センサのモニタリング結果は100m下流でエビが集まって配管をかじっているようだったので、予想は5時間ほどで容器の中にエビが集まってくると予想された。配管と捕獲機の間にはトラップがあって、エビは少なくとも断面が1mm2以上あれば戻ることはできない構造になっている。血清を流し始めて5分後には音響センサによるエビの位置探索ができなくなった。血清に気がついて配管をかじるのをやめたと考えられ、こうなると捕獲機に来るまではエビの位置は把握できそうにない。その後捕獲機の周囲に作業中を示す塀を並べて周りからは中が見えないようにして解散となった。モニタリングはOnにしてあるのでエビが捕獲されたらプロジェクトメンバーのヘッドセットに連絡が行くのだ。

他のメンバーとともに星野も居住エリアの自分の部屋に戻り軽くシャワー浴びて仮眠して目を覚ましたのが4時間後。数匹が捕獲機に入ったとのメッセージが来ていた。設置場所に戻る途中で通路をジョギングしている大柄の人に気が付いたらRyanだった。定例の朝トレなんだと。捕獲機の横にはCarloとFanが来ていた。Carloは、朝からの仕事は苦手だが朝焼けの時間帯は大好きだと言っていたのにすごく眠そうだ。星野は基本的に普段早く起きて朝食前にタロを連れて散歩するのが日課だから少し眠い程度だ。恐らくFanとRyanは彼らの国の関係者からどのくらいの捕獲があるのかの報告が求められているのだろう。捕獲機の中には60匹程度のエビが見えた。「開始4時間半で60匹だからほぼ予想の範囲だ」とCarloが言った。その後他のメンバーもそろってきた。Ninaは大きな水槽を載せた配送ロボットと一緒だ。Javier副官が「皆さんおはよう、今日はご覧のように第1回目の捕獲作業をします。それではCarlo、やり方を説明して」と言った。「この捕獲容器には3か所アクセスできる口があってそこから手を入れて専用の道具で捕獲してNinaの横の水槽に入れてもらいます。その道具は」と言って水槽の下から一見掃除機に見えるものを取り出した。「この先の部分がエビに触れると自動的に吸い込んでこのポットに送られます。ポットに5匹くらい溜まったら私が取り外して水槽に入れるので、その間は捕獲できません」、プロジェクトメンバーの中で、一番自分でエビを採りたいのはCarloなのだが他に重要なことをするのでできないのだ。そのためか、「こうやって採るのです」と言いながら素晴らしい手際で一度に3匹くらいエビを捕獲した。ポットには小さな表示装置があってそこに”3”と表示された。「捕獲したエビの数は自動的にこの装置がカウントします。何か質問あれば」と言ったところで「採ったエビの内臓を抜いて衣付けて、そのままエビフライにできるようにする機械じゃないんだな」とFajarが返した。確かに昔そんな機会を日本の会社が作ろうとして動物愛護団体から文句言われて止めたなんて話があった、と星野が思い出した。途中で交代する前提で、まずRyan、Nina、星野の3名がエビ採りに挑戦した。Ryanが先に準備していて星野が準備できたときにはRyanとNinaが既に取り始めていると思ったら2人とも待っていてRyanが「スタート」と叫んだとたん猛烈に手を動かし始めた。星野はこの手のものが苦手で、日本では昔金魚すくいなんてあったという話を聞いたなんて思っていたらRyanが「終わり」と叫んだ。星野は5匹、Nina8匹、Ryan10匹だった。敗者退場で星野のところにはFajarが来た。Ninaは、横でいかにもやりたそうな顔をしていたCarloに手渡した。Carloの仕事はNinaもできるのだ。次の回もRyanは豪快に手を動かしていたが、横のFajarは短くさっさと手を動かすことで数を増やした。Carloは華麗に1回の動きで2匹、3匹と捕獲しているのだが1回の動きにかかるまでの時間が長く、さらには動かそうとするときに目の前でRyanやFajarがエビをさらっていく。そしてFajarが「終わり」と叫んだ。Fajar10匹、Ryan8匹、Carlo7匹だった。RyanのあとはFanが入りCarloのあとにはJavier副官が自信満々の感じで入った。Fajarが「スタート」と言ってさっさと採り始めたらFanがものすごい速さで採りすぐに「終わり」と言った。Fan10匹、Fajar7匹、Javier副官4匹という結果で残りのエビはだいぶ少なくなっていたので、Carloがポット交換をしたときにFanが「残りもやるよ」と言ってFanとFajarがそれぞれ8匹、5匹を採ってエビ採り競争が終了した。このプロジェクトは米国と中国の関係で生まれ、今回は直接の対決は無かったものの第1回目のエビ採り競争では中国の圧勝だったようだ。ただ実際の世の中はこんな単純な決着にはならない。計85匹で、エビ採りを始めた時より少し増えたようだが、これ以上は捕獲機の中には入ってこないのでこれが第1回目の終了とされた。当初の予想よりは少し少ないかもと星野は思った。そのとき各自のヘッドセットにAudrey艦長から連絡が入った。「第1回目の捕獲作業ご苦労様です。皆さんのおかげで成功することができました。これでこの配管系統での漏水は発生しないものと思われます。」「今回は周囲に人が少ない回収エリアでの作業でしたが、捕獲作業に気がついた人はいたようです。次の捕獲はより周囲の人が多い抽出エリアです。このため次回の捕獲作業は艦内にアナウンスしますので、このプロジェクト内での公式報告は施設全体の報告となります。」艦長室の隣の会議室だけで作業するだけならプロジェクト内部だけで済むのだが、オープンエリアでの大掛かりな作業が発生するとプロジェクト外部へは秘密ということができないことは、各メンバー共に思ってはいた。ただ施設でオープンということは世界全体にオープンということになるため、捕獲作業の進捗は面倒になる。一方世界全体にオープンにするので、必要な機材などは隠れて準備する必要がなくなるのはいいことではある。

捕獲機を取り外し配管と床板をもとに戻したところですごく長かった8日目の作業は終了した。

<第9日目>

プロジェクトメンバーは午前中に各々溜まっていた本来業務を片付け午後回収エリアに集合した。作業前に各自のヘッドセットにAudrey艦長から連絡が入った。「皆さんご苦労様です。昨日お話ししたように第2回目の捕獲作業からオープンとします。このため今朝、この施設でプラスチックを分解する働きを持った新種の甲殻類が見つかりその捕獲作業1回目を明日行います、というニュースリリースを広報通じて行いました。早速数社から取材申し込みが来ましたがこちらの体制が整わない、という理由でお断りしました。その代りとして、こちら側で撮影した捕獲状況の映像を提供することになりました。」つまり社内広報が捕獲風景を撮影してそれを公開するということで、捕獲時に見た人に疑念を抱かせるふるまいはできないということを意味する。「従いまして昨日のようなエビ採り競争は控えてください。外部取材ですが5日後に予定している回収エリアでの捕獲作業に合わせます。これについて誰が広報への窓口となって説明する?」捕獲作業で急を要するところは前回の回収エリアと今回行う抽出エリアで、他の排水系統では急いで捕獲作業をする必要はなさそう、と星野は思っていたのだが、Fajarが言った。「それでは私から説明しましょう。各配管系統でDNA検査をして6か所の排水系統でエビのDNAが検出されたのはご存じの通りですが、その中で量が大きいと判断されたのは回収エリアから淨排水エリアの系統と抽出エリアから淨排水エリアの系統です。ボートが漂着したのは回収エリアなので、何故抽出エリアから淨排水エリアの系統で検出が大きいのかを検討しました。回収エリアと抽出エリアを結ぶ直接の排水系統は無いのですが、回収エリアから抽出エリアへは処理をするプラスチックが移動します。プラスチックは海水の流れにのって動くので、エビがこの海水に含まれているかどうか検査をした結果、かなりの量のエビが海水に含まれている可能性があることがわかりました。ただし、この海水は2mm程度のかなり目の細かいフィルターを通ったものを使っているので、エビがどこから入ったのかは不明です。ここの系統での捕獲をするためには、現在よりも大掛かりな設備が必要になり、ここの設備では製造ができないと思われます。そのため必要な機材は既に本部に依頼しています。先日ここに来たGeoffreyが戻るときに伝言を頼みました。これが出来上がってこちらに来るのが3日後ですので捕獲作業を5日後としてもらいました。」見るとNina,Carlo,Fan,Ryanともに無反応で聞いていたので、この話は星野だけが知らなかったのがわかった。事前に何かヒントになりそうなことを聞いたかどうか思い出そうとしたが思いつかなかった。ただ後で連絡をチェックしてみると、Javier副官からスケジュールもチェックしておいて、という連絡が入っていてスケジュールを見ると確かに5日後にプラスチック回収路での捕獲作業と外部取材予定と入っていた。スケジュールなどはいつも変更になるので途中から星野はチェックしていなかったが、それが失敗だったようだ。第2回目の捕獲作業が終わったあと艦長からは星野がさらに驚くアナウンスがあったがそれは後で。

星野1人がショックを受けてはいたが、淡々と第2回目の捕獲作業の準備を行った。艦長が先ほど話したように途中からいつの間にかこの施設の広報チームが説明付きで撮影をしていた。説明しているのはPublic Relations Departmentで広報担当のHendrik(ヘンドリク) Bosman(ボスマン)。長身の若干うぬぼれの強いところがある人で、打ち合わせの時はマスクをつけていてゴミ回収のところを遠くから見ていただけだったが、実際に収録するときはマスクを外してゴミのすぐ近くまで行って話をしている。Hendrikが説明しようとしたときにJavier副官が出ようとするのを一生懸命に邪魔しようとしているように見えた。作業のほうは、捕獲自体が朝になるように血清の投与が夜半にスタートするように設定したところで9日目の作業が終了した。

<第10日目>

9時前後に捕獲機にエビが入ってくるだろうとの予想だったので、メンバーは8時過ぎには全員が集まった。ただ8時半の段階では捕獲機にはまだ何も入ってきていなかった。9時になってやっと数匹入ってきて、何故か予想よりは非常に少ないように思えた。施設全体への捕獲作業に関する周知連絡が出たのが9時だったので、その後近くまで見に来る人が出てきた。昨日の広報取材チームも出てきて取材を始めた。Hendrikが見学に来た人に話をしようとしたら、Javier副官がカメラ前に出てきて見に来た人に「ご苦労様」と言ったとたんに見に来た人が立ち去ろうとして、Hendrikがその人たちに何とか話をさせようとして、何か昨日の取材時の競争の焼き直しが始まった。捕獲機の中にいるのは、よく見ると変わってはいるのだが何となく見たら普通に見えるエビなので、すごく変わった生き物を期待していた人ならすぐ帰ってしまうのは理解できる話ではある。その後約1時間エビが少し増えたくらいでほぼ変化なく経過したところで急に捕獲機の中全体が白く濁ってきた。取材陣に関わっていたJavier副官以外のメンバーが近づいてみて少し経ったところでほぼ全員が声を上げた。「なんだ、これは」白く濁って見えたものは非常に多数の小さな1mmくらいのエビだった。Fajarが言った。「この大きさだから回収エリアから抜け出しプラスチック回収路への海水取こみ込み口のメッシュを通り過ぎたということか。するとこの捕獲機のトラップも通り抜ける。早く捕まえないとみんな逃げてしまう。」これに対しCarloは「捕獲機のところから血清を流しているから当分は大丈夫だろう。問題はこの大きさのものをどうやって捕まえるか。一昨日の器具は大きすぎて使えない。」と言いながら水槽に付随する器具を見回しているとNinaが「これでしょ、ここにはこれは1個しかないし、水槽も大きいエビと小さいエビで分けたほうがいい」と言って一昨日使用したものより細い捕獲機を出した。「実験室から水槽と細い捕獲機をもう少し持ってこないと」と言ったところで取材陣が捕獲機での変化に気がついた。Ninaが「水槽と捕獲機を採りに行くけど」と行ったのを受けJavier副官がHendrikに「この捕獲に必要な器具の撮影もできるらしいので行きましょう。」と言ってNinaと一緒に取材陣もついていった。Fajarが「当面この1個だけで捕獲するのか」と言うとほぼ全員がFanを見た。「使い方は?」とFanが聞くのでCarloは「同じだけど、エビが小さいので傷つけないように吸い込み速度は少し抑えている。そこだけ気にして欲しい。」と答えた。Fanが素早く捕獲機を操作して小エビを捕獲し15分間隔くらいでCarloがポットを取り外して水槽に小エビを入れた。大体1回で1000匹近くなった。これが1時間半くらい続いて捕獲機の白っぽい色は半分くらいに薄くなってきた。その分捕獲がだんだんと間がかかるようになってきた。Fanが「疲れてきた」と言ったのでRyanが「マッサージしてあげよう」と言ったのだが「その手はマッサージに向いていない、まだFajarのほうがマッサージは上手そうに見える」とFanが答えた。そのとき、Ninaが水槽と細い捕獲機2個、あと取材陣も引き連れて戻ってきたのでFajarが「選手交代だ」と言った。次の捕獲担当はRyan、Fajar、Carloで、Ninaはポット交換をしながらHendrikからの取材に対応し、疲れたと言っているFanのマッサージは星野とJavier副官が行った。全部の小エビを捕まえるのにその後約1時間かかり全部で9300匹くらいを捕獲した。今までのサイズのエビ15匹捕まえるのにさらに数分かかって10日目の作業が終了し、艦長からメッセージが来た。「皆さんご苦労様。取材した映像は編集後に世界へ公開しますが、その際に捕獲したエビの各20%を今回の捕獲に協力していただいた米国と中国に、残りは国連指揮のもの当施設が管理ますが研究用として希望する国があればできる範囲で提供します、とのアナウンスもします。」どうも捕獲容器や捕獲用器具をこの2か国から提供を受けたという形式にしたようだ。「また5日後のプラスチック回収路での捕獲作業は、外部からの取材チームが来ます。複数の希望があったのですが、こちらでの受け入れができないという理由で協働取材チームを編成してもらいました。4日後に10名が来て取材し捕獲終了の1日後まで滞在します。対応はJavier副官と今回取材している広報のHendrikがしますが、捕獲作業後に共同会見を予定していて、それには専門家としてNina、Fajar、和仁が対応します。」。これも完全に初耳だったが、確かにRyanやFanが同席すると政治色が強くなりそうだし、Carloは広報には全く向いていないから妥当な人選なのだろう、と星野は思った。

<第11~13日目>

Fajarは本部で製造中の捕獲容器などの対応で忙しい中、NinaとCarloは捕獲した小エビの調査で忙しく、星野は水槽へのモニタカメラ設置などで手伝っていた。そこにはRyanとFanも同席している。表向きは手伝いなのだが、恐らく出身母体から報告をせっつかれているのだろう。NinaとCarloだって小エビが生後どのくらいなのか、主に何を食べるのかなど何もわかっていないのだ。星野は少し気になっていたことをCarloに聞いてみた。Carloは研究者の卵なので本来なら時間があれば論文を書かなければいけないはずなのだ。「このエビの話は、世界で初めてなのだが論文になるのか?」これに対し「確かに新規性という点では十分にあるから、昨日取材したエビの画像が流れた時点でいくつかの学会からは論文投稿しないか、とか講演してくれないか、という問い合わせだけなら来たけど」とCarloが言った。ただNinaが「これはだれが作ったか知らないけど自然界の生物ではない、と分かったとたんに消えたんでしょ。」と言った。「そうなのだ。正確に言うと中国の学会1つと米国の民間団体は残っているけど。」それに対してNinaが「本部から釘を刺されているでしょ、今後そこに住むつもりでなければ、トランジット含め中国や米国に行くことはなるべく避けたほうがいいと。」と言った。星野にはどこからもそんなことは言われていないのだが、それはこの2人が生物学舎で今回のエビに関してはキーパーソンだからだ。Fanは「100年前ならまだしも今はそんなことはないはずだけど」と返したが、Ninaは「私の場合は、国連関係者の地位もあるから問題ないけど、Carloはここの契約職員というだけだからねえ。」と言った。Carloが「和仁は本部から何か言われているのか?」と聞くので「何にも」と答えると「当分アメリカへ行くのは控えるので、何か欲しいものが出てきたら買い物をお願いできる?」と聞いてきた。「おいおい、忘れては困るなあ。そんな頼みは俺に言ってくれ。」とRyanが言った。この2人は体形も趣味も共通点など何もないのに、と星野は思った。

エビに関して、これまでで分かったことをCarloが教えてくれた。「プラスチックを分解できるとは言っても主な餌はオキアミなどの生き物で死んでいてもいい。これらと菌の付いたプラスチックを6:4くらいの割合で混ぜて与えるときが一番プラスチックの分解が多いという結果が出ている、今回捕獲した小エビは生後半年から1年程度らしく、プラスチックの分解は体重に対する割合では大きなエビとほとんど変化ない。エビが食べたプラスチックは内臓でほとんど分解され一部が殻の部分に吸収されるので、内臓と殻を取り除くと食用とすることは可能と思われる。」ということだ。

13日目には、プラスチック回収路で使用予定の捕獲容器などが正規ルートで届いたので、プロジェクトメンバー全員が回収エリアに出かけた。長さが3mほどあり、とても短時間で作ったとは見えない出来なので、星野が聞いたらFajarは「前に言ったように、第1回目の準備でここに来たGeoffreyに基本設計を渡しているから基本部分についてはそれなりの時間があったはず。そのあと、第2回目終了直後に小エビにも対応できるように修正してもらった。捕獲容器の外側は修正がかかっていないから普通の製品のようにできている。」と答えた。



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