とある人
翌日、は珍しく朝の時間をゆっくり過ごしたことが理由で学校に着いたのは遅刻ギリギリだった。ずらりと並んだ自転車の隙間になんとか止めた。高校に入ると同時に買い替えた自転車は、両隣の2台よりもピカピカだった。隣の自転車は錆びていて、最近磨いたのかそれ以外に目立った汚れはないが、もう一方の自転車は籠のネジの部分が緩んでしまっている。
朝ほんの少し急いでいたのだろう。昼になって自転車の鍵がないことに気づいた。弁当を広げるよりも先に自転車の鍵を取りに行った。駐輪場に行くと、様々な教室から喋り超えが絶えず聞こえてきて、賑やかさを象徴していた。自分が止めた自転車を探すというより、なんとなく頭に入っている両隣の自転車を探した。容易に見つかったが、両隣の自転車の片方に、なにやら張り紙が張ってあるのが目に入った。
『放課後職員室にきなさい
生徒指導部 畠山』
サドルを覆うようにした張り紙を見て直感的に俺は、先日の一件だと思った。ということは、昨日の集会の後、誰も自白しに行かなかったというのか。つまりこの自転車の持ち主が、暴言を吐いた犯人…。
自転車のナンバーが目に入ったので、頭が無意識にそれを覚えようとしていた。ナンバーは『1939』と一瞬見ただけでも女性が覚えられるのも納得の単純さだ。
ちゃんと自転車の鍵を抜いて、それをポケットに入れてから、駐輪場を後にした。
教室に戻る途中、目の前を歩いていた男子のポケットからハンカチが落ちるのを目撃した。人通りがたまたま少なく、誰が落としたのかがすぐに分かるようになっていたので、俺は咄嗟にそれを拾って持ち主に声をかけた。
「あの、落としましたよ」
肩をつつくと、小さくビクンとなってから振り向いた。そして手に持っているハンカチを見て落としたんだと気づいたようだ。センター分けをした前髪が、ちょうど目を隠すくらいの髪形だ。名は分からんが、同級生であることは確か。
「ありがとうございます。最近落とし物が多くて困るんですよ。この前なんか財布落としちゃって、親切な人が駅に届けてくれたんで助かったんですけど。気をつけないと」
初対面でそこまでおしゃべりなのは梶原以来だな。ほれで、先週拾った財布の持ち主はもしかしたら彼なのだろうか。
「そうですか。気をつけてくださいね」
教室に戻ってから、弁当箱を広げた。3人はもう4分の3くらい食べている。まあ俺が忘れたのだから仕方ない。
「珍しいね。つばちゃんがボロを見せるなんて」
「海斗にはよくあるけどね」
「ああ、なんか容易に想像できるなぁ」
確かに、梶原はそういう事をよくしそうだ。それも小学生からの付き合いのある千春が言うのなら間違いない。
時間も限られており、後10分で休憩が終わる。俺は話す間もなくご飯をかき込んだ。
放課後、鍵を借りに行った時、生徒指導の畠山が職員室の中で怒っているのを見かけた。鍵を借りるために職員室に少し入っているので、はっきりと様子が分かった。スリッパの色が俺がよく見ている色だった。
「はい、棟の鍵も貸しとくからね」
「ありがとうございます」
もう少しいたかったが、流石に用も済んだので出ようとしたら、畠山の憤慨した怒鳴り声が聞こえてきた。
「やってないじゃないわ!あの自転車はおめえのやろが!」
職員室全域に響いていて、とても迫力があった。こっちまでドキッとした。状況が気になったのでもう少しいたかったが、流石にもう用も済んだのでそういうわけにもいかず、俺はそそくさと職員室を後にした。




