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この庭の芝生は青い  作者: 心愛
無実行きの切符
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帰路と助け舟

だから俺はさっさと言ってしまいたいのだが…。梶原にそんな視線を送っても、何も分かってないような笑みが返ってくるだけだった。


「おかしなとこ…?今のところにあった?」


「だよね!!つばちゃんなにか勘違いしてるんじゃないの?」


 反論をしたいところではあったが、話を聞いた千春までもがそういうのであれば、本当に勘違いな気がしてきた。


「教えてよ。どこがおかしかったんだい?」


 梶原の真っすぐな視線が刺さる。だが梶原の話に差異はなかったはず。


「暴言を吐いた2人は自転車に2人乗りをしていたんだろ?ならなんで徒歩通学の生徒も集会に呼ばなかったんだ。時間帯的に16時はちょうど俺たちが下校するころで、片方は自転車通学じゃない奴のはずだろ?」


「あ、そっか。自転車で学校に来ているなら2人乗りをする必要がないってことだね」


 梶原の補足に千春も理解をしたようで、無言で頷いている。


「だから怒ってたんだね」


 大人、高校の先生だからといって、頭が回るわけではない。知恵は経験で得られるんだろう。みんな同じ量だけ。でもそれが活きるかどうかは人次第。大人をもとよりあまり信用していないのだが、これでまた、信用が薄くなったような。今のところ信用できる大人は、湯浅先生くらいだ。あの人は人情がある。秘密を守る事もできる。


「僕今日バイトだから、そろそろ帰るね。海斗どうする?」


「つばちゃんの気になっていることもスッキリしたことだし、俺ももう帰ろうかな。つばちゃんは?」


「俺はもう少しいる」


「わかった。じゃあ燕くん、また明日ね」


「ああ。じゃあな」


 2人は荷物を持って、部室を出ていった。技術棟は常に人が少ないので、足音がよく響く。階段へと消えていった2人を見送ってから、椅子に座った。


「別に帰ってもよかったのに」


 声をかけてきたのは、窓の外に向かって椅子に座り、キャンパスを鉛筆を走らせている美術部の相川だ。相川はこの部員ではないのだが、美術部で自分のしたいことができないので、ここでよく絵を描いている。


「流石に部員じゃないやつに鍵を返させるわけには行かんからな」


「湯浅先生から許可はもらったわよ」


 いつの間にそんな話を…。俺は体を相川の方に向けて言った。


「美術部の方には行ってるのか。最近はずっとこっちにきているらしいが」


 鉛筆を走らせていた手が止まった。難しい質問だったのか、しばらく答えが返ってこない。しまったと思ったが、もう取り消しはできない。レストランの予約とは、理由が違うのだ。相川から返ってきたのは、予想とははるかに違うものだった。


「あなた、自転車通学でしょ?一緒に帰りましょう」




 


 

 自転車を持って、俺は相川と歩いて帰る。いつもはよくしゃべる梶原がいるから気にならなかったが、誰かといて静寂もついてくるとなると、かなり居心地が悪い。


「部活、もうやめようかなって、思ってるの」


「そうなのか」


「反応薄いのね。まぁ、だいたい予想ついていたけど」


 伸びている影は、いつもとは見慣れない姿がいる。相川と話すことはあっても、あの棟の外で話すのは、初めてな気がする。


「驚いてないわけじゃない。でも薄々そうなるだろうなとは思ってた。梶原とも話してたんだ。現状が変わらなかったら、相川は辞めるんじゃないかって」


「あの子たち、美術部で知り合ったんだけど、あの子たちはクラスも同じで、いわゆる陽キャ。でも私はクラスも違うし、性格もこんなだから。いてもいなくても変わらない」


「いてもいなくても変わらないってとは、ないと思うぞ」


「どうしてよ」


「だって、お前を探してたんだ。あいつらに会わなかったら、きっと今だってお前はユウレイとして、彷徨っていた」


「そうとは限らないわよ。見つけてくれたかもしれないじゃない」


「どうだかな」


 まぁ、技術棟を住処にされたら、今頃は気づいていたかもしれない。このまま籍を残したままうちらの部室に居候するという中途半端な状況に、そろそろけじめをつけるということなのだろうか。その決心を、告げるために、帰ろうと言い出したのかもしれないと、俺は思った。


「別に、文化祭のためにやってた訳じゃないから、辞めても問題はないんだけど」

 

「辞めた後はどうするんだ」


「辞めたってだけで、することは何も変わらない」


 梶原は、相川が部活に入るかもしれないと言っていたが、そこまでは行かないらしい。安心したのかどうかわからない感情に陥った。


 2人並んで自転車を押しているので、前から歩いてきたおばちゃんを避けるために、俺はスピードを緩めた。相川の後ろを歩く。すれ違う寸前で、おばさんは俺達に話しかけた。


「ありがとう。向ケ丘高校の生徒さんはいい人が多いのね。前も私が重たい荷物を持っていたら手伝ってくれたのよ」


「そうですか、いい人だったんですね」


「あなたたちもよ。すてきなカップルね」


 笑顔のまま通り過ぎていったおばさん。俺はこんな場面初めてで、反応に戸惑ったまま、ただゆっくりと歩くおばさんを目で追うことしかできなかった。


 相川と今目を合わせるのは、なんだか気まずい気がして、目のやり場に困った。


 この2人の間にだけ時間が流れていないように立ち止まり、体の動きを制限させられている。


 こんな経験は、生まれてから初めてだった。





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