怒号
「うるさい!」
体育館には戦慄が走ったようだった。一度落ち着いた水の波紋に もう一度石を投げるようにして先生は続けた。
「先週木曜、16時30分頃ですね、学校に一本の連絡がありました。この付近に住んでいる女性からでした。自転車に2人乗りをしていた2人に暴言を吐かれたと。2人乗りは立派な犯罪です。法律違反だぞ。女性は非常に怒ってらっしゃいました。警察に相談すると言われたので、それはお待ち下さいと。こちらで厳重に注意いたしますからと、なんとか勘弁してもらいました。かくれても無駄だからな。自転車に貼ってあるステッカーを見て、この高校だと、向ケ丘高校の生徒だと分かり連絡をしてきたようで、なんばーも教えてくださいました。今日、この後すぐ、ここに来い。もし今日来んかったら、明日容赦せんけえの」
マイクのエコーと雑音が、最後まで響いていた。俺は落胆していた。大人は、これほどまでに視野が狭かったのだろうか。見える世界は広がっても、何が重要なことなのかを把握する力は、ないようだ。少なくともこの生徒指導の教師はそのタイプだ。無駄な集会と気づいて、苛立ちが湧いてくることに気づいた。
体育館の生徒は、何をすべきかわからない状態と、思った以上に怒っている先生と、そこから読める深刻な状況に、思わず固まってしまっているようだった。それともみんな異変には気づいているが、言っていないだけなのだろうか。
「解散」
群衆の前から端へといつの間にか移動していた生徒指導の先生が、怒りを隠しきれてないような口調でそう言った。
誰もが先駆者になりたがらなず、少しの間お見合い状態が続いたが、痺れを切らしたものが1人出ていくと、それに続いてまた1人2人と、どんどんでて行く。さっきの戦慄を少し残しながら、ざわつきが戻ってきた。
梶原が立ち上がり出ていくのについて行った。
「いやー怒ってたね」
「だな」
緊張から解き放たれて、思いっきり伸びをした梶原は、その手を頭の後ろに持っていった。
「今頃怒られてるのかな」
体育館を振り返りながら、梶原は言った。俺たちが体育館を出たのは他の生徒がかなり出ていった後だったので、出頭していてもおかしくはない。
「あれだけ言われればな。出ざるを得ないかもな」
ポケットの中で、自転車の鍵が踊っている。その証拠に、鍵に付けた鈴がきれいな音色を立てている。
「でもおかしいだろ」
やはり我慢ならなかった。好奇心お化けの梶原でさえも気づいていないのなら、他の誰かが気づいているとも考えづらい。
「まあね。あんな非人道的な人たちが同じ高校にいるなんて、生徒会としても悲しいものがあるね」
「違うそこじゃない」
いや、違うことはないし、生徒会の梶原がそう思うことは全くもって悪いことではない。だが俺の言いたいところはそこじゃない。
梶原は、拍子抜けしたような顔でみてきた。そしてその後、眉をひそめて言うのだ。
「何かおかしなところでもあったかい?ごく普通の集会だと思ったけどね」
「いや、明らかに1つおかしなところがあったぞ」
「どこ」
「だって、自転車には2人乗りをしていたんだろ」
「うん。それも立派な法律違反だね。先生も言ってた。あ!法律に反してるのに警察に通したがらなかったから?」
「いや、学校側は生徒がよっぽどの犯罪をしない限りは警察の世話にすることは避けるだろう。殺人とかならまだしも、2人乗りだからな」
「ええ…なんだろう」
早く言ってしまいたいのだが、梶原はこの状況をクイズと思い込んでいるようで、すっかり答えを当てようと楽しんでしまっている。あごに手を当てる梶原と歩いていると、技術棟にいつの間にか入っていて、俺らは部室へと繋がる階段を上がっていた。
部室にいたのは相川と、千春だ。かばんもないので、伊沢は顔を出さずに帰ったようだ。
「遅かったね」
何かの冊子のような物を開いていた千春は、俺らに声をかけながらそれをしまった。何らかの参考書だろう。
「先生が鬼のように怒っててね」
「ほんと?燕君」
梶原はよく話を盛ることで定評がある。この3ヶ月で俺もそれを実感している。小学からの付き合いのある千春も当然それを知っている。それを疑って俺に聞いてきたのだろう。
「ああ。今回ばかりは本当だ。あれぞ生徒指導って感じだったな」
「よっぽどだね。で、何で集められたの?」
そうか。何が起こったかは集められて初めて言われたということを完全に忘れていた。
梶原が概要を話した。いつどこで誰と何があったのか。
「それでね。つばちゃんがおかしなところがあるって言うんだ」




