時は気まぐれ
どういう意味?」
「だから、コインケースにわざわざ財布を使う意味がないってことだ。他の機能が無駄になるくらいなら、コインケースそのものを買ったほうがよくないか?あの財布、決して大きいとは言えないが、少なくともズボンのポケットには入らないぞ。市販のコインケースなら、ポケットに入るくらいの大きさに設計されているはずだからな」
「んー…確かにそうかも」
「あの駅を使うのはうちの高校くらいだろ。近くに高校もないし」
「うん、高校生の財布と言われれば、中にポイントカードが入ってなかったのも納得できるね」
梶原がいうように、あの財布は小銭と切符のみでポイントカードやクーポンのようなものは入ってなかった。俺自身、中学のときにもポイントカードを作っていなかった。高校に入って作ろうとは思っているが、まだ作っていない。きっとこの持ち主もそうだったのではないだろうか。
「俺も、カードは持ってないんだよね」
梶原は当たり前のように言ったが、俺はてっきり梶原はそういうのを持っているのかと思っていた。
「意外だな」
「高校1年だもん。少々早いんじゃないかなって。でもそろそろ作ってみたいよね」
たぶん、持ち主も同じ考えだったんだろう。もしくは、この時代だからスマホにポイントカードが入っているとか。案外そっちのほうがあり得る気がしてきた。
梶原の疑問はこれで解けたのだろうか。ちらりと顔を見てみると、いつもと変わらず笑っていた。本当によく笑うやつだ。
「なんだか、初めてつばちゃんに会ったときのこと思い出すような展開だったね」
梶原は続けた。
「消しゴムを拾ったときも、つばちゃんが持ち主を見つけてくれた。まぁそれがたけちゃんだったわけだけど」
「まぁ、落とし物を拾ったってとこは同じだな」
「まだ3ヶ月しかたってないんだね」
俺は教室に貼ってあるカレンダーに目をやった。そこに4月のものも5月のものもない。その事実が、心に3ヶ月という実感を沸かせてくれているような気がした。照りつける太陽、黒のオセロが白へと皆ひっくり返ったように変わった生徒の服の色。夏がもうすぐやってきている。
「時は気まぐれだな」
「言えてるよ」
あの次の日から雨が降り続き、土曜、日曜を挟んで月曜、火曜をまたいだ今日の今朝妙な知らせがあった。
「自転車通学の生徒は、放課後体育館に集まってくださいとのことです」
朝のホームルームのときに言われて、なんとか忘れることもなくその集会に赴いた。他に自転車通学の知り合いと言えば、梶原と相川くらいだろうか。全校生徒でみても、自転車通学の生徒の割合は少ないように思える。体育館の中は、朝会の時の三分の一の生徒もおらず、其の癖いつも通りのざわつきを見せていた。特に座る場所を指定されなかったので、出口に近い後ろ側に梶原と座った。
まだ体育館に入ってくる人は少なくない。1人で入って来る人も、塊で入ってくる人もいた。
「何の話だろうね」
「さあ。どうせ横断歩道がないところを渡ったとか並列走行してたとかだろ」
梶原は完全にリラックスモードになっており、足を伸ばして手を後ろについて座っている。
ショッピングモールにいる時のようなざわつきは、生徒指導の先生の言葉で一掃された。それはまるで走ってやってくる子どもから逃げるように飛び立つ鳥の群れのようだった。
「うるさい!」




