剣に選ばれた少女 5
バリバリと乾いた破裂音と共に、命を刈り取る一瞬の煌めき。
自然現象の一つである雷を再現するその魔法は、音を置き去りに、瞬く間に男の身体を打ち叩く。
それに呼応するようにカナンの真っ黒な瞳には金色が宿った。
雷撃魔法が直撃した男は音を立て崩れ落ちた。
彼らは倒れた男を見つめ、そして、それを執行した不気味で変わり者の冷たい瞳に宿る金色が消失すると同時に、悲鳴を上げた。
背を向け、一目散に逃げだす彼らの中で、一人躓き震えて動けない女がいた。
カナンは追撃の様子を見せない。魔法を放ったその左手をゆっくり下ろし、ただじっと女を見つめていた。
フィリアが口を開けた。
「なんのつもりだ。私は殲滅しろと言ったんだが。意図が汲み取れなかったか?︎︎私は皆殺しにしろと――」
フィリアの話を遮るようにカナンは声を出す。
「必要ない」
「は?」
「道は開いた。目的は達した。もう十分だ」
「いいだろう。君の言い分は理解した。――ならば、あそこにうずくまっている奴は邪魔だな?」
カナンは、1人逃げ遅れうずくまっている人を指さすフィリアを睨みつけた。
「殺れ」
「嫌だ」
フィリアの命令に即答だった。
「なぜだ」
「あの人は女だ。女は……殺したくない」
「はあ」
フィリアはカナンの頬を殴り、カナンの襟を掴み引き寄せた。
カナンがフィリアの方へ目を向けると彼女の紅玉の瞳は魔力を帯び、鮮やかに光り輝いていた。
その輝きを視界に取り込んだカナンの瞳は徐々に淡い赤色を帯び始めた。
「よく見ろ。男だ」
カナンが目を向けると、見間違えであったようで確かに女ではなく男のようだ。
しかし、死に脅え、背を丸め肩を震わせているのは間違いないのだ。
「それでも……嫌だ」
「もういい」
溜息を吐いて、フィリアは馬車に乗り込んだ。
「ごめん」
カナンがそう呟くと、フィリアは投げやりに「いいから早く乗れ」と言った。