剣に選ばれた少女 4
︎︎馬車は突然止まり、車内が揺れた。
︎︎御者が声を上げた。
︎︎フィリアは体制を崩し、ビクともしないカナンの方へ慣性に従って勢いよく身体を放り出した。
︎︎カナンはフィリアの肩を支え、起こした。
「――臨戦態勢」
︎︎眉間に皺を寄せ、苛立ちを見せるフィリアは命じた。
︎︎静かに立ち上がるとカナンは、両手をフリーにして「了解」と呟いた。
「敵対行動を確認次第殲滅しろ」
︎︎フィリアの過激な発言に「いいのか」と聞いた。
「君が着ているのは軍服だ。刃を向ければ、どうなるか。奴らもわかっているはずさ」
︎︎フィリアはそう言って、キセルを蒸かし、寛ぎはじめた。
︎︎カナンは「そうか」と返事をすると、フィリアに聞こえないほどに小さな声で呟いた。
「誰もがフィリアほど理性的なわけではない」
︎︎外に出ると御者がカナンを呼んだ。
「軍人さん、助けてえ!」
︎︎御者を取り囲むように道を塞ぐ10名以上の集団。
「出てきたぞ!」「王都に帰れ!」「そうだ!︎︎王都に帰れ!」
︎︎そう声を上げる男達の手には鍬や斧など、農具が握られている。
︎︎盗賊などの類いではない。明らかに村民だ。
「我々は魔法省直轄の部隊です。村の調査に来ました。決して村の皆さんに危害を加えるような真似はいたしません。村長のもとへご案内いただけませんか」
「魔法省直轄……?」
︎︎分かりやすい肩書きにざわつく村民の中、声を上げる者がいた。
「嘘をつくな!」
︎︎カナンは上着をつまんでみせた。
「嘘ではありません。この制服も――」
︎︎しかし、カナンの言い分に彼らは耳を貸さない。
「その黒髪が何よりもの証拠だ!︎︎凡人が軍人になるなんて話、聞いたことがない!」
︎︎彼らも黒髪で凡人。そう、同じ真人種だから知っていることだ。
「そ、そうだ!」「その通りだ!」「この嘘つきめ!」
︎︎彼らはヒートアップしていく。
「それは――」
︎︎カナンの弁明を許す隙もなかった。
「それともわざわざ黒に染めたのか?」「きっと俺たち凡人を馬鹿にしているんだ!」
︎︎各々が手に持つ武器を構え、彼らは徹底抗戦を臨むようである。
「いや、そんなことは……」
︎︎じりじりとにじり寄る村民たちを前にどうしたものかとカナンは困っていた。
︎︎そのときだ。
「――騒がしいと思えば、君は何をやっているんだ」
︎︎背後の声に振り返るカナンは「フィリア」と声をかけた。
︎︎カナンの方へゆっくり歩いていくフィリア。
「説得しようとしていただけだ」
︎︎カナンのぶっきらぼうな返事にフィリアは溜息をついた。
「これは軍務である。そこを退け。抵抗すれば逆賊として貴様らを排除する」
︎︎声を張り上げたフィリアの警告に村民たちが動揺をみせた。
「排除って……」「そんな……」「どうする……?」「俺たち殺されるのか……?」
︎︎カナンの1歩前に立つフィリアの肩を引いた。
「おい。脅すようなこと言うなよ」
︎︎カナンの小声にフィリアは鼻を鳴らす。
「どうせ、本気でやり合おうとする輩はいない」
(そんな奴がいるなら今頃――)
︎︎フィリアの考えは変わらない。
︎︎この村は既に終わっている。それが結論だ。
「10秒だ。10秒だけ待ってやる。それ以上は待てない」
︎︎村民たちがざわつく。
︎︎フィリアの両肩を掴み、カナンは声を上げた。
「やめろ!︎︎そんな事を言えば……どうなるか……!」
︎︎フィリアは「そうだな」とニヤニヤ笑っている。
︎︎簡単に意志を切り替えることはできない。短時間の猶予は、ただ覚悟を迫るのみだ。
「こうなるだろうね」
︎︎村民たちへフィリアが目を向ければ、覚悟を決めた彼らが刃を2人に向けていた。
「――殲滅しろ」
︎︎フィリアは静かに命じた。
「…………」
︎︎しかし、カナンは沈黙している。
︎︎フィリアは溜息をついて、もう一度低い声で告げた。
「殲滅しろ」
︎︎眉間に皺を寄せ、カナンは短く「了解」と返し人差し指を向けた。
︎︎標的となったのは先手必勝と言わんばかりに駆ける一番槍の男。
「穿て――『ゼ・リエス』」
︎︎雷光一閃。
︎︎先頭の男の体を雷撃魔法が貫いた。
忙しいので不定期更新になります。
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