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剣に選ばれた少女 3

メインキャラです

 馬が若い男女2人の座る小さな客室を引っ張ってゆっくりと歩いていく。

 空はよく晴れ、柔らかな日差しが窓際で眠るカナンの黒髪をそっと撫でる。

 まるで母に抱かれているような暖かい、心地よい眠りは車輪が石を蹴った衝撃でかき消された。

 カナンは瞼を開くと共に鼻から一気に空気を吸った。

 鼻を突き抜け脳を揺らすような甘い匂いに咳をし、眉を寄せた。


「こんな所で吸うなよ、フィリア」


 向かいに座る白銀の少女は目の前に浮かぶ本から視線を離しカナンへ向けた。そして、桜色の薄い唇からキセルをその小さな手指で離し、文句を言う不届き者へ煙を吹きかけた。

 手で仰ぎながらカナンは「何すんだよ」と呟いた。


「この香りは心を落ち着かせる作用があるんだ。おかげでよく眠れたようじゃないか」

「そりゃどうも」

 これ以上言い合うのは面倒だ。そう思ったカナンはフィリアの言い分に折れて、窓の外を眺めることにした。

 平原がどこまでも続くようだ。幅の広い川に沿って馬車が走り続けている。

 フィリアによると今日中に目的の村に到着するという。

「のどかだ」

 ぼんやりと外を眺めるカナンが呟くと、フィリアは読書ながらに反応した。

「村が残っているといいが」

「怖いこと言うなよ」

 カナンはフィリアを少し睨んだ。

 しかし、フィリアは無視するように、目で文章をなぞり続けている。

「だが、衛兵と連絡がつかなくなってもう2週間だ。手遅れだよ」

「…………」

 カナンは無言のまま、また窓へと顔を向けた。

「勝手に期待するのは構わないが、落ち込んだりしないでくれよ。君はすぐに感情的になって、泣いたりするからね」

 フィリアの意地悪な警告にカナンはぶつぶつと不貞腐れたように声を出した。

「いいだろ、別に。感情がないような冷たい人間よりよっぽどマシだ。俺はそうはなりたくないね」

 フィリアはそれを否定することも賛同することもなく、ただ本を読み進めるのみであった。

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