剣に選ばれた少女 2
「きゃああああ!!!」
ヘレンは悲鳴に叩き起された。
あのまま眠ってしまっていたようだ。
さっきの声はきっと下にいるであろう祖母のものに違いない。直感がヘレンに嫌な予想を突き付ける。
「ねえ、聞いてた……?」
囁くようにか細い声で剣へ問いかけた。
――。
しかし、返ってくるのは静寂のみである。
頭には最悪の想像が浮かんできて、手が震えるにもかかわらず、足は自室の外へと向かおうとしている。
ヘレンは静かに剣を掴みゆっくりと鞘から引き抜くと、ドアを開いた。廊下の明かりはついているが不気味なほど静かだ。
夕飯の匂いが香った。シチューだろうか。
階段を降りると、木板が少し軋んで音を立てて、心臓が破れんばかりに鼓動を荒らげた。
広い玄関が見えてきて、ヘレンは息をのんだ。
ヴィナーニとファルアが倒れ、血溜まりをつくっていたのだ。
目が回りそうだ。
壁にもたれかかるようにうずくまり、吐き気を抑えた。口元に手をあてるが、その次には涙が溢れだしていた。
なにこれ。何が起きているの。
状況がヘレンには飲み込めなかった。
しかし、頭はよく回った。
祖母だ。祖母の姿が見えない。キッチンにいるのだろうか。生きているのだろうか。
それを確かめずにはいられなかった。
ゆっくりと立ち上がり、袖で顔を拭い、ふらふらと歩を進めた。
そして、出会ってしまった。
この一連の殺人の犯人に。
背の高い見知らぬ男。赤いバンダナで頭を縛り、薄汚い身なりをしたそれは、ナイフを胸に刺され、服を真っ赤に染め上げ力なく壁を背に座る祖母の前に立っていた。
男は短剣を力任せに胸から引き抜いて、ヘレンの方へゆっくりと振り返った。
「やあ。ヘレン」
頬に十字の傷跡を見せるその男はにっこりと微笑んだ。
湾曲した短剣の先からは赤黒い液体が滴り、床を叩いている。
アレでみんな殺されたの? なんでこの人は笑ってるの? 何で私の名前を知っているの?
ヘレンは短剣と男の顔を意味もなく何度も交互に見てしまう。
その時だった。
脳内でぐちゃぐちゃに感情が掻き乱される中、それは頭に響いた。
――剣を構えろ。
それはヘレンの頬を叩くようであった。
あの低い声がヘレンを支え、突き動かすのだった。
書き忘れてましたが、毎週水曜夜投稿です。