プロローグ
1127年3月、文部魔法省魔法史編纂室長マグラン・グラニエールは自身の著書にて勇者の再臨を予言した。
それは、瞬く間に国中へ広まり、勇者を自称する者が多数現れた。中には、勇者を擁立する村や組合まで現れ、国中は混乱を極めたが、魔法省はこれに対し、予言はマグラン個人の見解であるとして特別な対応はみせなかった。
しかし、勇者を自称する者による強盗や恐喝が散見され、警笛を鳴らすとともに翌月より事態の調査を開始した。
5月某日、記者会見が開かれ、就任以来初めて魔法省長官シーナ・シュリンベルグが姿を見せ、いくつかの記者の質問に答えた。
その美貌もさることながら、最年少で就任した話題性でシーナに熱心であった記者が大勢集まっていた。
記者の一人がマイクを片手に手を挙げた。
「彼らの中に本物はいるのでしょうか? もしいた場合は支援などされる予定はありますか?」
シーナは白く細い無骨な見た目の杖を喉元にあて魔法で拡声して返答を始めた。
「それは歴史が決めることです。ですから正式に魔法省が本物を決めることはありませんし、支援も考えてはいません」
誰もが知りたがっていたことを直球で投げたその質問に返ってきたのは当たり障りのない用意された台詞であった。
「それに、勇者とは人類のため、その身を捧げる存在ですから、真偽がどうであれ多くいるに越したことはないでしょう」
しかし、最後の一言で記者はざわつきを見せた。
勇者を軽視しているような発言であるからだ。
グラニエールの処分を訴えるような声に対しシーナは無反応を貫いていたが、「勇者解放宣言という記事を読みましたか?」という質問に対しては、「ええ。面白かったですよ。嫌いじゃありません」と反応を見せた。
「危険思想にも思えますが、如何お考えですか?」
「表現の自由の範疇だと思われます。物書きは読者を楽しませるためにあるのですから、頑張ってもらいたいたいものです」
シーナのその整った顔立ちとトゲのある発言のギャップで会見は異様な雰囲気を見せ幕を閉じた。