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勇者解放宣言

本編は次からです。よろしくお願いします。

「オレが勇者だ!」


 今日もどこかでそんなことを恥ずかしげもなく宣う輩が現れている。

 まるで産声のようなそれを聞いて、歓喜に打ち震え涙を流すようなカルト的信奉者が少なからず存在するのがこの国の現状であるが、懐疑的な目を向けたり、気分を害する者がほとんどであろう。

 4月の魔法省の調べによると国内のみで確認されているだけでも勇者を名乗る者が120名を超えるそうだ。

 勇者とはこの国を作った偉人である。

 それを自称することがなんと愚かな行為であろうか!

 もし彼らが赤子でないのであれば、今一度よく考えてほしいものである。

 さて、勇者という人物の存在性が、近頃の研究で揺らぎつつあることをご存じであろうか。

 ケネル建国だけでなく大戦の終結に大きな影響を与えたことで世界的にも有名な存在であるが、公的な文書には勇者に関する記述がまるでなく、『勇者』という言葉もこの国の生まれなら誰もが子供の頃読み聞かせられたであろう建国譚が初出だという。

 つまりは、信じがたいことに、勇者は物語上の登場人物でしかない空想の存在なのではないかという学説が提唱されているのだ。

 これだけ聞くと、その可能性が真実味を帯びて恐ろしく思われるかもしれないが、しかし、不思議なことに勇者という言葉や概念は、言語が変わってもどの国でもケネル建国譚の広まる前から存在し、我が国ケネルの権威を支えているのも事実なのである。

 勇者を否定することはこの国の歴史を否定することも同義である。


 だからであろう。


 信仰の自由化の波に抗い、かつて弾圧された勇者信仰の名残がいまだ色濃く残る魔法史編纂室長の座は当時の司祭の血縁者のみが座ることを許されている。

 この混沌とした事態を招いた現室長のマグラン・グラニエール氏はその椅子にしがみついている。

 こんなことは許されてはならない!

 今こそ我々国民が一丸となって偽りに満ちた偶像を打倒しようではないか!

 そもそも、勇者とは名乗るものではないだろう!

 種族や職業でもない。ましてや特性や才能を示すものでもない。

 本質は平和をもたらした英雄的偉業にあるはずだ。

 勇者だから何かを行うのではなく、偉業を成したから英雄――勇者と呼ばれるのだ。

 でなければ、全てが虚しいではないか。

 全ての努力は『勇者』によって否定され、全ての怠慢は『勇者』によって救われる。

 これではいずれ国が、世界が、歩むことを忘れてしまう!

 研鑽の先でいばらの道を切り開く世界であってほしいと私は切に願う。

 赤子が力を振るう世界は健全とは決して言えないのだ!

 彼らが勇者という神話の権威を御旗に掲げるのなら、私は世界平和へ導いた勇者への恩義を胸に戦って見せよう!


 これは、死してなお、利用されようとしている『勇者』を歴史から解放する戦いである!


(5月12日『太陽新聞』より抜粋)

ありがとうございました

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