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祓い屋  作者: チロ太郎
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未完成の蝶


 部屋の窓から差し込む朝日に顔を照らされアキは目を覚ます、布団から手を出し伸びをするがあまりの寒さに驚き頭まで隠れるほど深く布団を被る。


 あれから一か月程経ちアキは鬼束の家に引き取られる形で施設を出た。玉藻の目的やなぜアキが狙われたのかがわからない為しばらくは鬼束と一緒に暮らすことになった。


 初めて鬼束の家にきた時は、施設に住んでいる時にはなかった一人部屋や自分の部屋についているテレビなどに興奮していたが一つだけ嫌なことがありそれは……。


 「アキ!!おはよう起きて!」


 鬼束の家には様々な霊や式神も住んでいると言うことだ。


 「チビちゃん私の上に乗るのはやめてよ、痛いよ」


 アキの上で飛び跳ねる柴犬の子犬の様な姿をしている霊にアキが言う、すると子犬の霊はアキが被っている布団を引き剥がす。


 「あーもうチビちゃんの意地悪……」


 アキは渋々起き上がり下の階へと降りる、階段を一段下がるにつれ居間から騒がしく食事をする声が聞こえてくる。


 「おい!正道今日の仕事は楽勝だったな!」


 「おいキュータ!黙って飯食えよ口に入ってたやつが全部俺の皿の中に入ってんだよ!」


 鬼束の家は和風家屋の豪邸で鬼束一人では広すぎる為祓い屋達の事務所として兼用している、仕事終わりに食事する物もいれば部屋がいくつもある為住んでいる者もいる。


 朝からうるさいなぁ、アキは部屋に入らず入り口で隠れてながら見ていた、すると後ろから誰かに話しかけられる。


 「どうしたのアキちゃん入らないの?」


 急に話しかけられ驚いたアキだが声を聞いた途端すぐに誰かわかった。


 「あ!おはようございます藤原さん」


 藤原彰人(ふじわらあきと) この家で掃除や料理などの家事は全部この男が全てやっている。とても優しくかなり顔もいい、アキにとって騒がしいこの家での数少ない癒しの一つだ。


 「朝食は静かに食べたいなって思って……」


アキはうるさい部屋の中を見ながら言う。


 「あはは、確かにそうだねでも僕は騒がしいの好きだけどね、とりあえずアキちゃん顔洗っておいで可愛い顔がヨダレだらけで台無しだよ」


 アキはその時寝起きだったのを思い出しとても恥ずかしくなった、口元を隠す様に洗面台に行こうとすると藤原がアキを止める。


 「そういえばアキちゃん今日鬼束さん帰ってくるんだよね?」


 ゲッ!今日鬼束さん帰ってくるんだ……急な知らせでアキの顔は強張る。


 「あれ知らなかったの?なんか修行の成果を見せてもらうとか言ってたけど」


 「知らないです!嘘でしょ……」


 露骨に嫌な顔をするアキ、アキはもうヨダレだらけの顔などもうどうでもよかった。


 「あはは、そんな嫌な顔しないでよぉ、そうだ!今日の夜ご飯アキちゃんの好きな物にしよう!何がいい?」


 「肉じゃががいいです!」


 アキは嬉しそうに答える、藤原の作る料理はどれも美味しいがその中でも肉じゃがは絶品だ、これを食べればどんなに辛い修行でもすぐに元気になれるすでにアキは鬼束のことより肉じゃがのことを考えていた。


 「うんわかった、じゃあ洗濯物干したら買い物行ってくるから家空けてる間よろしくね」


 はい、と元気な返事をしてアキは顔を洗い座布団を持ち食事を出されているテーブルに着く、テーブルには正道とキュータのほかにもう一人いた。


 「盛満ピーマンあげる」


 海山盛満(うみやまもりみつ) 背は同年代の正道と比べかなり低く、しかもとても太っていて顔も体もまん丸だ。昔から無口な男で幼少期から一緒に居る正道でも盛満の声をあまり覚えていない。


 盛満はキュータからもらったピーマンをむしゃむしゃと食べている。


 「お前ピーマンぐらい自分で食べろよ栄養いっぱいあるんだぞ」


 「馬鹿かお前俺の体は栄養なんていらないんだよ俺はただうまいから飯食ってるだけ、なんでわざわざ苦いもん食わなきゃいけねーんだよ」


 はいはいと言いながら正道は自分の皿に入っている料理を食べる、その隣でアキが手を合わせいただきますと言い朝食を食べ始める。


 「おはようアキさん」


 「ようアキ!トマト食うか?」


 アキに気づいた二人がそれぞれ挨拶をする、盛満はただの白飯を丼一杯分ひたすら掻き込んでいる。


 「おはようキューちゃん正道さん」


 アキはこの家に住み始めてからキュータと仲良くなっていたが正道とはあまり喋る事はなかった、正道はもっと仲良くなりたいと思い敬語などをやめたがそこまで距離が縮まる事はなかった。


 「キューちゃん今日鬼束さん帰ってくるらしいよ知ってた?」


 「うん、知ってたよ」


 キュータは驚きもせず答える。


 「修行の成果を見るって言ってたけどなんなんだろうね」


 正道はアキに話しかけるがそうですねとだけアキは返す、アキの反応に正道は悲しそうにご飯を食べる。


 あーほんとに正道さんは面白い……とアキは思っていた、アキの反応は全てわざとで正道の悲しそうな顔を見る為だけにやっていた。


 本当はキューちゃんぐらい仲良くしたいけどあと二ヶ月ぐらいはこんな感じで行こうかな、キューちゃんと話した後に正道さんと話した時のあの悲しそうな顔だけで白飯三杯はいけそう。


 そんな事を考えていると鬼束が居間に入ってきた。


 「おぉー皆んな起きとるな早速だがアキちゃんの修行に付き合ってくれんかの?説明は後でする」


 皆んながはいと返事をし食事を終え各々着替えて外に集合した、家の外はかなり広く修行するにはちょうどいい広さになっており新人祓い屋の教育や正道達の修行場所となっている。


 広場では鬼束の前にさっき居間に居たメンバーに加え朝アキを起こしにきたチビもいる。


 「よしじゃあまずおさらいからじゃ、アキちゃん堕魂とは何かの?」


 「はい、人の魂を食べて魂の容量を増やし霊力を増強させた存在です」


 アキは自信満々に答えるこの家に来て一週間ほど霊力についてのことを藤原から教わっていた、悪霊のことや堕魂のこと、さらに祓い屋達の戦い方なども教わった。


 「よろしいでは私達祓い屋はどーやって霊達と戦う?」


 「はい、霊力を込めて身体能力の上昇または体の防御力をあげる方法、と式神を召喚し式神の能力を使い戦う方法、あとは霊力を体に流し特殊能力を発動させる方法です」


 またアキは自信満々に答えた。


 「よし座学は完璧じゃな、次は実技じゃアキちゃんこの前教えた事をやってみておくれ」


 「えー……今ですか?」


 アキは嫌そうな顔で周りを見る。


 「なんでじゃ?皆んなに見られるのが嫌なのか?」


 鬼束はアキにそう聞くとアキは頷く。


「なんで?アキの能力とても綺麗だから僕みたいよ!」


アキの足元で丸くなっていたチビがアキの顔を見ながら言う、すると正道やキュータも続いて見たことないから見たいと言い出す。


 アキは嫌がっても仕方がないと思い目を瞑り集中するするとアキの体の中の霊力が体の外に流れ出し大きな蝶の羽のような形になる、青白く大きな羽は今にも消えそうにゆらゆら揺れている。


 「おぉまるで幼稚園児のお遊戯会の衣装だな」


キュータが馬鹿にした様に言うとアキはキュータを睨む。


 その横で正道はアキを見て驚いていた。


 そんな馬鹿な信じられない、初めて見たけどここまでなんて……正道は被っていた帽子のつばをあげよく見ている。


 「うん。まだ未熟じゃが十分、おそらくじゃがアキの能力は自信の霊力の譲渡、なぜ今まで覚醒してなかったのかわからんがアキ自身の霊力はたぶんじゃがワシ以上じゃ、だから霊力切れの心配はそこまでしなくてもいいただ問題はアキだけだと戦闘ができんと言うことだそこで……」


 そう言うと鬼束はチビを指差す。


 「チビの出番じゃな、アキの霊力をもらい代わりに戦うと言う戦法じゃ、もっと修行すれば式神も召喚できる様になるかもな」


 鬼束が話終わるのと同時にキュータが無理だなと首を振る。


 「アキがすごいのはわかった、だがその犬はただの霊獣だそこまで戦力になるとは思えない」


 キュータの質問に鬼束がニヤリと笑いながら試してみるかと言う。


 「今日はアキちゃんの事とキュータお前の力も試したかった長年封印されちょったからどこまで動けるようになったか見たいんじゃ」


 そして、正道とキュータ、アキとチビの二人組は少し離れた場所に別れる、キュータは離れた場所にいるアキとチビを見ながら準備運動をしている。


 「それでは両者見合ってー始め!!」


 鬼束の合図と同時に正道はキュータの封印を解く。


 「いけぇガンテツザル君に決めた!」


 正道は被っていた帽子を後ろに被り何かを投げる動作をする、それを何やってんだとキュータが横を通る。


 キュータは封印を解かれあの時の猿の様な見た目になっている。


 「よし行こうチビちゃん」


 アキは自身の霊力をチビに流すするとチビの体はどんどんでかくなり白い大きな狼の様な体になる。


 「はぁ?ふざけんなこいつただの霊獣じゃないのかよ!」


 キュータが鬼束に怒鳴る。


 「これもおそらくアキちゃんの能力じゃ、筋力や俊敏性を強化する事もできるらしい油断しとるとやられるぞキュータ」


 上等と言いながらキュータは拳を構える、チビは大きくなった自分の姿にかなり興奮している。


 「ねぇ!アキすごいよ僕めちゃくちゃ強そうになってるよ!」


 「ごめんチビちゃん集中してるから話しかけないで!準備いい?行くよ!」


 チビはかなりの速度でキュータに突進する、キュータは受け止めるがチビの方が力が強く押されている。


 キュータはチビの力を利用して後ろにいなす、チビの後ろをとったキュータは地面に霊力を流す、すると地面から岩の柱が出現しチビを拘束する、しかしチビはそれを簡単に破壊する。


 まじか……あまりの強さにキュータは驚く、追撃しようとキュータは地面に手をつくがアキが邪魔をする。


 【霊虫 鱗翅群(りんしぐん)


 大量の蝶や蛾がキュータの視界を遮る。


 「鬱陶しいわ!」


 キュータは体の周りに霊力で生成した石を飛ばし邪魔な虫を全て消す。


 その一瞬の隙をつきチビは前足を振り上げ攻撃する。


 攻撃を受け傷ついた自分の胸を見てキュータの目の色が変わる、キュータは地面に手をつき霊力を流す、すると地面が割れ、割れた地面が凄まじい速さでチビの足元まで伸びる。


 チビは避けたが、地割れはまだ止まらずまだ割れ続ける。


 「狙ってるのはお前じゃねーよ」


 地割れは真っ直ぐアキに伸びておりチビは慌ててアキを助けに行く、落ちる寸前に助けることができたがキュータから目を離した先に距離を詰められていた。


 【猿武 岩砕拳】


 大岩すら砕く一撃でキュータはひたすら殴り続ける、

目の前でチビが殴られアキは慌てて援護する。


 【霊虫 堅虫壁(けんちゅうへき)


 無数の昆虫がチビを覆いキュータの攻撃から守る、がアキの守りが無くなった為キュータに捕まってしまう。


 「よし俺の勝ち」


 キュータはそう言いながらアキに軽くデコピンする。


 「そこまでじゃ!」


鬼束の声が広場に響く、キュータは人形の姿に戻りアキの羽も消えたそれと同時にチビの体も元に戻りアキは疲れたのかその場に座り込む。


 「あれおかしいな……」


 キュータは自分の体を見て不思議がっている。


 「今のお前は自分の霊力を使用して封印を解除しておるからのう霊力を使用しすぎるとその分猿王の姿でおれる時間が短くなる」


 鬼束はキュータにそう説明しどんな感じだったか聞く。


 「とりあえず昔の7割ぐらいの力は出せる様になってきたなアキとチビも相当強かったぞ」


 さっきの戦闘が楽しかったのか嬉しそうにキュータが言う。


 うんうんと頷きながら鬼束は腕を組んで正道の後ろに立っている、正道は予想以上の戦闘だったのかまだぼーっと立っている。


 「どうじゃ正道ちゃんアキちゃんの成長は」


 「正直びっくりしてます俺の先祖が苦戦してたキュータに猿武まで使わせるなんて……あと猿武を初めて見ましたがすごいですね俺でも全て受け切れるかわからないです」


 そうかそうかと嬉しそうに言う鬼束。


 「頼もしい仲間というのはとても大切じゃ、いつも一人で戦っていた正道ちゃんには仲間という存在はまだ慣れんかもしれんがこれからどんどん一緒に仕事して共に強くなってほしいとワシは思っとる今の正道ちゃんがもっと強くなるにはライバルが必要だからな」


 「それとアキさんの成長スピードも異常ですね普通なら一ヶ月でようやく霊力を感じられる様になるのに……」


 「それもアキちゃんが玉藻に狙われた理由かもな……そうじゃ忘れてた正道ちゃん達にお願いしたい仕事があってな」


 そう言うと鬼束は皆んなを集める。


 「今ここにいるメンバーである仕事を受けてもらう」


 「仕事?内容は」


 鬼束の話を最後まで聞かずキュータが話を遮る、通常祓い屋の仕事は一人で行く様になっている為ここまで大人数で行くことに疑問を持っていた。


 「ある村で住人が全て消えると言う事件があったらしいんじゃ、現場のお巡りさんが言うには急に消えたかの様にほぼ全ての家が電気を点けたままで、食べかけの料理が残っていたらしい。この報告を受けた政府は、雇っている霊能力者に調査させたが誰も帰ってこんのでワシに依頼が来たというわけだ」


 「鬼束さんに直接依頼するってかなりやばいんじゃないんですか?」


 不安そうな顔をして正道が言う、今までこんなことなかった為正道だけではなくキュータと盛満も不安そうな顔をしている。


 「かもしれんのう……だが今の正道ちゃん達じゃったらきっと大丈夫じゃこれも修行と思って行ってくれぬかワシはちょっと別件で忙しい」


 「わかりましたメンバーはここにいる全員ですか?」


 「そうじゃ、正道ちゃんを中心に盛満ちゃん、キュータ、アキちゃん、チビちゃんこの5人で行って欲しいのう」


 「僕も行っていいの?やった皆んなで行くの楽しみだ!」


 嬉しそうに尻尾を振りながら言うチビの横で大丈夫かよとキュータは正道に愚痴る、正道も不安だったが修行のためだとキュータを納得させる。


 正道やキュータの反応を見てこの仕事は簡単なものではないとアキは薄々勘付いていた、それよりまだ話したこともない盛満と一緒に仕事をするのが何よりも不安だった。


 あーあ思ったより簡単に仕事終わらないかなー。


 そんなことを思っているアキだった。



ご愛読ありがとうございます!

もし感想などありましたらお聞かせくださいよろしくお願いします!

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