神に成った人
正道の到着に安心したのかキュータは投げ飛ばされた時に着いた体の土を払いながら状況の説明をする。
「何も知らずにぶった斬ったのか流石だな、田中は堕魂になってた、斬って正解だったな」
田中は魂離りの扉から出てきており斬られている腕を必死にくっつけようとしている、扉はいつの間にか閉じていた。
「堕魂ってもしかして田中さん……」
「ああ、人の魂を食ったんだろうバカなやつだもう輪廻から外れてしまったな」
田中は腕をつけるのを諦めたのか斬られた腕を食い始めた、正道は抱えているアキをそっと下ろす、アキは気絶しておりキュータがアキの顔を覗き込みながら言う。
「可哀想に気絶しているな……俺が力不足だったばかりに申し訳ない」
「お前は封印されてるんだからよくやった方だよ、大丈夫今からこの子には指一本触れさせないから」
そう言うと正道は地面に刺していた刀を引き抜くその刀の刀身は正道の身の丈ほどありその分刀の柄は長くなっている刀というより大太刀に近い形状になっている。
「キュータ、札ってあと何枚残ってる?」
「4枚だな……一応渡しとく足りるか?」
「余裕」
田中は自分の腕を食べ終わり正道に警戒しているのか正道を見ているだけでじっと動かない、正道は片手で大太刀の剣先をを持ち上げ田中に向ける。
「田中さん……堕魂になってしまったらもう助けれませんせめて誰も傷つけずに消滅してください」
大太刀を肩に担ぎ正道は戦闘体制を取る、正道を見ていた田中は身の危険を察知したのかいきなり正道に飛びついた、正道は肩を支点にし、てこの原理で大太刀を振り上げそのまま叩きつけた、田中は正道の攻撃を避けたが避けた先に正道はまわり込み田中の顔を殴る。
少し怯んだ田中に正道は大太刀の柄頭で腹をつく、完璧に入ったと思ったが腕で塞がれ頭突きをくらう、そして田中は大きく振りかぶり正道を殴る、正道は腕で受け止める。さらに田中は前蹴りをする、正道は刀で防御したが勢いで後ろに下がる。
雄叫びを上げながら正道に突進してくる田中、正道は腰についている巻物を取り広げる。
《霊縛呪 怨鎖》
巻物から沢山の鎖が出現し田中を拘束する、体に絡みつく鎖を田中はなんとか千切ろうとするが千切るのに時間がかかり拘束が解けた頃、手に霊力を込めた正道が全力で田中を殴り飛ばす。
大きな音を立てながら田中は吹き飛んでいく、大木に当たり田中は止まることができたが少し硬直している隙に正道は大太刀を遠心力を利用し周りの木を切り倒しながら田中に斬りかかる。
「久々正道の本気を見たがやっぱり速いな」
正道と田中の戦いを見ながらキュータが言う、2人の戦闘はとても速くキュータでも目で追うのがやっとだ。
正道の大太刀による蓮撃に避けきれなかった田中は素手で受けようとする。
無理だ受けきれる訳がない、とキュータは勝利を確信した、今正道が使用している武器、殺生刀 断切は霊力を断切に流すことで切れ味を上昇させると言う性質を持っている、戦闘が始まってから正道は絶えず霊力を流している為切れ味は相当なものになってるはずだ。
しかし、田中はそのまま素手で受けたが田中の手が切れることはなかった。
田中はそのまま断切を掴み正道ごと上空に投げ飛ばす。
「霊力を集中させて体の防御力を上げたか……さっきまでただの地縛霊だったのが信じられんとんでもない成長速度だ」
キュータが唇を噛みながら言う。
空中に放り投げられ無防備になった正道に田中は追撃しようとする。
正道は腰についている小さな鞄からビー玉のようなものを三つ取り出し霊力を流して田中に投げつける。
《火炎炸裂玉 雀蜂》
三つのビー玉は田中の顔の前で炸裂し中から雀蜂のような形をした火の玉が田中の体を攻撃する。
その隙に正道はビー玉が入っていた鞄から一つの札を取り出し破る。
するとその札は大量の煙を出しながら燃え、煙が正道の手に集まり中から武器が出てきた。
【駆動戦斧 N.O.S】
煙の中から出てきたのはとても大きな両手斧で斧頭や柄の部分にガス管や油圧ホースなどが付いており機械的な見た目をしている。
正道は空中で体制を立て直しN.O.Sを振り上げるその下では雀蜂を全て消した田中が正道を見てニヤリと笑いまた腕で受けようとする。
「一回受け止められたのにおんなじような攻撃しないっすよ田中さん!」
そう言うとN.O.Sが変形しだし斧頭に圧縮ガスを噴射するための噴射口がいくつか出現し激しい音と共に圧縮ガスを吐き出す。
どんどん加速しながら落下する正道。
田中が素手では受けきれないことに気づいた時にはもう遅くそのまま田中の腕は正道に叩き潰されてしまう。
「マジっすかこれだけやって腕すら切れないなんて」
地形が変わるほどの攻撃をくらい田中の腕はただくっついているだけで骨は砕けもう自力では動かせなくなっている状態だ、それでもまだ田中は立ち上がり使い物にならない腕を食いちぎる。
両手を失いこのままでは勝てないと思ったのか田中は正道とは逆の方向に逃げ出した。
「逃がさないっすよ」
そう言うと正道は鞄からまた札を取り出し破る。
【雷竜槍 龍神】
煙から出た槍はバチバチと音が鳴り槍の周りには稲妻が走る。
「そんなに霊力垂れ流して逃げてたら探さなくても見つかっちゃいますよ田中さん」
正道は田中が逃げた方向に槍を構えると空に向かって投げる。
雷の音を轟かせ龍神は雲を裂く。
「落ちろ」
正道の声と同時に雷がある場所に落ちた。
「キュータ!田中さん捕まえた!ちょっと話聞いてくるからちょっと待ってろよー」
大声でキュータにそう言うと正道は雷が落ちた場所に向かう。
そこには田中が腹を槍に貫かれ地面に刺さっていた、田中はなんとか逃げようとしていたが槍には返しがついており逃げることができなかった。
「田中さんどうして堕魂なんかに……」
「うるさい!あいつのせいだ!あの女のせいで私は娘と離れなければいけなかったんだ!そのせいで私は自分の娘も……」
堕魂になった霊とは意思疎通はできないが一つ気になることがありダメもとで聞いてみる。
「田中さん誰があなたをこんな目に?あなたは地縛霊であそこから動けないはずでしょ?あんなとこに人間なんて来ないし、しかもただの堕魂の強さじゃなかった……何があったんです?」
正道が聞くが田中は唸り声をあげたりあいつのせいで!などとしか話さない。
やっぱりダメかと思い田中の頭を破壊し消滅させようとすると後から聞いたことがない声がした。
「私だよ」
不気味な霊力に正道は振り返りながら戦闘体制を取る。
「私の霊力を分けたんだけどね、まさか人間の女一人生捕りすらできないとは誤算だったよ、まぁ賀茂の子孫が相手じゃ分が悪いか」
そう言うとその女は田中の顔に手をかざす。
「私の霊力返してもらうよ」
すると田中の体は縮んでいき全てを吸い取られたかのように干からびて消滅してしまった。
「あなた妖狐かなんかですか?田中さんに何をしたんです?」
その女には狐の耳があり尻尾が生えている、正道は地面に刺さる龍神を手に取り構える。
「ただの妖狐と一緒にしないでくれる?あとこいつの事は知らない私はただ力を貸しただけ、堕魂の事なら君の方がよく知ってるでしょ」
そう言うと女は田中さんのメガネを踏み潰す。
「誰だか知りませんが何が目的なんです」
「どうでもいいでしょだって君もう死ぬし」
不気味な霊力と殺気を向けられ正道はとっさに女の首を目掛けて攻撃するが空振る。正道は女を見失うがすぐに後ろにいることがわかった。
「へぇー龍神の霊力を宿した武器かーやっぱり人間は面白いことを考えるね、でもただの人間じゃ使いこなせないでしょ」
「わざわざ後ろに回って煽ってるつもりかもしれませんけど、ただ殺すチャンスを無駄にしただけですよこんなチャンスもう来ないかもしれないのに」
そう言うと正道はさっきの戦闘の何倍もの速さで間合いを取る、正道の体は帯電しており周りに小さな稲妻が走っている。
「へぇーただの捕縛用の武器じゃなかったんだちょっとは楽しめそうだね」
そう言うと女はニヤリと笑った。
「おい起きろアキ大丈夫か?」
キュータがアキの顔を叩きながら確認する。
「うんだいぶ気分良くなってきた」
「よし、じゃあとりあえず車に戻るか田中の野郎は正道がなんとかできたみたいだし」
寝起きでフラフラなアキの手を取り森を歩こうとすると目の前に女がいた、その不気味な霊力にキュータは焦る。
「アキ!早く逃げろ走れ!」
え?と困惑するアキ。
「うるさいなぁ雑魚は黙っててよ」
女はキュータの腹を蹴る。
「ガハッ」
キュータは後ろに吹っ飛びうめき声をあげている。
「加護秋さんだよね私ずっと待ってたんだよさぁ一緒に行こう!」
女はアキに手を伸ばすアキは恐怖で動けない、女の手がアキの手に触れる寸前に後ろの草むらから正道が飛び出し女に飛び蹴りをする。
「正道さん!?どうしたんですかその腕」
正道は頭から出血しており顔中が血だらけになっている、しかも体中に切創があり左腕が切断されていた。
「この傷は一応大丈夫です、とりあえずここから逃げないとキュータは?」
アキは震えながら倒れているキュータを指差す。
「キュータ!そんな……」
「正道君だっけ?君すごいよ歴代でもトップクラスに強いんじゃない?でもただの人間が私にかなうわけないでしょ」
蹴られた衝撃で倒れた女が立ち上がり服についた汚れを払い落とす。
「やっぱり君は今殺しとかないといけないね」
正道は呼吸が荒くなり立つのがやっとだが握り拳を構える、しかし女の攻撃に反応できず腕を掴まれそのまま握りつぶされてしまう。
骨が潰れる音と正道の叫びが静かな森の中に響く、正道は気を失ってしまいその恐ろしい光景にアキはただ震えるしかなかった。
「面白かったよ正道君じゃあさよなら」
女は気を失った正道の頭を持ち上げ握りつぶそうするが人の気配を感じ手が止まる。
「うっそまだ生きてたのかよあのババァ」
女の目線の先には倒れているキュータと、その隣にキュータに手をかざす老婆がいた、かざしていた手を退けるとキュータが何事もなかったかのように立ち上がる。
「うわっ!鬼束のババァじゃねーか!なんでここに」
キュータはその老婆の顔を見るなり大声で言う。
「こら!誰がババァじゃこの失礼なやつめ」
老婆はキュータにゲンコツをくらわせ女のことを見ながら喋り出す。
「懐かしい霊力を感じたからの〜仕事抜けて駆けつけてきたわい、正道ちゃんは?」
「おいクソババァ何百年ぶりだ?まだ死んでなかったんだな。」
「それはこっちのセリフじゃな玉藻よお主封印されたんじゃないのかい?まぁいいとりあえずその子を離してくれんか?」
鬼束が話終わるのと同時に玉藻は正道の心臓を手で貫こうとするが玉藻が反応できない速度で鬼束が正道を奪い返していた。
「チッ……この化け物が」
「女性を褒める時は綺麗だとか美しいとかを言った方がいいぞ玉藻よ」
鬼束は玉藻に冗談混じりで話す。
「あぁこれはひどい正道ちゃん腕が無くなっとるではないか……」
すると鬼束は印を結び式神を召喚する
鬼束が召喚した式神は砂時計のようなものを持っている。式神は正道の近くまでいき正道の周りに結界を張る、そして正道に触れ持っている砂時計をひっくり返すするとなくなっていた正道の腕が戻っていき体中の傷も治っていく。
「どうするんじゃ玉藻2対1だかまだやるのかね?」
「自惚れるなババァ貴様がどれだけ強かろうが勝てん事はない、しかもお荷物を抱えて私に勝てるのか?」
玉藻は正道を指差し笑いながら言う。
「じゃあもう一人増やそうかね」
そう言うと鬼束は何か呪文を唱え出す。
「猿王 大聖よ封印から解き放たれ我に力を貸したまえ」
鬼束がそう唱えるとキュータの体が発光しだす、体にヒビが入り中から男が出てきた背は高く薄い手のひらに細長く綺麗な指、腰からは長い尻尾が生えており、服の隙間から赤黒い毛が全体的に生えているのが見える。
「おい鬼束これはどう言うことだ」
自分の手を見ながら困惑した表情でキュータは呟く。
「お前の封印を解いた、あの姿ではろくに戦えんじゃろさっさと手伝わんかこの猿!」
封印から解かれたキュータを見て玉藻が大声で笑い出す。
「あっははっは!血迷ったかクソババァそいつは元々私達に仕えていたやつだお前らの味方などするか」
笑っていた玉藻だがキュータに殴られ後ずさる。
「俺は封印された時昔の記憶は無くなった、俺が昔何をやったのか、そんなこと正道と一緒にいたら何も気にならなかった、みんなが俺を避ける中あいつだけはただの友達として接してくれた。昔の俺があんたに仕えて何してたかわからないが今の俺の相棒は正道だ、とりあえず俺の相棒をあんな目にあわしたお前を俺は許さない」
「まぁいいそんな雑魚こっちに着こうが向こうに着こうが関係ないだが……」
体の回復が終わり正道が戻ってくる、玉藻は宙に浮きながら何か術を唱えるすると空に魂離りの扉が開く。
「伝説の悪ガキに賀茂の子孫さらに神に成った人間の相手は簡単ではない、あの方の復活の前に私が居なくなっては計画が台無しだからな。また会おう人間ども」
そう言うと玉藻は魂離りの扉の中に消えていく。
「できればもう会いたくないんじゃがなぁ……あっ!!あの子のこと聞くの忘れちょったわ!」
鬼束は額に手を当て、しまったぁと悔しがる。
「鬼束さん……さっきの奴って何者なんですか」
あぁと鬼束は正道の方に振り向き切れていた腕を触る。
「ちょっと話が長くなりそうじゃから事務所に戻るか、よし正道ちゃん切れてた腕もしっかり戻っとるな!よかったよかった」
そう言うと鬼束はアキの方に向かいアキの肩に手を置き大丈夫かと言葉をかける。
「今日は色々あって大変じゃったなもう大丈夫じゃ安心せぇ……しかしなぜ玉藻はお主を狙ったのじゃろうな聞き忘れてしまったわい」
そう言いながら鬼束は笑いながらアキの肩を強く何回も叩くその後ろで、正道はその場に座り込み人形の姿に戻ったキュータが正道に飛びつく。
正直今回は危なかったな、顔にしがみつくキュータを剥がしながら正道は思っていた。
ただの地縛霊を成仏させるだけだと思ってたのにまさかの堕魂と馬鹿みたいに強い玉藻の連戦になるなんて思っても見なかったな今日はほんとに疲れたまじで……
「死ななくてよかったー!」
正道が大声で叫ぶそして正道達は車に乗り込み事務所に戻る、車内はさっきまでの激闘は嘘かのように正道以外は爆睡しており鬼束は大きないびきをかきながら寝ている、大きすぎるいびきで車が壊れないか正道は不安だった。
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