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祓い屋  作者: チロ太郎
1/7

覚醒

 

「はあぁぁぁぁぁぁ」


 自分でもびっくりするぐらい大きなため息が出た。


 コンビニの夜勤は客が全く来ないからつい考え事をしてしまう、店内に客がいないことを確認し崩れた制服を整える。


 私はいわゆる孤児というやつだ、14年前事故で両親が死んだらしい、その場に私もいたはずなのにその時の記憶は全くない気づいたら施設に引き取られていた、それから14年間ずっと施設にいる。


 そして私は18歳になり、もうすぐ施設を退所しないといけない、なんとなく施設の職員として働けたりしないかなって思ってたりしたけどやっぱり施設を出てほしいって今日の朝言われた。


 あー退所した後どうしよう、住む所もまだ決まってないしお金もそんなに貯めれてないしな……


 また大きなため息が出そうでぐっと我慢する、そんなことを考えていると小さな子供がレジの前を通るのが見えた。


 え!?子供?いやいや今深夜だよ?ただの見間違いだよね?


 眠い目を擦りもう一度確認する、やっぱりいる、髪が長い大きな目の可愛い女の子、流石に親もいるだろうと思い店内を見渡すと駄菓子コーナーのところで何を買おうか悩んでいる人がいた。


 親ってあんな感じで深夜に子供を連れ回したりするのかな?いやいや絶対おかしいよねしかもめちゃくちゃ目離してるし。あれ?でもおかしい、お客さんが入店した時は音楽がなるはずなんだけど気が付かなかっただけかな。


 別にやることもないしなんとなくその親子を観察していたらその小さい子供が棚にあるお菓子を手に取り店を出ようとした。


 「ちょっとお嬢ちゃんそれはお店の商品だからお金を払わないといけないよ〜」


 いきなりのことで驚いたができるだけ優しく注意してあげた、するとその子はかなりびっくりしたのか私の顔を何も言わずじっと見てきた。私はだんだんその子の親に腹が立ってきた、あのお菓子をとった感じと注意された時の反応を見るに多分いつもおんなじようなことをしていたのだと思う。


 いやなんで私が言わないといけないのこれは親の仕事じゃないの?なんで親がやっちゃ駄目なことを教えてあげないの!


 お嬢ちゃんは長い間私の顔を見た後親の方に走って行って何かを耳打ちしていた。


 「えぇ!?」


 お父さんの驚いた声が店内に響く。いや、え!じゃないよちゃんと子供見てないと!頭の中でいろいろな文句が出てくる、その親子は見合ったまま固まっていたけど少ししてから私の方に歩いてきた。


 何か文句を言われるのかと身構えたが私は何も悪いことはしてない、文句を言われる筋合いはないし、親の方にもちゃんと注意しようと頭の中に出てきた文句を整理させる。私の目の前にあの親子がやってきた、さぁなんて言ってくる?どんな文句を言われても言い返す準備はできたなんでも言ってこい!


 店の奥で何を買うか悩んでいた時はよく顔が見えなかったが近くに来ると思っていたより若く見えた、男の口が開く


 「店員さんもしかしてこいつのこと見えるんですか……?」


 はぁ?どういうこと?


「ちょっと変なこと言って誤魔化さないでくださいどんなに小さな子でも万引きは犯罪です、こういうことは親がちゃんと教えてあげないといけないんじゃないですか?」


「あーすいません、いつも言ってるんですけどこいつ頭空っぽなんで」


 親とは思えない言葉につい我慢できなくなる


「なんてこと言うんですか!このぐらいの小さな子はなんでも純粋に聞いてしまうんです!あなたは冗談のつもりで言っただけかもしれませんがその一言で十分に傷ついてしまうかもしれないんですよ!それにあなたがそんな感じでこの子のせいにしてちゃんと注意しないからこんなことしてしまうんじゃないんですか?」

 

怒りで声が大きくなる。わずかに残る優しかった父親の記憶が蘇り目が潤んできた。


 「おい姉ちゃん、さっきから嬢ちゃん嬢ちゃんって言ってるけど俺は男だそれに俺はお前より年上だぞ」


「あぁごめんね、お嬢ちゃんじゃなくて男の子だったんだね、それにトシウエなんだ……ん?」


 ん?トシウエ?トシウエって年上?


 目の前で年上だと言っている小さい子を見ながら固まってしまう、その声はとても低く、喋り方には幼さを全く感じない。出かかった涙はすぐに引っ込んだ。


 年上ってあの年上だよね、年が上なんだよね、私より年が上なんだよねこの子がそうなんだよね、あれ年上ってなんだったっけ?


 明らかに混乱している私を見て男がめんどくさそうに口を開いた。


「あぁぁっもうお前は黙ってろ!話がややこしくなるだけだから!とにかく店員さんちょっとお聞きしたいことがあるのでこの後少しお話させていただけませんか?」


 トシウエトラップにかかっている私は頷くことしかできなかった。


 「ありがとうございます!ではこのコンビニの前の邪魔にならないところでお待ちしてます!」


 そう言うと男は会計を済まし店の外へ出ていった、私はしばらくぼーっとしていたがその後お客さんが来なかったので冷静に考えることができある答えに辿り着いた。


 これナンパされてない?


 いや絶対そうだよ!だってあんな大人みたいな声の子供なんて存在しないし多分子供に口パクしてもらって後ろで腹話術みたいなことしてたんだよ!絶対そう!だってあんな子供いるはずないし、それでこの後電話番号とか聞かれるんでしょ危なかったもう少しでついていきそうだった。


 なんだそんなことかと思うとなんか気持ちが楽になった、2時間ほど経ち日が昇り初めた。バイトが終わり仕事内容の引き継ぎを終わらせ店を出るとちゃんと邪魔にならないところで待っていた、迷っていた駄菓子は結局二つとも買って2人で仲良く肩車しながら座って食べている。


 私は2人に近づき言った。


 「あのこれってナンパですよね?なんか珍しいやり方だったのでびっくりしましたがそう言う事なら私帰ります」


 2人は何も言わずに駄菓子を食べながら私を見ていたが一瞬間が空いた後小さい子が吹き出した。


 「ぶわっははは!!おい姉ちゃんそれはちょっと自意識過剰だな!確かに顔もなかなかいいし胸も大きいが姉ちゃんが可愛いから話しかけたんじゃない、それにこいつには女の子をナンパする度胸はない!!」


 「うるせぇな食いながら喋んな!全部俺の頭にこぼしてんだよ!あと余計なこと言うな!」


 やっぱり子供とは思えない声で笑う子供の口からボロボロこぼれる駄菓子のカスを払いながら男が言う


 「やっぱり急にこんなこと言われて怖かったですよね?すいません全然ナンパとかじゃないんで安心してください本当に聞きたいことがあるだけなんです」


 「聞きたいことって?その子供は?あなた一体どこの誰なんですか?」


 「そこら辺の説明もしたいので近くのファミレスでも行きませんか?少し長くなるかもしれないですし、すぐそこに24時間営業している所があるんで」


 「わかりましたとりあえず話聞くだけですよ」


 あの子供のことも気になるし帰っても暇だから話だけ聞くことにした。しばらく一緒に歩きながら男を観察する、高身長で顔はなかなか良い、大人しそうなイケメンだ、本当に私があの小さい子を見ることができたことだけに興味があるのか何も聞いて来ずただ黙って私の前を歩いている。


「あの、これってなんかのスカウトとかですか?もしかして夜のお仕事?コンビニの夜勤より儲かるよーとか言ってスカウトするんでしょ!」


 そう言いながら腕を胸の前で重ねて隠すような仕草をする。すると少し前をずっと黙って歩いていた2人がちらっと私を見てヒソヒソと喋り出した


 「おい正道、あの女大丈夫か?自分に自信持ちすぎだろ、やれナンパだのスカウトだの」


 「大丈夫か?ってどういうことだよ、久々に男に喋りかけられたからただはしゃいでるんじゃない?」


 あの聞こえてますが?


 黙って歩いてるのが気まずくなって冗談言った自分が馬鹿らしくなりすごく恥ずかしくなった。


 長い沈黙の中少し歩き目的のファミレスに着いた、店に入り店員に席まで案内され席に着く、店には夜勤終わりなのか作業服を着たおじさんがいた、運ばれた料理を一口だけ食べてスマホを見ている。店員さんが水を持ってきてくれたが当たり前のように私と男の前にしか水を置かなかった。


 「申し遅れました私はこう言う者なんですけど」


 そう言いながら男は名刺を出してきた、名刺には「祓い屋   賀茂宮正道」と書かれていた。


 「祓い屋?」


 そう聞き返すと軽く頷きながら男は話を続ける。


 「はい、いろいろ悪さする幽霊を祓ったりとか幽霊に取り憑かれた人を除霊したりする仕事ですね、それであいつは……」


 そう言いながらそっと作業服を着ているおじさんを指さす、そこにはさっきまで前に座っていたはずのあの子供が作業服を着たおじさんの食べかけの料理にどこから持ってきたのか塩やら胡椒やら大量に掛けている。


 「あれ、おじさんには見えてないんですか?」


 「はい、あいつは俺が小さい頃からあの姿なんで詳しくはわからないんですけど、昔は有名な悪霊だったらしくて悪いことしすぎて人形に封印されたんです。その時人形ごと霊子化したんで普通の人間には見ることができません。ちなみに霊子ていうのは幽霊とかの体を形成する物で霊力がなかったら見ることができません。」


 「霊力って霊感みたいなことですか?」


 「あーざっくり言うとそんな感じです」


 「じゃああの子は幽霊……」

 

 「まぁ少し違うんですけどそーなりますね、ちなみに名前はキュータって言います、球体関節人形に封印されたんでキュータ……安直っすよね」


 正直まだ信じられなかった。小さい頃から霊感なんて全然なかったし幽霊なんて見たことなかった、怖い話なんてのはただの作り話と思ってたのに幽霊はほんとにいて今おじさんのハンバーグを胡椒で真っ黒にしている。


 「じゃあ幽霊って全員あんな感じで可愛いんですか?」


 「いやあいつは特別で実際はもっと怖いですよ普通に殺そうとしてきますし」


 なんだあの子が特別可愛いだけか、みんなあんな可愛い幽霊なら見てみたいとか思ったりしたけど、怖い幽霊しかも殺そうとしてくるやつを祓ったりするなんて私なら絶対嫌だな。


 「かもぐう しょうどうさんか……」


 「かもみや まさみちです。なんでわざと違う読み方するんですかちゃんとふりがな書いてあるでしょ。漢字習ったばかりの小学生か!……違うか……あははは……」


 もらった名刺を見ながら雑にボケてみた、なんかちょっとツッコまれた気がしたが無視してキュータ君を観察していた、するともう飽きたのかこっちに戻ってきて私に話しかけてきた。


 「はっくしょい!あーおっさんの胃袋をぼろぼろにするのは楽しいな。そーいや気になってたが姉ちゃん名前は?年はいくつだ?」


 「加護 秋です。年は18です」


 言い終わるのと同時に正道さんが飲んでた水を吹き出した。


 「じゅ……18!?まだ高校生じゃないっすか学校とか大丈夫なんすか?」


 「大丈夫です学校とか行ってないんで」


 一瞬店内が静かになり気まずい空気が流れる。この空気感が大好きな私はあんなに楽しそうにしてたキュータ君の表情が少し曇るのをみて少し楽しくなってしまった。


 「何か訳ありか?霊力の覚醒は大体身近な人の死とかだが最近何かあったのか?言いたくなければ無視しても構わない」


 「別に最近じゃないけど小さい頃両親が事故で亡くなったらしくて」


 さらに空気が悪くなる。


 「らしくて……っすか」


 「はい。覚えてないんです両親のことあんまり……それからずっと施設で育てられて高校行くよりバイトしてお金稼いだ方がいいかなって思ってバイトしてます」


 空気を変えようとキュータ君がひきつった笑顔で話題を変えてきた。


 「なるほどな、それでどんくらい金貯まったんだ?目標金額みたいなのあるだろもうすぐ達成できそうか?」


 「いや全然……社会って厳しいですね……」


 決まった……完全に空気がどんよりしてきた。正道さんは気まずかったのか水飲み過ぎてウォーターピッチャーのおかわり頼んでるしキュータ君は伸びもしない自分の爪をいじり始めた。この気まずい感じが好きな私は必死に笑いを堪える、すると空気を変えようと思ったのか正道さんが手を叩き大きな音を出す。


 「あ……あのそこで本題なんですけど!加護さんもっとお金稼ぎたくないですか?」


 「やっぱり夜の仕事のスカウトじゃないですか!やめてください」


 なんか嫌な予感がして思わず冗談で返してしまった。


 「いや違いますよここまで説明してまだそんなこと言ってるんですか?俺と一緒に行ってみましょうよ!」


 嫌だそこから先は聞きたくない無意識に耳を手で塞ごうとする。


 「悪霊退治に!!」


 絶対嫌だ幽霊なんて見たくもないし関わりたくもないすぐ断ろうとしたが正道さんのまっすぐキラキラした目を見ると断ることに罪悪感を感じてしまう。


 朝日が差し込むファミレスの店内に、キラキラ輝く目で見てくるイケメンとおっさんみたいな声の子供の喜ぶ声。断りたいのに断れないむず痒さを感じながら、胡椒まみれのハンバーグを食べ嘔吐くおじさんの苦しそうな声が頭に響く。今まででいろいろ嫌なことがあったが今日が人生で一番最悪な1日の始まり方だった。

初めて小説を書いたので読みにくいとこなどあるかもしれませんがどうか温かい目でお読みしてください。

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