村人A、下心を持つ
ブクマ、評価、いいねなどありがとうございます。誰かが見てくださっているんだな~と思えて嬉しいです! 完結できるようにコツコツ書いていきます。
追い出したかったのは山々なのだが、勇者(自称)は現在俺の家で食卓にお座りになっている。
早く帰れよ…と思い、せめてもの抵抗にお茶ではなく水を出してみたのだが、全然意味が無い。
白く男のわりには華奢な指だ。あまり戦士らしくないな。
勇者だと名乗ったがいよいよ怪しくなってきた。
俺のぶしつけな視線を意にも介さず、水を優雅に飲み干した勇者はキッと顔をあげた。
おお、なんか、キリッとしたイケメンって迫力が増すな。
「と、いうことで、改めて問いたい」
と、勇者が言う。
「はあ」
「なんだそれは」
だからさ、それって失礼じゃね?
ワタゲが勇者の指の先でくぁぁあとあくびをする。
「え、猫ですけど」
「そんな猫がいるか!」
「え…」
「えっ…?」
「あっ、可愛過ぎる猫?」
「違う!」
なんだこの勇者は……。
全く話にならない。
先に進まないぞ。
「いやあ、お話は分かりました。うちのワタゲが猫じゃなくて、犬に見えなさると。まあ、そんなときもありますよね」
「待て! さりげなく立ってお出口はどうぞあちらです感を出すな! まだ話は終わってない」
「こちらは終わったんですがね……」
「分かっているのか? それが何か分からないが、魔法が使える愛玩動物も家畜も存在しない」
おお、そうなのか。
わりとこの世界は何でもありだと思っていたが、確かに婆ちゃんの猫は魔法使ってなかったもんな。
「可能性としては魔物か、人間にある種の呪いがかけられているか、個人の意思で変化の術を使っているか。3つのうちのどれかだ」
「え! ワタゲが女の子の姿になるかもってことですか…!?」
どうしよう、絶対うちの子美少女なんだけど。
いや、お色気むんむんのセクシーお姉様かも……?
「……何を考えてるか手に取るように分かるが、落ち着け。ここに解呪の腕輪がある」
「ほお? 解呪というと呪いが解けるってことですか」
「ああ。これを身につけると呪いが解ける。もしくは効果が弱まる。神官の解呪には劣るが、一時的には十分だ。さて、これで確かめてみよう」
「セクシーかキュートか、ってことをですね」
「ちがう。まじめな顔で言うんじゃない。その……君のペットが人間なのかどうかをだ」
勇者がワタゲの額に腕輪を近づけた。
赤い宝石が光り、ワタゲがゆっくりと目を閉じる。
おお……!?
「……」
「……」
「……何も起こらないな」
「……そのようですね」
ワタゲがくあーっとあくびをした。
魔物か。
こんなにかわいいのに魔物。
「と、いうことは魔物だってことだ」
何かいやな予感がする。
ワタゲがバッと立ち上がった。
「魔物は討伐対象だったな」
「え、あんた本気で言ってます?」
ワタゲが牙をむく。
うわ、あんなに唸ってるの初めて見る。
ちょっと怖いけど獣っぽくてかっこいい。新たな一面だな。
「冒険最初の腕試しといこう」
勇者が剣を抜こう……としたが、室内だと気付いてやめたようだ。
わりと育ちが良いんだろうな、この人。
「……外に出ろ、魔物よ! この勇者、ブライトが相手になろう!」
と、言って勇者は外へかけだして行った。
俺は立ち上がり、そっとドアを閉めて、かんぬきをかけた。
グッバイ、勇者。