旅人B、驚愕する
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旅人B、もとい、勇者ブライトは吐き気に襲われた。
あまりにも変だ。
「なんなんだ? この村……?」
何の変哲もない村の入口だ。
特別に物を売っているわけでもない、宿屋と畑しかないような凡庸な辺境の村。
だけど、まだレベルは低くとも、勇者として生まれた身。
選ばれし者の勘が告げていた。
この村は何かがおかしい。
例えば、村の入口に小さな畑がある。
普通なら旬の作物が植わっているはずなのだが、なぜかこの一角だけまっ黒焦げだ。何も映えていない黒土は、ある種異様な存在感だった。
いや、それだけならまだしも、畑のそばの木の皮が無惨に剥がれていた。大きな獣が引っ掻いたような跡だ。
ここは確かに辺境の村だが、モンスターは弱い。いや、弱小だ。
更に村や街はモンスター避けの結界をはっているので、基本的には中にモンスターが侵入してくることはないのだ。しかし、あの木。
「あれは、絶対魔物の攻撃跡だよな…」
そして、気になることがある。
宿屋の裏手にある何の変哲もない家。
門構えは実に普通だ。
だが、ドアの横に謎の草が植わっている。
そして、庭にある木が不自然に折れている。雷が落ちたのか? あんな折れ方するか?
ドアにもよく見ると謎の傷跡がついている。宝箱があるが、ミミック?赤い謎のペロペロが見え隠れしている。
極めつけは家を囲う柵が二重になっているし……。
この家は怪しい。
関わるな、という警告を本能が出している。
宿屋に向かおう。
そして、こんな変な家のことは忘れて、すぐに寝よう。
そして、何事もなかったように出立しよう。
これから勇者としての、輝かしい冒険が始まるんだ。
(あっ……)
そんな最中、該当の家のドアが開いた。
「おい、待て! こら、泥だらけなんだから風呂に入らないと駄目だって……」
中からは屈強な戦士
……ではなく、平々凡々な若者が出てきた。
よっぽどの童顔でなければ、十代後半の少年だろう。
慌てた様子だ。
(ペットの犬か、いや猫か……って大きくないか!? え!? 何だあれ、虎!?)
ドアから飛び出てきた獣が庭先に走って出るやいなや、ありえないことが起こった。
ザバアッ
(フラッシュフラッド!? 単体の攻撃水魔法!? 何だ!?)
ブワァッ
突風が獣を包む。
(エアリアルウィンド!? 風魔法だと?)
「あー、ワタゲさあ、そういうのだめ、セルフでやろうとするのだめ。俺はちゃんと湯も沸かして石鹸だって用意してるのにって、あーあーあー、ほら風邪ひいちゃうってば」
男と獣の間に業火が立ち昇る。
(ヘルフレイム!? いや、フレイムウォールか!? どちらにしてもありえない、三属性の魔法なんて)
「ワタゲー、炎にあたったから大丈夫とかじゃなくてさ、たまにはちゃんと風呂に入ろうって」
「がう…」
(いや、鳴き声が完全に猛獣のそれじゃん!!)
「猫が風呂に入るのを嫌がるのは本能なんだろうけどさ、ちゃんとブラッシングもしてやりたいんだよ。飼い主としては。ワタゲ毛が長いんだから、猫は身繕いとかするんだろ」
「猫じゃないーー!!」
気付いたらブライトは叫びだしていた。