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村人A、猫の世話をやく


翌日、目が覚める。

朝日と共に自然と意識がはっきりとしていく。

変わらない天井。

変わらない俺。

何も変わらない朝の隅に、白い毛玉が丸くなっていた。


餌はあまり減っていなかったが、ボウルに入れておいた水は空になっていた。

どうやら夜に飲んだようだ。


「おはよう……綿毛?」


具合はどうだろうか。




綿毛はゆっくりと立ち上がった。


思ったように大きい。

山猫ってこんな感じ?

いや、山犬か?


とにかく綿毛は俺に見せつけるようにあくびをした。

牙がしっかりと見えて、こんなのでもちゃんと獣なのだと思える。


綿毛には外傷はほとんど無かった。

空腹だったのかもしれない。


キャットフードを食べない、となると、うーん……。




ぐるる、と腹が鳴って、俺は自分がまだ食事をしていないことに気付いた。


「あ、そうだ。おまえも一緒に食べるか」




野菜だったらそんなに悪いことにはならないだろう。

いや、ネギ類は犬猫に食べさせたらだめっていうのを聞いたことがあったな。

じゃあ、にんじんや小松菜だけにしよう。


ほんとなら米を入れて粥にしたいけど、この世界で米は見たことが無い。

いつかチャレンジしてみたいな。

とにかく今はあるもので……昨日の残りのパンを見つけた。

これがちょうどいい。





鍋に材料を入れて、かまどにくべる。


キノコを水につけておいた物を、汁ごと入れるのがポイントだ。アイテム袋(これは便利なので冷蔵庫代わりに使っている)から出した魚をほぐして入れる。隠し味にチーズを少しだけ。

綿毛がそわそわし始めた。

自分用には塩を入れて、味を整える。


「よし。食べよう」



皿にパンがゆを入れて、眼の前に置くと、綿毛はくんくんと匂いをかいで、おそるおそる口をつけた。

一口食べて、


「ァウッ?」


と、目を見開くやいなや、すごい勢いで食べ始めた。




「……ふ、ふふ、そんなに急ぐなよ」


必死な様子が可愛い。


ずいぶんと魚が気に入ったようだ。

と、いうことは猫?なのだろう。

でかいけど。


綿毛はペロリと口端を舐めて、満足そうに横になった。



疲れも溜まっていたのだろう。

食べ終わるとすぐに眠ってしまった。



俺は足を伸ばして横たわった綿毛の姿を横目で観察した。


毛が長く、手足が生えた綿毛にしか見えない。正直、この世界の動物は自分の前世の常識で推し量れないので、もうだいたい猫だろ……。



だけど、脚は太くて肉球や爪も大きく、まるで武器のようだ。


耳は三角?丸?長い毛に隠れていてよく見えないけど、寝息に合わせてピコピコ動く。

風呂に入れて、ブラッシングをして少し整えてやればキレイになるのではないだろうか。



その日、畑仕事から帰ってきた俺がドアを開けると、綿毛が待っていてくれた。


「おお、かなり元気になったな!」


この世界には湯浴みの文化がなく、水で汗を流す人間が大多数だ。水道の文明はあるようで、蛇口から水は出てくるのだが、でも、さすがに元日本人として、お湯を使いたい…!


そう思った俺は、大きな桶に水をためて沸かした湯を足すようにしていた。ぬるいが、冷水よりはましだ。



そして、手作り石鹸で体の汚れを落とす。石鹸は油とアルカリ性のもので作ることができる。ここは草や木を燃やし放題なので、灰には困らなかった。

形は歪だけれど、一応石鹸としての用は足せる。

うーん、生前は思わなかったけど、理科の教員で良かった…。




綿毛は訝しそうに風呂を見ていた。


「ほーら、大丈夫だよー、おいでおいで」


久しぶりに言葉を交わす相手、いや交わしてはないんだが、がいるっていうのは、気恥ずかしいような思いがした。


だけど、綿毛に石鹸をつけた瞬間、そんな余裕は一切無くなった。


得体のしれないぬるぬるをつけられた!とパニックになった綿毛が、俺に抱きついてきた。


「わー! ちょっと待てって……うわぁっ、さっき俺は洗ったのに、ま、ちょ、うわあああぁぁ」




結局、自分も洗い直した。


だけど、ふわふわになった清潔な綿毛はなんとなく嬉しそうに見えた。



「うーん、しかし、ふわふわになるともっと綿毛みたいだな……いや、ケセランパサラン……? モップよりかはケセランパサランっぽいな……よし、おまえの名前はケセランパサランに」


「がう……」


「え、どうした? 今日イチで悲しそうな鳴き声……もしかして嫌なの?」


と、いうことで、猫(?)の名前は「ワタゲ」に落ち着いた。

ふわふわした白い毛は、THE 猫という感じだ。

ちょっと大きいけど、個体差があるっていうしな、こういうのは。



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