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猫を飼い始めたら人生変わった話  作者: 丹空 舞


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暗殺者D、告白する


暗殺者はゆっくりと目を開け、深呼吸をした。


「なぜ……」


俺は暗殺者の顔を見ながら言う。

「お前にききたいことがある。正直に答えろ」


暗殺者は抵抗しなかった。

「俺は負けた。一度死んだ身だ。今更どうなったとしてもかまわん」


潔いな。


「魔王がいないってどういうことだ」

と、直球で俺は尋ねた。


「言葉の通りだ。魔王城にはもはや魔王はいない」

「滅ぼされた?」

「ああ。それを知らないのは温室で育った王子様だけだ。お前たちは知らなかったのか」


いや、ここにいるのは、情報最弱者の村人Aなので。

俺も知りませんでした……。

「いや、でも、カロさんは?」

「え? 兄貴、俺は興味あることしか覚えてられません! あと『さん』は要らないっす!」


爽やかに言い放つカロさん。

知るとか知らないとかの枠外にいるな、この人。



ブライトが一歩前に進み出た。


「誰に頼まれた」

「……」

「言え」

「王だ」


王?


「ちょっと待て」

俺は思わず口をはさんでしまった。


「ブライトって王子なんだろ? 王って、だって王って……」

「父上か?」


ブライトの質問に、暗殺者は冷淡に

「ああ」

と答えた。



「勇者ブライト。いや、王太子ブライト。正義感が強く、勇者の素質をもったあなたを旅に出す必要があった。それは強くなりすぎてしまう前に、王があなたを消さなければならなかったからだ」

「そんな……」

「この王国は……秘密を抱えている。勇者がそれを解き明かすのを止めなければならなかった」


王国の秘密。

何だ?


「俺は影の一族だ。ブライトのことも知っている」

「え!?」


ブライトはちょっとひいていた。

公式ストーカーみたいなもんだもんな。

無理はない。


「影の一族は王族を影から見守る存在だ。認識されてはならないし、表向きにはないものだとされている。俺たちは王族に従う存在だ。従わざるをえない」

暗殺者は感情のよめない瞳で言った。


「影の一族からは一族の中で最も力のある者が『よりしろ』として選ばれる。今は俺の母だ。『よりしろ』は王城にとらわれ、影の一族が反乱を起こせば処分される」

「しょ、処分って、殺されるってこと?」

驚く俺。

「そうだ。だから俺たちは逆らえない」

淡々とした暗殺者。

「なんでそんなくだらねぇ掟があんだよ」

柄の悪い不良。


「もともとの影の一族の先祖は何も持たない、村はずれで暮らすような弱者だった。かつての王族はそこに目をつけて、鍛え上げた。それで契約を結んだんだ。『よりしろ』を人質とし、絶対的な忠誠を誓わせた」


うわあ。

王族えげつなっ。

母親を軟禁されて、この子も苦労したんだな。


ブライトがすごく微妙な顔をしている。

あの様子だと知らなかったんだろうな。


暗殺者が言った。

「俺は……ダミーという。これまで命じられたままに行動してきた」

「お母さんは王城にいるんだな。お父さんは?」

「父は俺が産まれる前に亡くなった。今は兄が一族の長をしている」


俺はなんだかかわいそうになってきた。

でも、ブライトはそうじゃなかったみたいだ。

「命じられたらお前は他人の命を奪うことができるのか」


いつになく、怒っている。

正義感の強いブライトらしい。


「これまではそうしてきた」

淡々と言うダミー。

「だが、それもこれで終わりだ。俺だって……殺したくない。これでようやく解放される」


年若い顔に初めて笑みが浮かんだ。


「暗殺を命じたのは王だ。息子を……勇者ブライトが力をつける前に殺せと。だから最初の村にドラゴンを送り込んだ」


あー! あれ、おまえらかよ!

ワタゲに冤罪をきせるところだった。

ミミック関係なかったじゃん。


「だが、その後仲間を手に入れて出立してしまい、我々の想像するスピードよりも速く進行してしまった」


ワタゲが無双したからだな……。


「ダンジョンに魔王なんかいない。王は王の秘密を守るために、勇者を消し去りたかったんだ」


ブライトの涙が溢れた。

「俺は……俺は父上を……殺さなければならないのか?」

「ブライト……」

「すまない、ちょっと一人にしてくれ」


ブライトはたいまつ一本を持って、森の奥へ消えた。

まあ、あいつ強いし体は大丈夫だろ。

心の方が心配だけど……。


「さあ、これで俺が知っていることは全てだ。殺せ」


えー!

物騒!


「いや……殺しませんよ……」

「えっ!?」

「えって、カロさん、なんなの……そもそも寿命ってのがあるんだからさ、生き物は。そんなに生き急がなくたっていいじゃない」

「さすが兄貴ィ! 深いお言葉、感じ入ったッス」


ダミーはうつむいた。呆然としているようだった。

「……だが、生かされたとて、俺にはもう」


うーん。

そりゃそうだよな。


「ほら、それならさ。死んだつもりで生きてみたらどうだ。名前も変えてさ。ダミーっていうのはやめて……ほら、ディノスっていうのはどう? えーと、どっかの国の言葉で『ください』って意味なんだって」

「ディノス……」

「俺はまだ君のことよく知らないけど、たぶん今までたくさん我慢してきたんだろ? もういいんじゃない? これからは欲しいものを欲しいって言ったっていいし、そのために動いていいんだよ。なあ、そう思ったら少しは気が晴れるんじゃない」

「……」


評価・ブクマ・お星様などありがとうございます。細々と最後まで書いていきたいと思います。

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