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猫を飼い始めたら人生変わった話  作者: 丹空 舞


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勇者B、名を遺そうとする



うちのワタゲが採ってきたミミック入り宝箱が原因でドラゴンがわいた。


そうなればこちらにも責任はある。

飼い主責任だ。



と、いっても、俺はレベル1スキル無し最弱のモブだ。

できることがあるだろうか……。



あのうるさい自称勇者が無駄に整った顔をこちらに向けて言った。



「いいか。このあと僕が先に外に出る。君とペットは俺がドラゴンと戦っている間に、他の村人を連れて遠くに逃げろ」

「それは……」

「僕だってレベルはまだ低い、冒険に出たばかりの勇者だ。だが勇者と名乗る以上、死んでも勇者だ。村の危険をそのままに逃げるわけにはいかない」

「何も死ななくても……」

「いいか、僕にかまうなよ。そのペットとやらと達者で暮らせ。そして、君だけは勇者ブライトが存在したことを覚えていてくれ……いざ!」






キッと扉を見据えて、飛び出していく勇者は蛮勇に思えた。

うーん、眩しい。


うるさいし、しつこいし、きざったらしいし正直俺とはタイプが全く違う。

でも、嫌な奴じゃないようだ。





「グゥ……」



ワタゲが鼻先で俺の肘をおしてきた。分かったよ。


でも防具がない。


とりあえずなべのふたを持った俺は、扉を開けて外に出る。






勇者は苦戦していた。



「ファイヤーボルト!」


勇者の剣先から炎と雷がほとばしる。

銀色の剣の刃が陽光にきらめき、勇者はよく訓練された動きでそのままドラゴンに斬りかかった。

おお、口だけの自称勇者ではないのか。


「ギャアアアアアアアオオオゥ」


ワタゲの十倍はあるだろう、巨体のドラゴンが吠えた。


「き、効かない……」


勇者が絶望したように言った。

物理攻撃が効いていない。

きっと皮膚がものすごく硬いのだろう。


それに、どうやら炎はドラゴンを強くしてしまうようだ。

ドラゴンが息を吸い込む。

あ、これはまずい。


「ブライト!」


俺はなべのふたで頭を守り、勇者の名前を呼んだ。


「逃げろ!」


ブライトは俺に顔も向けずに怒鳴った。

格上の敵と戦わなければならないとき、勝ち目がないのに、最後まで戦意を失わずにいることができる者がどれだけいるだろう。


どうする。

どうすればいい。


迷っている暇もなく、ドラゴンは火炎のブレスを吐いた。

目の前がオレンジ色一色になる。

ああ、終わった。

二度目の人生はドラゴンに焼かれて終わってしまった。



三度目があるんだろうか。

次の人生があるとしたら、もう少し強くなりたい。

最強じゃなくていいし、勇者でなくてもいい、イケメンじゃなくていいから、せめて自分と大切な者を守れるだけは強くなりたい。


ワタゲは大丈夫だろうか。

……。


村の婆ちゃんや猫は大丈夫だったかな。

無事に逃げていますように。


……。



長くないか。さすがに。

視界が開けた。


「ギャォォォ」


ドラゴンが吠える声が聞こえる。

なんだ?



生きてる。

腕も足も焦げてない。

え? あの火炎の直撃で? どういうことだ?


ブライトも俺と同じ現象が起こっているようだ。

キョロキョロ周りを見ては首をひねっている。



と、突然ゾクッと悪寒が走った。




「ウウウゥゥ……」




ワタゲが牙をむきだしにして唸っていた。


白くもふもふした毛が逆立っている。


ワタゲの瞳の金色の光が濃くなっている。


よく見ると俺の周りにも同じ色の光がある。

体を膜のように包んでいる。

もしかして、ワタゲが?




ワタゲは俺を飛び越えて、ドラゴンの前に躍り出た。


殺気を隠そうともしていない。



「待て!ワタゲ!危ない」




俺はなべのふたを握りしめて、ワタゲを連れ戻しに行こうと走り出そうとした。


その時だった。






ドラゴンの頭上に黒い煙が渦巻き始めた。

そして、一瞬の後、滝がそのまま落ちてきたような水流がドラゴンを直撃した。



「アクアレイン……単体の水魔法だ……」


もはや解説役となった勇者ブライトが呟く。

この人いろんな魔法知ってるんだな。



というか、ワタゲからさっきからビシバシ殺気が漂ってきて怖い。

それ以上にうちの子が怪我しませんようにという思いもある。


「ギエェェェェ」


ドラゴンが息を吸い込み……吸い込もうとしたが、執拗な水攻撃のためにできないようだ。

水が効いた、と思ったのか、ワタゲがにやりと笑ったような気がした。

いや、まさか、そんな、なあ……。



ワタゲが飛び上がり、ドラゴンに向かっていった。

あ、やめろ、ワタゲ、おまえが怪我でもしたら--。


ワタゲの爪がぱんぱんのクッションでも裂くかのようになめらかに、ドラゴンの皮膚を切り裂いた。


「あ……」


ワタゲの牙がドラゴンの首の後ろに刺さる。

俺を甘噛みしてるときとは雰囲気が違うっていうのは分かる。

え、俺、あんな凶器をいつも当てられてたの?


牙を刺したままドラゴンにしがみつくワタゲの眼が光る。




すると、あら不思議。

ドラゴンが、凍りました。





……えーっと?


理解が追いつかない。


こんなときは横を向く!


ごくり、と唾を飲み込んだイケメンがいた。





「ま、まさか、牙を通して魔力を流し込み、ドラゴンの体内の温度のみを下げた……? 絶対零度アブソリュートゼロを体内で発動させるなどそんなことが可能なのか!?」



うーん、わかりやすくてありがたいな……。



そして、身を翻して地に降り立ったワタゲは、今度は眼を朱く変える。

ワタゲの周りを包む空気が揺らいだかと思うと、炎が皿のように薄く出現し、まるでフリスビーのようにドラゴンに向かって飛んでいった。

あ、これは俺にも分かる。アイスケーキを熱したナイフで切るようなものだな。

つまり……。




「絶対零度で凍り付いたドラゴンを、炎戦輪ファイヤーブレードで両断する……!?理論は分かるがそんなことが……」



もう、ブライトがうるさい!




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